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天使のパラノイア  作者: おきつね
第十四章
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第十四章『求められるはその力』後編その⑪

 私が先に三回勝利したため手合わせは終了し、悔しそうなメレルエルと僅かに悔しそうにしながらも仕方がないと言いたげに笑うアレルエルが私の眼前にいた。


「何か少し前に手合わせた時よりも格段に強くなってない?!ていうか、何で二対一の有利な条件で私達は一勝しか出来てないのよ!ミョル、あんた何かずるい事したんじゃないの?!」


「藪から棒に変な当てつけは止めてくださいメレちゃん」


「メ、メレ…ちゃん?!」


 そう驚きながら恥ずかしそうにも嬉しそうにも見える表情をしたメレルエル。


 私の茶目っ気にすらこの反応だということを見るに、負けた事がよほど悔しくショックだったのだと伺える。


「らしくないですね。いつもならもう少し落ち着いたツッコミを返していたではないですか」


「…?」


 私の発言に対し、僅かに小首を傾げたメレルエルにどこか少し引っ掛かりを覚えるも、それは後ろから私を抱き上げたトール様によって払拭された。


「三人ともいい戦いだった。メレルエルとアレルエルには少し申し訳なく思うが、ミョルが勝つことはまあ既定路線だ。何においても、これまでに得た戦いの経験値の差、という奴だな。だが、やはりいい動きをする。二人とも将来が楽しみだ」


 そのトール様が発した言葉の最後に異を唱えるため、私はトール様へと視線を向けて頬を膨らませた。


「将来が楽しみなのは、メレルエルとアレルエルだけなのですか?」


「お、なんだ嫉妬か?安心しろミョル、お前のことも、ウリエルのことも―そして、他の天使達にも同じように期待している。願望している。想いを馳せている。…特に、熾天使となる器の者達には、な」


 いつもとは少しだけ違う、とても優しく、柔らかで心地の良い手付きで頭を撫でられ、私はそれに両瞼を静かに閉じて身を委ねる。


 何度も経験してきたような、そうでもないような摩訶不思議な感覚に陥るも、考えるよりも先に私の思考には霞がかかり始め、やがて私は考えることを止めた―止めてしまった。


 そんな私を尻目に、周りにいるトール様達はいつもの調子で会話を進める。


「出た出たトールの無差別たらし発言。ホントそれ、なるだけ控えなさいよね」


「そう言われても私自身にはどれがそう思わせる発言なのかがわからんのだが…」


「そんな調子だからフレイヤに勘違いさせてハチャメチャに怒られるのよ!あの時だって―」


 イシュタル神の言っている事は終焉戦争が開戦する数年前の出来事の事であり、あの時に目にしたトール様のお姿は忘れようにも忘れられないものとなっている。


 …出来れば忘れたくはあるのだが。




「それじゃあ私達はここらでお暇するとしよう。また機会があれば手合わせしてやってくれ」


 そうトール様がイシュタル神とその天使達へと言葉を告げ、次いでウリエルが感謝の言葉を述べてから私もそれに続く。


「イシュタル様、並びにメレルエル、アレルエル。この度は貴重なお時間を割いていただき本当にありがとうございました。この経験は、必ずや無意味なものにしない様、精神誠意努める所存です」


「そう、ならよかったわ。故意であろうとなかろうと、その言葉が嘘にならないよう頑張ってみなさいな。すぐ近くで見ていてはあげられないけれど、それを願う者がいる―その事を努々忘れないようにね」


 言葉と共に下げた私の頭を撫でながら、イシュタル神は慈愛を以て言葉を返してから名残惜しそうに手を離す。


 悲し気な、けれど仕方がないのだと諦めたかのような笑み―そんな表情を浮かべながら。


「…?何だその表情は…いや、ちょっと待て。何となくだがわかる気がする」


「あら、それなら言い当ててもらいましょうか。私がどう思っていたのか、何を考えていたのかをね」


 だがそんな表情はトール様の困惑気味の声にかき消され、今度は悪戯っぽく笑う表情がイシュタル神の顔にはあった。


 それから程なく悩んだ後、「多分だが」と珍しく自信無さげに前置きをしてからトール様は言葉を続けた。


「縦しんばミョルすらも自らの子へと迎え入れたい―そう考えていたんじゃないだろうな。ミョルのことは素直に賞賛しながらも、何故トールの子なのかしら、とかな」


 目を細め、訝しむ様な表情でイシュタル神へと言葉を投げかけたトール様だったが、イシュタル神は「…っふ。何を言い出すかと思えば」と呆れながらに言葉を告げてから続きの言葉を口にした。


「そ、そそそそんなわけあるわけないじゃない。流石の私だって、そこまで見境はなななないわよ!」


 あからさまにも思える動揺―嘘か真か、判断に困るところだが、なんとなく…本当になんとなくではあるが、イシュタル神の言葉は嘘なんじゃないかと私は思った。


「いや、その反応を見るに流石に嘘だろ。いいのか、そんな下らない事で神が虚言を口にして」


「はぁ?!きょ、虚言なんかじゃないわよ!てか、下らなくもないわよ!変なこと言わないで頂戴、このヘンテコ天然たらし神!」


「誰がヘンテコだ誰が。仮に私がそうであるのなら、お前は我儘子煩悩ポンコツ女神だな。妙に愛嬌がある肩書だ、今まで以上に信仰を得られそうで良かったな」


「誰がポンコツよ誰が!信仰に関しては余計なお世話。そういうことを気にしてない奴に言われる筋合い無いっての」


 あーだこーだと、つい先程別れる流れるはずだったのにまたもや言葉を重ね始めたお二人へと、ウリエルが止めに入ることでようやっと言い争いが納まった。


 まあ言い争いといっても、トール様は平素と変わらずイシュタル神だけが声を荒げていた気がしなくもないが、兎にも角にも言い争いは終わったのだ。


「はぁ…はぁ…ホント、あんたと話始めたらいつもいつもこうなってる気がするわ」


「安心しろ気のせいだ。いつもではないからな」


 トール様に悪気はない―そう理解しつつも、その発言はしないほうがいいのだと無礼を承知でご助言しようと、今にも取っ組み合いを始めそうな表情でいるイシュタル神を見てから私は固く決意した。


「それじゃあ今度は本当に行く。またな」


 とても和らげな笑みを向けながらに告げたトール様はすぐさま踵を返しては出口へと向け足を進めたが、どうやらその背中へと向けられているイシュタル神の表情には気付いていていないようで、何とも勿体ない事をと思わざるを得なかった。


 ヘンテコ天然たらし神…不敬ではあるものの、イシュタル神が口にしたその偏見とも言える肩書は、案外間違いは無いのかもしれない。

 それにしてもイシュタル神もあんな表情ができるんだなと、思ってしまったのは内緒の話。




「それで、次はどなたのところへ伺う予定なのですか?」


 イシュタル神の神殿を出てからすぐに私はトール様に抱き上げられ、もはや運搬されているといっても過言じゃない状態で移動しており、私はここぞとばかりに身を寄せて、すぐ口元にあるトール様の耳へと問いかけた。


「次はフレイヤのところだ。一先ずはよく見知った神の方が都合がいいだろうからな」


「…?それはどういった意味で」


 私も思い浮かんだ同じ疑問を口にしたウリエルだったが、「まあ自ずとわかる」とだけ答えてから鼻歌を謳い始めた為これ以上の言及は出来ず、私とウリエルは顔を見合わせて小首を傾げる。


 一体、何を考えておられるのだろう…。

次回の投稿は3/26(火)です

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