第十四章『求められるはその力』後半その⑳
第八試練20までには終わりたいなぁって思ってばたばた綴ってたら
終われたことは終われましたが長くなりました
空白、改行を含んで7500字近くありますが
頑張って読んでくださるとうれしいです
「こうして面と向かってお話するのは真神様のお節介術式『再上映』以来ですね。それで私を待っていたというのは?」
「ん~単純な話、私がミョルちゃんの前に出るにはミョルちゃんがどこまで認識しているのかが関係してたからね。そんでもって―」
そう一度言葉を切ったミョルニルは真っすぐに突き出した人差し指を私へと向け、僅かに口角を上げた。
「―ミョルちゃんが思い浮かべていることは正解だよ。はなまるをあげちゃう」
差し向けていた指を動かし宙に『はなまるマーク』を描いたミョルニルは満面の笑みを浮かべ、ベッドから飛び降りては私へと身を寄せ程なくして抱き着いてくる。
そんなミョルニルの頭を撫でながらあっけなく答えに辿り着いたことに落胆する―落胆してしまう。
結局のところ私は自身のみでは答えに辿り着けず、誰かからの手を借りることでようやっと辿り着いたその事実にだ。
これでは弱点を克服したとは言えず、目を覚ました後で試練失敗を言い渡されても納得せざるを得ない。
「そう…ですか。まあ素直には喜べませんが、これで課題点は見えてきますね」
兎にも角にも、これで今意識があるのは夢の世界であることは理解できた。
なれば次なる目標はこの夢の世界からの脱出といったところだろうか。
夢の世界…私の記憶を基に創られた都合のいい―幸せな世界であると考えられるが、そうなると一つ疑問が浮かび上がってくる。
「…此処は私の夢の世界なのですよね?私はフレイヤ様の神獣に会ったことはないはずですが…」
言葉にした通り豹麻、狼漣、華孔雀、猪突の四体の神獣に会った記憶はない。
だが、そんな疑問はミョルニルの返答にてあっさり霧散する。
「あぁあの子達?うーん厳密に言えば会ったことはあるんだけど、まだミョルちゃんが天使に成ったばかりの頃だったから曖昧なんだよ。それに多少なりとも私とトール様の記憶も影響して混濁した世界になってるっぽい」
何とも信じ難いニュアンスでありつつもミョルニルの言葉には矛盾がないように伺える。
私のみならず他者の記憶を参照して創られた世界であるのなら、これまでに抱いた疑問や疑念を浮かべた事に納得がいく。
「だから色々と矛盾点も見られたし、ザドギエルの術式が不完全だった故の綻びも沢山あったし。…まあその綻びを突けたからこそ、私とトール様…あと真神様も関与できたわけだけど」
「なるほど…今思い返してみるとホント納得できますね。トール様も真神様も、何やら意味深な言葉を多く言っていた気がします。ちなみにですが、ザドギエルの術式が本来の挙動で動いた場合どうなっていたのですか?」
「どうも何も、ミョルちゃんは夢の世界から脱することもできず、永遠と幸せな夢を見続ける。外部―果ては内部からの干渉すら受け付けない、術者本人であるザドギエルですら解除できない程、考えうる限り最悪の状況へとなりかけた。…運がよかったねミョルちゃん」
よかった事など何一つもないのだが、抱き着いていたミョルニルがその腕の力を僅かに強めてきたことで少なくとも心配してくれていた事が理解でき、私からもミョルニルを抱きしめる。
傍から見れば全く同じ顔同士が抱き合っているわけで、誰かに見られれば恥ずかしい事この上ないわけだが、どういう理屈なのか今この天界にいるのは私達とトール様だけなんじゃないかとふと思う。
だが意としてそう言う時には誰かが見ていたりするわけで、空耳かと思えるほど小さくパシャリと聞こえた為にミョルニルから離れると、ミョルニルは鋭い目つきで虚空を睨みつけ程なくして小さくため息を吐く。
「さて、それじゃあトール様の所に行こっか。まあ色々と言われるだろうけど、それら全ては愛情だから受け止めてあげてね」
そう言うや否や、答えを待たずに私の手を取っては歩き出したミョルニル。
余程機嫌がいいのだろう、とても楽しそうに鼻歌を謳いながらゆっくりとした足取りで目的としている場所へとただ進む。
「そういえばさ、ミョルちゃんはトール様のどういうところが好き?」
「…なんですか藪から棒に。そんなの全部ですよ全部。嫌いなところなんてないほどに」
「えーそれじゃあつまんないよ。恋バナしようよ恋バナ」
「同じ相手が好き同士の会話でそこまで盛り上がれるものですか?互いに違う見方があれば別ですが、二―ルも私と同じで全部好きなのでしょう?」
