第十五章『日ノ本と大陸で起こった不可解な事件』その③
納得のいかないまま作戦会議が終わりを告げ、渋々といった様子のまま準備をするミョルエル。
そんな姿に申し訳なさそうな表情で依李姫はミョルエルへと制服を手渡した。
「理解はしています。ですが感情がとてつもなく嫌がっているのです。そのあたり理解しているのですか太郎」
受け取った制服の袖に腕を通しながら自身に背を向けて座っている雷神の子へと問いかけるミョルエル。
何故学生をしなくてはならないのか?―その問いかけの口論の末、雷神の子が『雷神』の名とそのすべてを受け継ぐまでの呼び名として『依李姫大好き太郎』と称し、その略名として『太郎』と呼び始めた。
最初こそ声を荒げその呼び名を拒絶していた雷神の子だったが、呼び名のない事を不便に思っていたと明かした依李姫の一言によって、顔を歪めながらも渋々と太郎と呼ばれることを承諾する。
「俺もその呼び名には不満があるわたわけ。だがそれを承諾せねばお前は此度の一件を承諾していないだろう?痛み分けという奴だ。気持ちを切り替えて励めよミョルエル」
「何が痛み分けなのですか。納得がいかないのは何も学校へ行くことが決定した事のみではないのですよ?」
「おかしなことをいう奴だな。他の何に不満があるというんだ」
そう顔だけを向けた雷神の子―改め太郎だったが、頬に魔力の弾丸を掠めた事に焦った様子で顔を戻しては、その魔力の弾丸を放った人物へと鋭い視線を向けた。
「良い腕だなエーテルガンド。だが次はないと心得ろよ?」
「黙れ。未だ神にも成っていないお前に許しは請わない。ミョルの神秘たる生まれたままの姿を拝見することなぞ私が許さん。依李姫様大好き太郎こそ、次はないと心得ろ?」
額をぶつけ合うほどの近距離でガンの飛ばし合いをする太郎とエーテルガンドの脇を抜け、エクスカリバーがちょうど着替えを終えたミョルエルのいる部屋を覗き込んだ。
「それで何が―おっふかわいいなおい―不満だというのだミョル?」
「何でもなかったかのように質問し続けないでくださいよ…。不満というのは、何故エベレスト山ほどに頗る高いプライドを持った太郎が、自身の呼び名と引き換えにするかのように私を学校へと行かせたかったのか―ということです。私の勘が正しければ、何かありますねこれ」
詳しくはわかりませんが、と付け加えたミョルエルは具合を確かめるかのように身体を動かし、よしっと小さな声を吐いては見せびらかすように依李姫へと可愛らしいポーズを取って見せた。
するとカメラを構えては親ばかの様に黄色い声をあげながら様々な角度でシャッターを切る依李姫。
しばらくそんな状況が続き、ふとミョルエルが何かに気付いた様な仕草を見せ、依李姫とエクスカリバーは小首を傾げた。
「…この制服なのですが、気のせいでなければ何処かで見た覚えがと」
「あ~そういえば言ってませんでしたね。ミョルちゃんとメレちゃんが一時入学するのは、少し前にミョルちゃんがお説教した有希さんと咲さん、そして夢莉さんがいる学校ですよ」
「何故お説教と強調したのです…まあいいか。それでメレルエルは着替えられたのですか?」
そうすぐ隣の部屋の隔てている襖へと声をかけたミョルエルだったが、少し間を空けてから開いた襖の奥には少し疲れた様子でメレルエルは佇んでいた。
「…一体どうしたというのです」
「聞かないで…本当に疲れたから」
着衣したはずの制服やそれに合わせて結った髪はわずかに乱れ、メレルエルの後ろでは妙につやつやした様子のイシュタルもといアスタロトと、ミョルエルとメレルエルと同じ制服を着たアラドヴァルが見えたことでミョルエルはある程度の事情を察した。
「…まあよかったのではないですか。私から見ても、とても可愛らしいですよメレルエル」
「そう、ありがとう。なんかちょっとだけ心が軽くなった気がするわ」
「さて入学前にもう一度すり合わせだ。いいな三人とも」
太郎が確認を取る様にミョルエルとメレルエル、そしてアラドヴァルへと視線を向けては問いかけると、律儀にミョルエルは手を挙げて視線が合ってから口を開いた。
「それは構いませんが、どうしてアラドヴァルも入学することになっているのです?」
そう素直な疑問を口にしたミョルエルだったがどうやらそうではないらしく、太郎はそれは少し違うなと疑問に対する答えを口にした。
「正確にはアラドヴァルは既に在籍している生徒、ということになっている。そしてミョルとメレルの二人は転校生。諸事情によりミョルだけは別のクラスに転入、ここまでは理解できたか?」
