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天使のパラノイア  作者: おきつね
第十四章
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第十四章『求められるはその力』後半その㉒

 最初に仕掛けたのは相も変わらずミョルエルであり、示し合わせることなくエクスマキナだけは同時に駆け出す。


 少し遅れてミョルグレスとフェイルノートが駆け出すも既にミョルエルが即座に創り出した剣はメレルエルへと振り下ろされ、激しく鳴り響いた金属音がつい今しがた響き渡ったはずの軽快な音をかき消していた。


「ま、まあミョルならそう来るでしょうね。でも少しだけ甘いんじゃない?神雷も使わないなんて」


 予想の範囲内であった為か、ミョルエルに劣らぬ速度で創り出した槍で以て受け止めたメレルエルは、強く握りしめる槍に神熱を宿らせその神熱のを以て受け止めたミョルエルの剣を溶かす。


「言うほどの事でもないけどさ―私は初っ端から全力で行くからね」


 未だ全力で剣を振り下ろすために飛び上がっていたミョルエルの身体は宙にあり―至極当然、足は地に付いていない。


 吐いた言葉通りに神熱を帯びた槍を構えたメレルエルは、ミョルエルが機動を取り戻す前に仕留めるべく音を置き去りに突きを打ち放つ―


「させはしませんとも」


 ―も、その矛先はエクスマキナの手によって狙いを逸らし空を裂き、その衝撃は観客席を守る結界にぶつかり激しい振動で空間すらも大きく震わせる。


「ふむ…やはり神熱を防ぎきることは叶いませんか。しばらくの間、こちらの手は使い物になりはしませんね」


 防熱効果にのみ意味を成すようステータスを弄って創り出したはずの籠手は防具としての役割を辛うじて全うしたが、守るべきエクスマキナの左手には感覚がなくピクリとも動かすことが出来なくなっていた。


「防具が無ければもっと悲惨な事になっていたでしょう。流石でございます…メレルエル様」


「そう?でも、その程度でほぼ防ぎきるなんて自信なくしちゃうわよ。てことで、よろしくねあーちゃん」


 その言葉に即座に反応したエクスマキナは自身の背後―肌に突き刺さるような感情を受け止めるべく阻むようにして盾を創り出す。


 直後、盾からは幾つかの衝突音―金属音が鳴り響くも、盾の形を沿うようにして這ってきた鎖は盾を出すために突き出したエクスマキナの右手に絡みつき、ミョルエルの傍から引き離すようにエクスマキナの身体をアラドヴァルの方へと強く引き寄せる。


「はーい任された」


 少し遅れて返事をしたアラドヴァルは指を弾きより強くエクスマキナを引き寄せ、突発的なことに態勢を崩したエクスマキナへと手をかざしマナを込める。


「天界術攻衛ノ参―全能神の雷」


 無詠唱での術式の行使は著しく性能を落とすが、今回はそれに見合う成果を得られアラドヴァルは嬉しそうな笑みを浮かべた。


「上々上々~それと、まだ動きにぎこちなさがあるね―グレスちゃん」


 間違いなく死角からの奇襲であったはずのミョルグレスの剣閃は、ほんの僅かな動きでアラドヴァルに避けられエクスマキナ同様にマナの込められた手を向けられ、無詠唱ではあるものの『全能神の雷』をその小さな身体にまともに受ける。