「そりゃあそうだけどさ、こう何て言うかな…もしかしたら知らない事があるかも知れないじゃん」
「そう言われればそんな気がしなくもないですが…そういえば、ニールは神器だった時の記憶はあると言ってましたっけ?具体的にはどのようなものがあるのですか?」
「あーそういえば言ったことあったね。神器時代かぁ…一番の思い出はやっぱりスリュムに囚われた私を助けに来てくれた時かなぁ。いつ思い出してもあの時のトール様は…」
「あーありましたねーそんなこと。確かトール様が花嫁の恰好をしてまで取り返しに行ったあれですね」
「そうそうあれあれ。花嫁姿で圧倒的力を行使するお姿を見て最初に思ったのは、『あ、それでも対して強さは変わらないんだ』だったもん。それよか驚いたのはフレイヤ様に求婚まがいの発言をしたって事だよ。正確には何て言ってたの?」
「えーと、もしかすると多少差異があるかもですが…『フレイヤ、結婚してくれないか』でしたっけ?確かそんな感じで、しかも真顔のままフレイヤ様の目を真っすぐに見て言われていましたね。あの時の周りにいた神々やフレイヤ様の反応といったらもうすごかったですよ。フレイヤ様なんて見たこともないほどに赤面してましたし」
「うわぁそれめちゃくちゃ見てみたい。それにしても、あのフレイヤ様が赤面ねぇ…すでに純潔を捨てた上でのだらしない性活を送っていたはずなのに。未だに可愛い所もあるんだねぇ」
「何を今更…、フレイヤ様はずっとお可愛い方ですよ。…まあその方面でだらしないのは確かですが、今はかなり成りを潜めていますから」
「その言い方だと、やりたくても我慢してるっていう風にしか聞こえないなぁ」
「それで間違いはないかと…というより、そこらへんは共有しているでしょうに」
「いやまあそうなんだけどさ。正直信じられないというか何というか…あ、それでトール様が求婚まがいな事をした後はどうなったの?結果的にはトール様が花嫁衣装に身を包ませたことになるんだろうけど、そうなった経由を聞きたいなぁ」
「どうも何も、求婚ではなく神器を取り戻すためだけだと知ったフレイヤ様に渾身の平手打ちを頬にもらっていましたね。花嫁衣装に身を包む経由は、ヘイムダル様の提案を他の神々が採用として実行に移した形です。トール様も取り分け嫌がっていたわけでもなかったので」
「うーん意外といえば意外ではあるけど、全然あるっちゃある話しだなぁ。トール様はもう少しだけでも自身の立場から行動とか態度を見直してくれれば嬉しいんだけどね」
「それは言えてますね。まあそういうところがトール様の良さでもありますから」
「…だね。さて、そろそろ目的地かな」
そう、私へと向けていた微笑みをついっと動かし前を向くと、その先はほんの少し前に私が訪れた何もない―いや、今はトール様がいる現界を見渡せる場所。
雨風を遮る為だけにある、天界においては必要なのかどうかわからない扉へとミョルニルが触れると、扉はギィィと音を立てながら開いていく。
するりと風が頬を通り抜け、風に揺られた自身の前髪が目に入らぬように瞼を僅かに閉じた私だったが、視線の先で風に揺られる髪をたなびかせて未だ現界を見続けているトール様の姿を捉え瞼を開く。
誰も彼もが―ウリエルやミョルグレスでさえいなくなったこの世界で、ミョルニルがいたことには納得出来る部分がある。
ミョルニルは私が神器・破神鎚を所持したことで生れた私の別人格―新たに生れた魂の形であり、記憶から生み出されていた者達とは違いこの世界が現実ではないことに気付き始めて尚、この夢の世界に残り続けることが出来たのだろう。
であるのなら、今目の前にいるトール様が未だそこにいる理由―身体が僅かに透けているのは、どういう理由あってのものなのだろうか。
「…お、間に合ったか」
とても嬉しそうな笑みを浮かべて振り返ったトール様は、私とミョルニルを交互に見ては少し可笑しそうに笑ってから私達を手招いた。
「仕方がないとは云え、お前たち二人は瓜二つだな。多少違いを出してくれなければ、私でさえ見間違ってしまうかもしれないな」
「それはそれは愛のないお言葉で…ミョルちゃん合わせて」
たったそれだけ言葉を告げて指を弾いたミョルニルは、辺りを眩い光で包み込み私の両手を取ってから何度かくるくると手を繋いで回り始める。
「全くお転婆め…ミョルニルの人格は、昔のミョルエルに引っ張られているようだな」
果たして意味があったのかどうかはさておき、律儀に両瞼を閉じたトール様がゆっくりと瞼を開いたのを見てからミョルニルが動きを止めた。
