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天使のパラノイア  作者: おきつね
第十四章
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第十四章『求められるはその力』後編その⑦

「立てますか?サンダルフォン」


 そう言って自身の顔を覗き込んでくるミョルエルの顔をしばし見つめた後、サンダルフォンは「あぁ、大丈夫だ」と言葉を呟き身体を起こす。


 未だ全身に迸る神雷は動きを鈍らせ、身体―正確には上半身を起こせたものの自身の足で立ち上がることは叶わず、地面に座り込んでから短くミョルエルの名を呼んだ。


「言うまでも無いとは思うが体裁上言わねばならん。試練突破、おめでとう」


 そう朗らかな笑みを浮かべながらに言ったサンダルフォンに対し、少しだけ戸惑いを見せたミョルエルだったが程なくして満面の笑みで「はい!ありがとうございます!」と頭を下げると、サンダルフォンは何を思ったのか目の前に下がってきたミョルエルの頭へと手を伸ばし優しい手つきで撫で始める。


「…えーと、その。珍しいですね…サンダルフォンがこのような事をするとは」


「なんだ?嫌だったか?」


「いえ、別に嫌というわけでは…」


「そうか、ならしばらく身を委ねていろ。飽きれば止める」


 サンダルフォンのその言葉に複雑な気持ちを抱きながらも姿勢を正し「…なら飽きるまでよろしくお願いします」と、若干頬を膨らませながら言葉を吐いた。


 その様子に盛大な笑い声を上げミョルエルの頭を撫でる手付きを荒くさせる。


 程なくして完全に崩れ去った試練場の障壁の境を飛び越えミョルエルへと抱き着いたミョルグレスは、「おめでとうミョル姉!」と喜びの感情を余すことなく表へ出す。


「はい、ありがとうございますグレス。それと、今回はそういう意思は無くとも結果的に置いていった形になってしまいすみません。近いうちにお詫びの一つでもしようと思いますが、何か望みはありますか?」


 そう自身の頬をこねくりながら問いかけたミョルエルへと、ミョルグレスは一層明るい笑顔を浮かべて何を望むべきなのかを神剣に考え始めた。


「グレスと同く、その権限は私にもあります?たーいちょう?」


 グレスに負けじと、ミョルエルへと甘えるようにあざとく背後から抱き着いたフェイルノートだったが、自分たちだけがそこにいるのでは無いことを思い出し耳を真っ赤に染め上げる。


「もちろんですよ。私に叶えられる事であれば何でも構いませんよ」


「…その言葉、忘れないで下さいよ」


 嬉しさ、恥ずかしさ、その他幾つかの感情をごちゃまぜにした表情ではあったが、スッと手を伸ばしたミョルエルに撫でられ満更でもない笑みを浮かべては押し黙る。


「ちなみに、私にその権限はございますか?」


 僅かに食い気味に、目の前へ身体を滑り込ませては自身へと問いかけてきたエクスマキナへと、ミョルエルは人差し指を唇の下へ当て「う~ん」と短く唸り声を上げてから眉を潜めてにぱっと笑う。


「エクスマキナとはまだその様な約束をしていないのでありませんね」


「~ッ!む、無慈悲では…ありませんか?どうか、一考の余地を与えてはもらえませんか?」


 縋るような視線を向けてきたエクスマキナへと、ミョルエルは悪戯っぽく笑ってから言葉を返した。


「冗談ですよ。そうですね…何でもは叶えてあげられませんが、簡単なことであれば構いませんよ」


「…ッ!!その言葉だけでも…私の心は、こんなにも満たされるのですね」


「そうですか。では簡単な望みも叶える必要はありませ―」


「いえそれは違います絶対に」


 和気藹々とあれやこれやと言葉を重ねるミョルエル達だったが、すぐ傍に居ながらも蚊帳の外で置いてけぼりを喰らってしまったサンダルフォンは、何とも言えない表情を浮かべ茫然とその光景を眺めていた。


 そんな自身の肩をぽんぽんと不意に叩いてきた者へと視線を向けたサンダルフォンは、その視線の先にいた真神が慈悲の眼差しをしていたのを呆れた顔でため息をついてから視線を戻し、ぽつりと言葉を溢した。


「…わかってますよ。流石にあの輪には入れませんし」


「あぁそうだな。だけどあれ、放っておくとずっと続くぞ?」


「それは…ちょっと困りますね」


 その後しばらくしてから頃合いを見計らい声をかけたサンダルフォンだったが、ミョルエルを取り巻く三人にそれぞれ意味合いが少しだけ異なる視線を向けられ、解せぬ気持ちを抱きながらも話を切り出した。


