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20.束の間の雑談


 すぐに決着がつくと思っていた試合は、均衡していた。

 予想以上に魔王軍が強い。魔族以外の全種族と幾度となく戦争を繰り返してきただけのことはあって、圧倒的な物量差を感じさせないような立ち回りを見せていた。

 それはギデオンの指揮が良いのも勿論だけど、戦闘に加わっている一人一人の実力と、全体の結束力が鍵になっているのだと私は推測する。


 とにかく、彼らが想像以上に戦闘慣れしていることは、素人目線からもよく分かった。


 対して、私のアンデッド達は初陣。

 どんなに優秀な指揮官が居ても戦闘訓練をしなきゃ統率が取れないし、上位アンデッド以外はまだ魂と身体の定着が完全じゃないから、動きが若干たどたどしい。

 特に複雑な改造を施したアンデッドは歩くだけでも精一杯のようで、威圧的な面では有効でも、直接戦闘になればあまり活躍できていないのが現状だ。


 その理由もあって、私のアンデッド二万と魔王軍の精鋭による戦いは均衡していた。

 要はプロと素人の戦いだ。こっちが不滅のアンデッド部隊じゃなかったら、間違いなく私は負けていただろうね。


「ふっ、どうだ? 余の精鋭は」

「…………魔王。いつの間に来たのさ」


 急に後ろから話しかけられて、みっともない悲鳴をあげなかった私をどうか褒めてほしい。

 実際、試合が始まるまでは試合を一番良く観戦できる天幕の中にいたし、すごく優雅な扱いを受けながら偉そうに寛いでいて、その後もずっと動く気配はなかった。

 なのに、突如として結構な距離がある私の城までやって来たのは、どういう気分の変化だろう?


「あそこは常に魔族どもからの視線を注がれるため、あの場所は堅苦しくて仕方ない。だから抜け出してきた。……それに、ちょうど独り、暇そうにしている奴が見えたのでな」

「……お気遣いどうも。当初の予定ではもう終わっていたはずなんだけどね。何処かの誰かさんが指定してくれた面倒な試合のおかげで、まだまだ終わりそうにないや」

「当然だろう。昨日今日で出来上がったばかりのアンデッド如きに壊滅させられるほど、生易しい教育を施したつもりはない」


 魔王からの教育……たしかに、それは強くなれそうだ。

 その分、死ぬほど辛い思いをしそうだけど、疲れ知らずのアンデッドには関係のない話だ。

 アンデッドの訓練の参考にしたいから、この試合が終わったらギデオンかミカグラ辺りに魔王教育の話だけでも聞いてみようかな。

 リッチとかワイトとかの魔法専門は、ミアにご教授願いたいな。……協力してくれると嬉しいけれど、応えてくれるかどうかはこの試合の頑張り次第ってところか。


 と、他愛ない会話を続けていれば、ひときわ大きな轟音が映像から聞こえてきた。


「…………ふむ。父上め、久しぶりの戦いだからと遊んでいるな?」

「気合十分って感じだったよ」


 そのやる気が上振れて、かなり過激な発言をしていたけれど……本人を前にして真実を言うのは流石に気が引けるな。


「でも、遊んでるのは違うんじゃない? 予想以上に魔王軍の精鋭が強いだけなんだと思うよ」

「いいや。あれは間違いなく遊んでいる。そうでなければ、あのような手緩い策を講じることはないだろう。あれでも生前は、歴代魔王で最も策に長けた男だったのだ」


 どうやら、魔王にも得意不得意はあるらしい。

 その中でタナトスは作戦を企てることに秀でていた、ってことなのかな。


「参考程度までに聞いておくけどさ。もしタナトスが本気を出していたら、この試合はどうなっていたと思う?」

「……ふむ、どうだろうな。悔しいことに父上は常に余の考えを上回っていた。余では考えも及ばないような答えを、さも当然のように導き出していた。そのため余では詳細まで読み解くことはできない。だが──」