 ふふんと得意げな笑みを浮かべたアラドヴァルだったが、その次の瞬間自身のマナ探知の合間を縫ってきたマナの矢が己の額を穿った事実に目を見開いた。


「これは意外だね。まさか二人共が私に攻撃を仕掛けてくるなんて」


 よろめく身体が倒れそうになるのを堪え、額を優しく摩りながら姿勢を正したアラドヴァルはより繊細なマナ探知の術式を展開する。


「楽しくなってきたね」


 そう心底楽しそうな笑みを浮かべたアラドヴァルに対し、真っ向から対峙する位置にいたミョルグレスは背筋に寒気が走る感覚に襲われ強張った様子で剣を構え―


「楽しくはまだなってないし、なることもない」


 ―緊張した表情でアラドヴァルへと距離を詰めた。




 掛け声と共に槍を振るうメレルエルだったが、その一つでさえミョルエルを捉えられることはなく辟易とした気持ちをメレルエルは抱き始めていた。


 想定していなかったわけではない。


 試練を始める前ですらまともに攻撃を当てられることが少なかったが、それでも自身も同じく試練を踏破してきたからこそ届きうる物があるはずだと、そう思っていた―思い上がっていたのだとメレルエルは痛感する。


 けれでも、たったそれだけで諦めるられるわけもなく、メレルエルは自身の体温を神熱で以て上昇させ気分をも高揚させて鋭い一撃を振るう。


 その一振りは本来捉えられない筈の『天使の衣』を切り裂きに至り、これまでに一度たりとも無かった出来事に然しものミョルエルは目を見開いた。


「いい顔ね。そう、ミョルだけじゃない―私にも、その才覚はあったのよ!」


 それが意味するものに気付いたのは、ミョルエルの現状を知り得る本人と闘技場へと足を運んだたった数人の天使と真神のみであり、その内の一人であるエクスマキナは僅かにその表情を驚愕の感情に歪める。


 それはエクスマキナだけでなく、観客席にいたガブリエルとメタロトンもまた同じであり、メレルエルの発した言葉の意味を理解し得なかったラファエルは二人の表情に訝し気な顔をしてから率直に問いかけた。


「何を驚愕しているんだ二人とも?」


 そう問いかけてから自身のすぐ隣に座っていたウリエルからもほんの僅かな驚愕の感情を感じ取り、目を見開いてウリエルへと視線を向ける。


 だが、ウリエルからの反応はそれ以外にはなく、向けられた視線に対しても無反応を貫いていた。


 答えを得られないことに疑念を募らせ続けるラファエルだったが、ようやっと発せられたガブリエルの言葉は自身の耳を疑うもので―


「私とメタトロンは確証があったわけじゃない。わけじゃないけど…あの日、ミョルの身体検査を行なって気付いたことは、ミョルの―ミョルエルの身体は、私達『天使』のそれとは僅かに…遥か昔に出した答えと異なっていたの」


 ―含みのあるその言葉の羅列にラファエルはただただ押し黙り、視線で以て続きを促す他になかった。


 そんなラファエルの視線を受け、ガブリエルは思い浮かんだ言葉のみを口にする。


「ミョルは私達とは生まれが異なった天使で、その在り方が特殊であったことはラファも知ってるでしょ?だけど、それはあの日より以前の話し…ミョルの身体は今―どちらかといえば『神』に近しいものになっているの」


「それは在り得る事なのか?」


 思考が驚愕と疑念に囚われながらもそう紡ぎ出したラファエルの言葉に、ガブリエルは「それは…」と言葉を留め押し黙る。


 在り得ない、在り得るはずがない―そう口にすることは以前であれば簡単だったものの、いざ実際にそうなっているのだから言葉にすることは憚られる―否、でき得ない。


「以前であれば、在り得ないと即答できたけど…実際にそうなっているのだから、在り得る―在り得たと答える他ないのよ」


 そう言葉を口にしたのはメタトロンであり、その目は一度も見失うことなくミョルエルとメレルエルの動きを追い続ける。


「そして今さっきメレルエルがした発言は、あの言葉の意味は―」


「―ミョルだけでなく、メレルエルもそう成りつつあるというもの…理解しがたい事に変わりはないけど、メレルエルもまた特殊な天使。本当に問題だったのは、それを想定出来なかった私達に在る。そう思いたくないけれど、それが現状であり現実。…きっと私達には、この先にだって理解できないことなのよ。これまでと変わることなく、ね」