「さて、これで第七試練が終わったわけだが…ここでミョルエルには選択肢が与えられる」


「選択肢、ですか。それはまた以外ですね…これまでは一本道だったはずなのに」


「ここまで来れば最後以外はただの誤差だ。それぞれの内容を鑑みても、どちらが先でも変わりない」


 そう、考えてもいなかったことに対して理解しようと思考を巡らせたミョルエルは、程なくして言葉を紡ぎ出す。


「そう…ですか。残りは確か、お兄様とザドギエル…そしてミカ姉の試練でしたね。ミカ姉の試練が最後であるのなら、お兄様とザドギエルそのどちらかの試練を選べる…それなら私はザドギエルの試練を先に行なうことを選択します」


「ほぉう…。一応理由を聞いておこうか」


 ミョルエルの回答に訝し気な、けれど好気的な視線を向けたサンダルフォンがそう問いかけると、ミョルエルはどこか自信に満ちた表情で答えを返した。


「最終試練の前にお兄様に稽古を付けてもらえる。これほどまでに心が躍ることなど、数えるくらいしかありませんからね」


「相も変わらずウリエル大好きなご様子で…。まあいい、何にせよ次の試練までは時間がある。神雷による反動もあるだろうからしっかりと身体を休めるんだな」


 そう言ってからようやっと腰を上げたサンダルフォンは「まぁ頑張れよ」と軽く手を振ってから試練場を後にする。


「ふむ、何やら本当に心が変わる出来事があったみたいだな。知ろうと思えば知れることだが、何があったのか聞いても答えてくれるか?」


「全然答えますよ、別に隠し立てするほどの事でもないですからね。平たいに言えば、私の事をありのままにお伝えした、それだけです」


 意味ありげな言葉であれど、ミョルグレスとフェイルノートはその言葉の意味を知り得ず首を傾げ、エーテルガンドとサリエルの二名は自身が導き出した答えから考えられる可能性に僅かに表情を曇らせる。


 その者たちを除いたこの場にいる残りの人物―真神とエクスマキナは、言葉の真意を知っているが故に瞼を伏せて口を閉ざす。


 静まり返った状況にミョルエルもまた口を閉ざして沈黙の間が訪れたが、状況を覆すべく最初に口を開いたのは真神だった。


「そうか、まあ大した話でもないが、それであいつの心持ちが変わったというのなら何も悪いことはない。好転したと私は思っている」


「それもそうですね。何しろ、あのサンダルフォンが重い腰を上げたのです。今頃、本人もすこぶる驚いている事でしょうし、ミカやガブ、ラファやウリエルだって、その事に驚きを隠せないはず。他の熾天使もきっとそうであるように」


 真神に続きサリエルがそう言葉を紡ぐと、ミョルエルは「そう…ですね」と力なく言葉を返しぐっと足に力を入れて立ち上がる。


「何にせよ、次の試練までは時間があるとのことなので、一度旅館に帰ってサンダルフォンの言いつけ通り身体を休めるとしましょう。次の試練がまた一人であるとも限りませんし…そうなれば、遠慮なく三人共に頼る事となるでしょうから、その時はよろしくお願いしますね」


「うん!」「もちろん!」「かしこまりました」


 ミョルエルの微笑みと共に発せられた言葉に対し、ミョルグレス、フェイルノート、エクスマキナが各々の言葉で返事をして、賑やかな雰囲気で旅館へと帰着する。


 その後、食事と入浴を済ませたミョルエル達が眠りについた時、ザドギエルが担う第八試練・精神判別試練が誰にも悟られず静かに始まりを告げたのだった。

「サンダルフォンの試練さぁ、サリエルの試練と趣は同じだけど実際どうなるのかなぁ」

「あのサンダルフォンのことだから、きっと真正面から神器を用いた真剣勝負かしら…そうなれば、短期決戦であればミョルに軍配が上がるけど、長期決戦となれば流石にサンダルフォンが圧倒的に有利。…あまりいい心持ちでは居られないわね」

「まぁそうなれば、サンダルフォンは絶対長期決戦に持ち込むだろうからにゃ~。『短期決戦ばかりでこの先の戦を乗り越えていけるはずがない!』とかなんとか言って」

「ありえるわね。普段はクールぶっているのに、こういう話には熱くなる。…はぁ、本当にめんどくさい人」

「人ではなく天使だけどな」

「あら、もう帰ってきたの?」

「おろろ、ってことは短期決戦に持ち掛けられて決着付けられちゃった感じかぁ。うーんどんまい!」

「ぬかせ、互いに死力も尽くしてない。…ただの心変わりだ」

「…」「…」

「…二人して黙ってくれるなよ。妙に気恥ずかしくなるだろう」

「いやぁー誰が聞いても言葉を失うと思うけどにゃぁ…」

「ほんとにそう。まあでもいいことだとは思うから、気にしないでおきましょう」

「それもそうだにゃ~♪。一先ずはこれを肴に一杯煽るとしますかにゃ~♪」

「…はぁ、話すべき相手を間違えたな」




次回の投稿は2/27(火)です お楽しみに(?)

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