「「さて、私達どっちがどっちでしょう?」」
示し合わせることもなく、全く同じ言葉を同じタイミングで口にした私達は、顔を見合わせ小さく笑ってからその視線をトール様へと同時に向ける。
「…これはまた。だが、私はお前たちの親だから。間違えるわけがない」
期待を込めた眼差しを向ける私達へと近づいてから、トール様はまず私の頭へと手を伸ばし優しく撫でる。
「こっちが姉であるミョルエル」
そしてもう片方の手を伸ばし、ミョルニルの頭を優しく撫でる。
「そしてこっちが妹のミョルニルだ」
ひとしきり撫でてからその手で私達を抱き上げたトール様は私達へと問いかける。
「どうだ?正解だろ?」
ニカっと笑うその顔を見てから、私とミョルニルは一度顔を見合わせてクスリと笑いあい、そして―
「正解です!」「正解!」
―満面の笑みを浮かべ、示し合わせるまでもなく少しだけ違う―けれど同じ言葉を口にしてトール様の頬に向かって口づけをする。
「当然だ!」
それを嬉しそうに受け止めて、トール様は少しだけ私達を抱きしめる力を強くする。
だけどその力は徐々に弱まり、やがて私達を名残惜しそうに下ろし抱いていた腕を離すと最後だと言わんばかりに少しだけ強く頭を撫でた。
「これでまたしばらくお別れだ。…悲しくはある、名残惜しくもな。ミョルの記憶から生み出されたとは云え、ウリエルを始めイシュタルやフレイヤ達と久々に話せたこと、とても感謝している。その意図はなくとも、この機会を作ってくれたことについてザドギエルに感謝の言葉を伝えておいてくれ。…私からは、伝えられないことだからな」
これは、此処が夢の世界であると気付いた時からわかっていたことだ。
いくらトール様と云えど、それを歪められるだけの力を今は有していない。
けれどいつの日か―この幸せな夢が現実へとさせるべく、私は思い描き続け、追い続ける、求め続ける、いつか叶うその日まで。
「…はい、またしばらくのお別れです。しば…らく、の」
「…そう露骨に悲しそうな顔をされると素直に困る。さっきも言ったがミョル、お前は妹達の姉なんだ。そのお姉ちゃんがいつまでもうじうじしていると示しがつかないぞ?一番上にウリエルがいるとは云え、やはり一番頼られるのはミョルだろうからな。…今だけは、悲しそうな顔じゃなく笑顔を浮かべてくれると私としても嬉しいんだがな」
自分で言葉を口にすれど、頭では理解してはいれど、私は顔を俯かせスカートの裾を強く握りしめる。
せっかく会えたのに―そんな言葉が口から出かけるも何とか喉奥へと飲み込んで、私はまた笑顔を取り繕う。
「…はい、頑張ります、ね」
「大丈夫だよ。これからも私が傍で支え続けるからさ。だから大丈夫…トール様の心配なんて、杞憂になるよ」
「あぁ頼んだよ…ニール。必ずまた会おう」
「~っ!!…はい」
トール様の言葉に感極まった様子で返事をしたミョルニルは、大粒の涙をいくつか流す。
「全くお前たちは…まあそれもまたお前たちの良いところだ。決して無くさぬ様にな」
「「はい!」」
「うん良い返事だ二人とも。…それじゃあそろそろお目覚めの時間だ。ある意味で私の我儘に付き合わせたが、時間はギリギリといったところか」
「そういえばそうだった。このままだと…いやでもザドギエルに今のミョルちゃんを起こすことはできないから、どうあがいても失格にはならないんじゃないかな。多分だけど」
「…?それはどういう」
「目覚めればわかることだ。…では元気でな、あまり無茶ばかりはするなよ」
そう笑顔を浮かべたトール様の身体は瞬く間に消え、程なくして『夢の世界』は崩れ始めていく。
足元が崩れ去ったというのに不思議と私の身体は落ちていくことはなく、特別浮遊感があるわけでもない。
それでも私の身体は落ちることはなく、やがて足元に現れた床に足を下ろす。
辺りを見渡してもほんのり明るい色の空間が広がっているだけで、私以外に見られるものはミョルニルの姿のみであり明るい空間に反して寂しい気持ちが込み上がってくる。
そしてその気持ちを抱いたのは私だけではないようで、ミョルニルは不安げに私の傍により手を握ってきた。
「…何か寂しい所だね。というか、こうやって触れ合えるのもまたしばらくお預けなんだよね…寂しいな」
「そう残念がらずともその気になればニールとは会えるではないですか。近いうちに必ずこうやって触れ合いに来るので、そんな顔しないでください」
「…トール様の受け売りじゃん。まあ別にいいけど。いやむしろいいね、それ」