 魔王は睨みつけるような鋭い視線で、映像の中で高らかに笑うタナトスを眺める。


「すでにこの試合は終わっていた。これだけは間違いない」


 魔王が安易に誰かを褒めるような性格ではないことくらい、私だって分かる。

 それでも、ここまで力強く断言するってことは、その能力には相当な信頼を置いているんだろうな。


「なんだ。やっぱりお父様が大好きなんだね」

「おい、なぜそうなる。あんなもの好きではない。むしろ嫌いだ。いつもいつも余のことを馬鹿にして本当に鬱陶しい。かと言って無作為に刺激すれば返り討ちにあう。誠に煩わしい。死人なのだから大人しく黙っておけばいいものを……骨になってもうるさいとは、どこまでいっても救えない男だ」


 途端に口早になる魔王。

 褐色の頬が若干赤く染まっているのは、私の見間違いじゃないだろう。


「とにかく、だ! 余は父上のことを嫌っているし、目障り以外の何物でもない。だがその能力だけは認めているので、しっかりと手綱を握っておけ。あれは戦力になるからな。これは命令だ」

「……はいはい。魔王様のご意思のままに」


 どこまでも認めたくない魔王に、私は手をひらひらとさせる。

 ……不敬? 私は正式に魔王軍所属を決めた訳じゃない。今はまだ協力関係のまま。だからこれは、ただの協力者同士の軽口だ。


「ったく……余は天幕に戻る。また暇になったら来てやろう」

「ラスティアを困らせるのも程々にね。ちゃんと魔王の行事くらいはやってあげなよ?」

「善処しよう」

「それ、しないやつだよね」


 魔王は答えない。

 空間転移で消える最後の一瞬、こちらを振り向いて意味深に笑っただけだ。


「ほんと、振り回される幹部が可哀想だよ」


 いつかは私もそうなるのかな。

 考えただけで面倒臭い。


 ……でも、退屈はしなさそうだ。


 賑やか過ぎるのは苦手だけど、楽しめる賑やかさなら嫌いじゃない。

 そこにエレシアも一緒だったら、もっと最高だ。そのために、絶対にその未来を叶える。……絶対にだ。


 だから今は、こんなところで油を売っている場合じゃない。


「タナトス。命令だよ」


 私は念話を繋げて、戦場で意気揚々と指揮を取る腹心に命令を下す。


「遊びはもう十分でしょう?

 ──そろそろ本気を見せてよ」


 魔王との会話で、タナトスが遊んでいることが分かった。

 なら、もう終わりだ。これから協力する人達に認められることは大切だけど、エレシアの救出の方が最優先だから、もうこれ以上、時間を無駄に使わせてあげる優しさはいらない。


 だから私は『終わらせる』ことを命令した。


『了解した』


 瞬間、城が激震した。

 タナトスが放った大爆発から発生した副産物は、城の壁をも溶かす熱風となって演習場に存在する全ての物質を焼き尽くした。


 一番初めの爆発とは比べ物にならない威力の魔法。

 その効果は言わずもがなで──。


『任務完了。我々の勝利だ』


 煙が晴れる。そこに立ち続けている生者は、誰一人として居なかった。

 再び起き上がる気配はない。もし起き上がれたとしても、満身創痍の状態での戦闘は不可能だろう。


 ──完全勝利。


 天幕の魔王はこのような結果になることを予想していたのか、面白くなさそうに唇を尖らせている。

 一瞬、ほんの一瞬だけど……映像の向こう側にいる魔王と目が合ったような気がした。物言いたげな様子で睨まれたから、後で何か小言を言われるのは確実だろうな。


「だから、やり過ぎなんだって……」


 でもまぁ、これで面倒事は一つ減った。

 タナトスには色々と言いたいことがあるけれど、今はひとまず、これで満足しておこう。


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