23 何度も通り過ぎるモノ
これは毎年必ず母方の実家へと帰省する友人から聞いた話。
実家は周りに山や川やら、とても自然が豊かな場所で、普段あまり体験できない遊びができると、毎年楽しみにしていたそうだ。
だが、一つだけちょっと怖い話があったそうで、それは友人のおばあちゃんが、毎年遊びに行く度に、警告として聞かされるらしい。
『夜は<お通り>が現れる事があるから、妙なモノを見ても無視するんだよ。』と。
<お通り>?と最初は不思議に思って、おばあちゃんに尋ねたらしいのだが、おばあちゃんにもよくは分からないそうで、とりあえず「多分お化け。」という曖昧な答えしか返ってこなかったそうだ。
「ねぇねぇ、お母さんは<お通り>って何か知っているの?」
そう尋ねると、友人の母は笑いながら首を振る。
「ここいらでよく言われる怖い話よ〜。ほら、トイレの花子さんとかと同じ。
なんかね、人間じゃない何かが、ただ道を通っていくらしいわ。」
「え〜……お化け?」
ちょっと怖くなった友人が震えると、母親はなんとも言い難い顔をしたという。
「う〜ん……。まぁ、お化けなんだろうけど、誰かが死んだとかじゃないからねぇ。
ここらへんは激しい戦争地とかでもなかったし、本当にただ『通る』だけらしいのよ。
でも人間じゃなくて……。」
「?透けてたりしてるのかな?」
見た感じで分かるならそれだと思った友人がそういうと、母親は首を軽く傾げて、分からないというジェスチャーを見せた。
「それも分からないわ〜。一体どんな姿をしているんだろうね。
ただ、とりあえず通り過ぎるのを待っていればいいっていうのは聞いたよ。
そこで声を出すと……あの世に連れて行かれちゃうかもね!」
「こ、怖い事言わないで〜!」
友人は震え上がって母親に怒ると、母親は笑っていたらしく、そこでお話は終わりとなった。
そして月日は流れ、数年後。
友人はその<お通り>を見てしまったのだそうだ。
夏の蒸し暑い夜。
そこは沢山の蚊が入ってくるため、障子のドアはピッタリ閉じ、更に中には虫が入れなくするネットの様なモノで布団の周りの空間を覆うのだが、そこで寝ていた時の事。
暑苦しくて眠れないが、目を閉じていた友人の目元に影の様なモノが過ぎた気がした。
「…………??」
よく目を閉じた時、眼の前で手を振られた時の様な……そんな感じの影が目を閉じていて見えたので、友人は目をゆっくりと開ける。
その部屋は障子であるため、月明かりが部屋を照らし中はそれなりに明るいらしく、もちろん障子はしっかりと見えていた。
気の所為かな……?
そう思い、もう一度目を閉じようとしたその時────……。
────ス〜ッ……。
誰かが障子の前を通っていったのだ。
影だけしか見えないので、誰かは分からない。
だから友人は、この時点で『誰かがトイレでも行ったのかな?』と思っていたそうだ。
だが────……。
────ス〜ッ……。
また誰かが通り過ぎた!
この時点でちょっとおかしい事に気づいた友人は、息を潜めて障子の方を見ていたらしいが、それから何度も何度も誰かが通っていく。
こうなってくると絶対におかしい!と確信を持って恐怖に固まった。
だって、誰も帰ってこないのに、次から次へと誰かが通るから。
少なくとも何十人単位の人数。
それがこんな夜中に家にいるのも変だし、そもそもどうして家の中を歩いていくのかも分からない。
まさかこれって……。
友人の頭には、昔聞いた<お通り>が浮かんだそうで、ガタガタ震えながら、ただそれが通り過ぎるのを待ったそうだ。
すると気がついたら寝てしまったらしく、朝日の光で目が覚めたと、そう言っていた。
もちろん朝は大騒ぎしながら家族に話したが、お母さんは笑い飛ばしてきたそうで、信じてくれず……。
ただおばあちゃんだけは信じてくれたそうで、詳しく説明している時に、友人はもう一つの事実に気づいた。
通り過ぎていく影達。
それは全く同じ形をしていた事だ。
つまり背丈も影の形も、今にして思い出せば全く同じ形だったと。
それに更にゾッ〜と背筋を凍らせたらしい。
ちなみにこの話、場所は違うが、それからまた別の数年後に全く違う友人からも同じ様な話を聞いた事がある。
その時は夜の花火大会で、ある建物の屋上に見えた人影が何度も何度も同じ方向に歩いていっては夜の空に消えていったと言っていた。
その話を当時聞いていた他の人達は信じていなかったが、自分としては、それを見た場所がとても近い県内であった事から、どうやらその辺りでたまに見られるお化けである事に真実味を感じてしまう。