覗き込むように上目遣いで見てくるミョルニルは、何とも生意気そうな表情でいるため空いている手でミョルニルの頬をひっぱり何度か上下に動かした。
「生意気ですねぇ~まあでも、私だけでなくグレスやフェルとも関りを持ってあげてくださいね。あの子達はニールにとっても妹達なのですから」
「そんなのわかってるよ。ていうかエクスマキナはいいの?あの子も身内的なノリでいなかった?」
「言われるまでもなく身内ですよ。ただ立ち位置が難しくてですね…妹とするにはちょっと」
「それ、本人に言ったら多分泣くよ?あの子、ミョルちゃん関係ではメンタルくそ雑魚ナメクジだから」
何故ナメクジなのかはわからないが、きっと語呂の良さや素直な悪口として選んだものなのだろう、深く考えるだけ無駄な気もするからこの一件はこれで終わり。
とりあえずは時間がないといっていたトール様の言葉通り、この夢の世界から脱することを優先して動く必要がある。
ミョルニルとのしばしの別れも確かに惜しいが、試練を失格になってしまえば意味がない。
「では、もう目を覚ましてきますね。…おやすみなさい、ニール」
「…うん、おやすみミョルちゃん」
別れ際、目を覚ますと言いながらおやすみなさいと言葉を交わすのは何とも違和感を抱かずにはいられないが、今はこれでいい―これでいいんだ。
そう自分に言い聞かせた私はゆっくりと瞼を閉じ倒れこむように身体の力を抜くと、徐々に意識が薄れていき暗闇の中へと落ちていく。
どれほどの時間が経ったのか、ほんの短い時間だったような気がすれば、すごく長い時間だった気もするが、やがて僅かに光が灯ってはその光量は増していき、光からは私の名前を呼ぶ声がいくつも聞こえてきた。
起きなければ、目を覚まさなければ―そう強く思えば思うほどに、何故か瞼が重くなっていく感覚に襲われる。
だが―
「こんなことをしている場合じゃないぞ」
―そう背中を押され、私の身体は光へと近づいていく最中に振り向くも、視線の先には誰もいない。
男性の声ではあったがトール様ではなく、かといってウリエルや身近にいる誰かの声でもなかった事に困惑するも、触れられた背中からはとても温かく優しいものを感じ取る。
あぁ、そうかこの御方は―
「ミョル姉!!やっと…やっと起きた…ミョル姉ぇぇぇ!!」
―と答えが口から出かかるも、その言葉はミョルグレスの抱き着きによって喉奥へと引っ込んでいった。
とはいえ、結局のところ未だに私はあの神様の名は知らず、近いうちにでも真神様にでも聞いて知るとしようと決意してから、私のお腹に顔を埋めわんわんと泣き続けているミョルグレスの頭を撫でる。
「…起きたのだな。もう少し遅ければ試練を失格にできたものを」
「えぇ、覚めたくもないとても幸せな夢ではあったのですが、覚めなければ覚めないでぶーたれる御方がいらっしゃったので」
「そうか、であるのなら随分と運がいいのだな。感謝するといい、その人物を引き当てられたその事に」
そういって立ち上がったザドギエルは扉へと向け歩き出し、取っ手に手をかけてから「合格おめでとう」と小さく言って扉を開き退出していった。
「本当にギリギリだったぞミョル。…それほどまでに夢の中は幸せだったのか」
「それで間違いはありませんが…あ」
エクスカリバーもといエリミエルの姿を夢の中で見かけていない事を思い出し、咄嗟に声が出てしまう。
「…?なんだ今の反応は…まさか!!」
「え、今のでわかったのですか?流石に察しがよすぎて気持ち悪いです」
僅かに身を捻り、取れるだけ距離を取ろうとした私に対し、エクスカリバーは目を細め言うか言わないかを悩んだ末に声を絞り出す。
「………ちなみに思い浮かんだのは、私がミョルの夢に出ていないとかそういう―」
「正解です。見事信頼、信用度を勝ち得ました。その代わりに失った物がありますが、まあ些細なことです。おめでとう」
「待ってくれミョル!流石に何か大事な物を失った感が半端ない!!お願いだ取り消してくれ!」
そう泣きついてくるエクスカリバーの顔を手で制しながらちゃんと現実へと戻れたことに安堵した私は、暗闇の中で聞こえたはずの二つの声の主がいないことに疑念を抱くも口にはせず、窓の外へと視線を移す。
きっとその二人には、すぐ会うことになるのだろうと確信しながら。
次回の投稿は6/4(火)です
ついに6月に突入ですね
第十四章だけでも一年間投稿し続けているわけでつが
うんまあもうすぐ終わるので…多分
何はともあれ待ち望んでいたペーパーマリオRPGのリメイクが発売しました!
なんとも喜ばしいことですねぇ 目指せフルコンプ!