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天使のパラノイア  作者: おきつね
第十四章
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第十四章『求められるはその力』後半その㉔

前回、十四章完結までは長くなるといったな

ありゃ嘘だ っというよりめっちゃキリがよかったので止めました

じゃないと二万文字を超えるかもとか思ったからです

はい、たぶん超えません 嘘ばっかだな

「真神様…グレスの堕天化が…」


「皆まで言わずともわかっている。…しかしまあ、何とも危ないことを。出来る事なら二度と聞きたくはないものだ…愛娘の悲鳴など」


 溢れんばかりの嬉しさで僅かに涙を流しながらに言うサリエルの頭を撫で、もう片方の手で自身の顔を覆い隠した真神は静かに涙を流す。


 アラドヴァルとフェイルノートが行なった方法によって、堕天している者―ミョルグレスに絶大な負担と痛みを与える代わりにその力を失せさせる結果をもたらしたが、このような荒業を成すには触れた魔素をマナへと変換させる『神器・美麗神剣』が必須であり、堕天している者の戻りたいという確固たる意思が必要となる。


 それらを知っていたはずの真神が実行しなかった―出来なかったのは、一重に苦しむミョルグレスの姿を見たくはなかったというものではあるが、自身の『神』という立場から根深く干渉でき得なかったというものがある。


 堕天とは、その多くが神に仕え忠を誓う天使が神に対しての反逆心を抱く事で起こり得る現象。


 ミョルグレスが堕天するに至った最も大きな理由はミョルエルへの劣情であることに変わりはないが、その燻りを熾したものは他でもない神である真神の存在であり、何もしようとしなかった真神に対する反逆心が着火剤となりミョルエルへの劣情という炭の山に火を灯し、結果としてミョルグレスを堕天へと至らせた。


 神である者、堕天を正すことはなく、死を以て償わせる者である―いつしかそう、覆しようのない概念を植えつけられているが故に真神は行動を取る事が出来ず、信頼を置くミョルエルには拒否されたからこそ長期間をかけての堕天化解除という苦肉の策を取らざるを得なかった。


「全く…さて、あのバカはどんな顔をしてるかな」


 そう真神が視線を向けた先では、嬉しそうにしつつもどこか傾げな表情を浮かべたミョルエルの姿があった。


「…それ、どういう感情?」


「見てわからないのですか、嬉しいという感情意外に何があるのですか」


「だったらもっと嬉しそうにしなさいよ。今のその顔…早めに止めてよね。調子狂うから」


「おや、であるのならずっとこうしていましょうか?そうすればもっと楽に勝てそうなので」


「おうおう、ならそのままでかかってきなさいな。さっきとは既に違う表情でやりやすいことこの上ないわ」


「…今はまだ、少し待ってください。妹たちの戦いを…見届けたいのです」


 下ろしていた槍を構え挑発的な笑みを浮かべるメレルエルから視線を逸らし、ミョルエルは晴れ晴れとした表情でいるミョルグレスへと視線を向け、憂いの感情を浮かべる。


 そんなミョルエルへと言葉をかけることはおろか、攻撃を仕掛けることすら憚られ構えていた槍を再度下ろす。


 そしてミョルエルと同じく視線をミョルグレスへと向け小さく言葉を溢した。


「…良かった。本当に、…良かった」




 堕天による影響で僅かに黒化していた背中の翼は純白に、僅かに欠けていた光輪は一つの欠けも綻びもない綺麗な円を描き、光を失っていた瞳には―


「…良かったね、ちゃんと戻れて。心配だった、不安だった…だけど、成功して本当に良かった」


「うん、ありがとうなアラドヴァル。これで、心置きなく戦える」


 ―希望に満ちた光が灯り、もう迷わないという確かな決意が見て取れた。


「そうだね。これでようやく対等だ。もう―手は抜いてあげないよ」


「当然だ。グレスも一切手を抜かない。…フェル!エクスマキナ!」


 そう呼びかけられることで立ち上がったフェイルノートは涙を拭うと自身の手にマナを集中させ、エクスマキナは全身に膨大なマナを纏い始める。


「…私は貴方達と違って戦闘タイプじゃないんだけど、付き合ってあげる。時間稼ぎくらいなら、私にも出来るだろうから」


「多分その必要はないと思うぞ。さっきからミョル姉とメレルエルに動きはないからな」


「―だとしてもだよ。二人には何の憂いもなく全力で喧嘩して欲しいし、何よりも私がそれを見届けたいって思ってる。これまでも、これからも」


「…だな。グレスも何となく、そう思う」


 互いに思い浮かべる先を見据え笑顔を浮かべ合い、そして―


「…じゃあおしゃべりはおしまい。全力で勝ちにいくぞ、アラドヴァル」


「当然。まあ私は戦いでは勝てないだろうから、…貴方達相手に10分粘れば私の勝ち。それでいい?」


「あぁいいぞ。グレスもミョル姉とメレルエルの戦いをしっかり見たいしな」


 ―その会話を最後に、ミョルグレスとアラドヴァルはフェイルノートと同じく自身の手にマナを集中させた。


「「「神器顕現―」」」「美麗神剣」「幻奏神弓」「暴熱神槍」


 ミョルグレス、フェイルノート、そしてアラドヴァルが同時にそう言葉を告げる事で、それぞれの手元に神器が顕現し始める。


 ミョルグレスの手には美しい蒼い刀身に柄頭で赤い宝石が輝く剣、フェイルノートの手には幾つもの弦が張られた琴に似た弓、アラドヴァルの手には黄金に輝く槍が顕現し終え、それぞれの手に握られる。