「諸事情というのには少し引っ掛かりますが、まあ概ね大丈夫です。アラドヴァルが在校生というのも何となく理由は察せますし…」
「なら大丈夫だな。そしてこれまた諸事情で、ミョルが転入するクラスはお前の知り合いである有希と咲、そして夢莉のクラスだ。一人ぼっちにならなくてよかったな」
「あーうざいうざい。どうでもいいので話の腰を折らずにぱぱっと話してくださいよ」
此処とぞばかりに優しい顔つきで言った太郎へとうんざりそうに告げたミョルエルに対し、「そうか」と心なしか落ち込んだ様子で告げた太郎は一度咳ばらいをしてから話を再開する。
「さて、最初の被害者が在学していた学校に行ってもらうわけだが、その最初の被害者はミョルが転入するクラスにいる倉原という男子生徒だ。緊急事態だった為、城崎の元へと連れて行き治療をしたのだが有益な情報は得られなかった。当の本人も心当たりがあるわけでもないらしく、その症状に至るのも唐突だったそうだ」
「魔力縁の痕跡すらも無かったのですか?」
「あぁ何も無かった。俺と城崎の二人掛かりで見たからまず間違いはない」
そう力強く断言した太郎だったが、その場にいる太郎と依李姫を除いた全員が表情を崩していた。
その中でもげんなりしてからすぐに神妙な表情を浮かべたメレルエルは、手を自身の顎に当て申し訳もなさそうに太郎へと疑念を投げかけた。
「何とも微妙に信用性がないわね太郎と城崎じゃ。風子さんは一緒に見なかったの?」
「心外極まれりだが風子には席を外させた。何しろ裸に引ん剝いたから。嫁入り前の妹に好いてもいない野郎の裸を見せるわけにはいかん」
「変なところでシスコンなのですから…とにかく了解です。転入時には倉原という人物から事情徴収するところからですね」
「事情徴収て…それにしてもその倉原って奴は中々に気の毒ね。どうせ太郎も城崎も強面な顔で見てたんだろうし、さぞかしショッキングな光景だったんでしょうね」
「私ならその場から即座に逃げ出すでしょうね。大の大人二人に囲まれるとかどんな経験かって話ですよね全く」
そうミョルエルとメレルエルがケタケタと笑い合っているのを前に太郎は額に青筋を浮かべていたが、これ以上話が逸れることを嫌って怒りを沈めては落ち着いた声色で話を戻した。
「何はともあれだ。その倉原に始まり、症状の重さに違いはあれど軽視できない人数がその学校内から出てしまっている。流石に何かあるのだろうが、表だった調査がしにくくてな。夜間に校内に入ってもこれといった収穫はなく、何ならその次の日には同じ症状の生徒が出てくる始末。故に人間の我らではなく天使のお前たちに白羽の矢が立ったというわけだ」
「しかし転入ということは人に成りすましての捜査するということですよね?…わざわざそうするってことはもしかして―」
「そのもしかして、だ。もしこの事件を引き起こした犯人が居るのなら見つけられる確率がぐんと上がる上、お前らを囮にした捜査もできるという一石二鳥な作戦だ」
「二兎追う者は一兎をも得ず、ですよ」
「それは一人でやる場合の話だろ。少なくとも校内に三人、学校周辺に三人の計六人体制だ。…といっても、その他の場所でもしものことがあれば周辺に配置している者達に対処してもらう為過信は禁物。お前たち三人は何が何でも校内で何かを掴んでもらう」
「責任重大ね。これで取り越し苦労にならないといいんだけど」
「無ければ無いでいい。そう判断できるだけの材料が判明出来ればな。まあ俺も依李姫もほぼ確実に事件解決の手掛かりがあると踏んでいる。十中八九取り越し苦労にはならないさ」
太郎の真っすぐな言葉と依李姫の頷く姿にはミョルエルとメレルエルは押し黙る他になく、その二人の天使の様子を太郎は承諾と受け取った。
「異論がなければ始めるとしよう。期待してるぞ天使諸君」
そう切り上げてから部屋を後にした太郎は他の英雄気質達の元へと赴いたのを見送ったミョルエルは、渋った表情を浮かべていたメレルエルを立たせ重い足取りで外へと向かう。
「ではいってらっしゃい三人とも。早期解決は確かに必要だけど、結構長丁場になる可能性があるから頑張ってね!」
―と、楽し気な感情を隠せずにいる依李姫に見送られ学校へと足を進ませた。
さて次からは学校生活!
ミョルエル、メレルエル、アラドヴァルの三人は果たして事件解決の糸口をつかめるか?
次の投稿は11/26(水)となります
お楽しみに