 メタトロンの言葉の続きを口にして、ガブリエルは逃すまいとミョルエルとメレルエルの動きを目で追い始め、それら―特にメレルエルの動きは自身が知る『神』の動きとは未だ差があるものではあるものの、その一端が垣間見える事に僅かな高揚感を募らせる。


「ほんの少し…ほんの少しではあるものの、重なって見えるな。あのお方のお姿と」


 そう突発的に言葉を口にしたウリエルへとラファエルが視線を向けると、ウリエルは「そうは思わないか?」と視線を向けることなくラファエルへ問いかける。


 すぐには答えは返ってこなかったが、程なくして紡ぎ出された答えはウリエルが抱いた物と違いのないものだった。


「確かに、今のメレルエルからはイシュタル様が重なって見える。だが―」


 一度言葉を切ったラファエルの続く言葉へと、その周辺にいた人物達は耳を傾ける。


「―勘違いなのか、本当にすぐ傍にイシュタル様がいるように見えてしまう。より具体的な事をいうのなら、直近で直に教えて貰ったかのように見えるのだが…みんなはどう思う?」


「在り得ない事だけど、そう言われてみればそんな気がしてきたわ。いやでも…それは流石に在り得ないでしょ。色々と破綻しているわ」


「そうね破綻してるわ。もしそうだったとするのなら、今もイシュタル様は存命でおられるばかりか、メレルエルと接触していることになる。それが問題あるとは言い難いけれど、なら何故イシュタル様は天界に戻ってきていないのか―という新たな疑問が生まれることになる。…だから、ガブのそれは在り得ない…はず」


 メタロトンはそう言葉を返しつつも、どこか心に引っかかるものがあるためか強くは言い切れず、自信のない声色で眉を潜めた表情を浮かべていた。


「…おい、流石にもう少し表情を抑えてくれ。にじみ出てるぞ、感情が」


「わかってはいるのですが…流石にちょっと」


 イシュタルの現状を知り得ぬ物達の会話を背に受け、冷や汗をかきながら表情に何ともいえないものを浮かべる依李姫へと真神が咎めるように言葉を放つも、依李姫とてしたくもないことであることに変わりはない。


「というか、そういう真神様も少しは抑えて下さい。私ほどではないにしても漏れてますよ、感情が」


「…仕方ないだろ。私にとっても心臓に悪いわあの会話。…呪うぞイシュタル、流石に重荷が過ぎるわ馬鹿たれ」


 イシュタルは魔神になって存命且つ、現界―それも依李姫の下で生活している等と言えるはずもない。


 依李姫と真神だけでなく、イシュタルの現状を知り得ているルシフェルとサリエルもまた感情を抑え仕草に表れないように努力する。


 そんな外野のことなど露知らず、ミョルエルとメレルエルは尚も交戦し続ける。

次の投稿は6/18(火)です



捕捉:今回たぶん『天使の衣』というのが初出だと思いますので詳細を説明いたします

天使の衣は、第十二章で出てきた『赤い宝石を施した金属のチョーカー』と『赤い宝石を施した金属のバングル』(記述はないけど他にも色々同じようなものがあります)から生み出される衣服です

生み出す衣服に決まったものはなく、生み出す本人の意思で如何様にも変えられるため、当人の趣味が大きく反映されている場合が多いです

全ての天使が生れ落ちたその時に与えられた魔道具の一つ

性能としては汚れないことはおろか、破損することがない簡易的な防具となっており、生み出した当人以外には触れることすらできない代物

とはいってもそれで攻撃などを防ぐというものではなく、イメージとしては『煙』に近い防具とは名ばかりの不思議な服です それ以上でもそれ以下でもないです

まあつまるところ、触れることのできないただの服という『概念』を持った防具です

意味不明ですね でもそういうものです 何とか理解してください

そして、その概念を覆したメレルエルは、未だ紛いなりにも神であるという証明―ということです

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