 そしてそれらに少しだけ遅れてエクスマキナは全身に纏ったマナを解放し、いつかミョルエルが出会った時と同じく左右ともに二本の新たな腕を生やす。


 エクスマキナはそれらの腕の動きを確かめてから変転我身によって武器を創り出し、それぞれの手に剣もしくは盾を握る。


「準備万端にございます。グレス様はお好きにお動きになってくださいませ。必ずや私とフェル様が合わせてみせますので」


「そっか。なら背中は任せた」


 満面の笑みを咲かせ駆け出したミョルグレスは暴熱神槍を構えるアラドヴァルへと美麗神剣を振るい、ぶつかり合った神器は激しく火花を散らした。


 暴熱神槍が宿している神熱の力があれど、触れた傍から神器を破壊するには至れず刀身が熔解するよりも早く美麗神剣を退かせたミョルグレスは、空を蹴ることで後ろへ跳び退きすぐさまアラドヴァルへと距離を詰める。


 先のミョルエルとメレルエルの交戦同様に、長物を持つアラドヴァルに対して優位に立つため剣を携えたミョルグレスの行動は正しく、詰められた距離を何とか離そうとするアラドヴァルの表情には苦しいものが浮かべられていた。


 それに加え、ミョルグレスの動きに合わせて射られるマナの矢は叩き落とす以外に対処することが出来ず、暴熱神槍一本では完全に対処しきることができ得なかった。

(やっぱしんどいなぁ…エクスマキナは積極的に攻撃してこないけど、常に一定の距離を保って状況を支配し続けてる。基本的にはグレスとフェイルノートだけに戦闘させる気でいるのかな?であるのなら―)


 そうアラドヴァルは一度力強く槍を振るうことでミョルグレスを軽く飛ばしてから姿勢を整えると、槍と自身の両手にマナを込める。


「フェル様!アラドヴァルへ妨害を!!」


 アラドヴァルが何を使用としているのかに気が付いたのか、そうエクスマキナが大声で発してからアラドヴァルへと距離を詰め、引き絞っていた弦からマナの矢を放ったフェイルノートだったが、自身に迫るマナの矢を叩き落としたアラドヴァルは続くエクスマキナの攻撃を紙一重で躱してから詠唱を口ずさむ。


「灼熱の閃光は、悪しきを滅し善きを照らす-神熱の閃光-」


 その言葉の羅列―言葉の初めを聞き取った瞬間に両瞼を閉じたエクスマキナだったが、アラドヴァルが神器の穂先に込めたマナは神熱の閃光となり照らし出すその全ての範囲を焼き尽くす。


 ある程度であれば身に纏うマナを増加させることで防ぐことができるが、アラドヴァルが神器から放った閃光を至近距離で浴びてしまったエクスマキナは、纏うマナの増大に関係なく全身を焼かれることとなり目や喉は正常には機能しなくなる。


 そればかりか特に身体の前身は重度の火傷を負い、僅かに動くだけでも悲鳴を上げてしまうほどの激痛が全身を駆け巡った。


「宇宙に散りばめし数多の光―」


 そんなエクスマキナを余所に、アラドヴァルが口ずさみ始めた詠唱を止めるべくマナ探知から得られた情報を基にフェイルノートは必中を付与したマナの矢を放ち、ミョルグレスもまた神器を携え駆け出した。


 だが、自身に迫るマナの矢を地面に突き立てた神器で防ぎ、痛みに苦しむエクスマキナを駆け出してきたミョルグレスへと蹴り飛ばすことで対処したアラドヴァルは、僅かに足りないマナの代わりに本来必要としない工程を挟むことで術式の行使を可能にする。


「―願い・憂い・祈りを捧げ、汝が抱く淡く儚い夢を見よ」


 アラドヴァルが指先に込めたマナで空中に魔法陣を描くという工程を経たことで術式は正常に作動し始め、アラドヴァルの上空では星空が広がり始めた。


「天界術攻衛ノ弐『原初神王の天体観測』」


 やがて展開し終えた術式はアラドヴァルの指示の下、星座を星々で描きミョルエルが考案した方法で術式を行使する。


 ようやっと開くことが出来た瞼の先でミョルグレスとフェイルノートが見たものは、頭上で広がる星空に浮かび上がった双子座の星座であり、程なくしてその星座は形を成していく。


 平面に描かれた星座から産み落とされた二人の新生児は、術者であるアラドヴァルへと触れることで新たな姿へと変わり始め、その姿はアラドヴァルと瓜二つの姿へと成った。


「なるほど、こういう風になるんだ。見たところ神器までは模倣出来なかったみたいだけど、まあ単純に取れる手が倍になったと考えればメリットの方が大きいか」


 そう言ってから神器・暴熱神槍に類似した槍を創り出したアラドヴァルは、それをもう片方の自身へと投げ渡し地面に突き立てていた神器を引き抜く。


「さて、エクスマキナはすぐには動けない。凌ぎきる事に集中すれば私一人で捌けるわけだけど、そんな私が二人になった場合、グレスとフェルの二人はどんな風に対処するのかな?」


 神器を構える二人のアラドヴァルから発せられる威圧感にフェイルノートが僅かに後ずさるも、抱きかかえていたエクスマキナをそっと地面へと降ろしたミョルグレスが浮かべていた笑みを見てから、同じような笑みを浮かべて弦を引く。


「もちろんやれるよなフェル?」


「当然。ここで引き下がれるはずもないからね」


「ふふ…いいね二人とも。そうこなくっちゃ」


 そう嬉しそうな笑みを浮かべ、駆け出してきたミョルグレスへと神器を振るうアラドヴァル。


 そんな三者の戦いが激化していくすぐ傍で、満身創痍のはずのエクスマキナが片方の瞼を静かに開いた。

次の投稿は7/2(火)です


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