19.魔族の力
ギデオン達が恐怖している様子は、映像からよく伝わってきた。
とは言っても、私はただ地下墓地に待機させてあるアンデッド達を動かしただけ。その空間を繋げて転送させたのはノーライフキングの能力だから、あの悪趣味な登場演出は全部タナトスがやったことだ。
正直、私もあれは少しだけ「うわぁ」って思った。
『戦争ではいかに素早く相手の心を折るかが重要だ』とはタナトスの言葉だけど、あれは流石に心を折りに行き過ぎだ。
本物の戦争なら分かる。
でも、これは試合だ。命の駆け引き無しの楽しい楽しい交流戦みたいなやつだ。
「これじゃあ、私の印象が最悪だよ……」
頭を抱えて、小さくうずくまる。
私はきっとこの先も魔王軍のお世話になる。基本的に他人との関わりを持つつもりがないとは言え、周りの評判には気を付けたい。
想像してみてほしい。
城を歩いていて誰かとすれ違った時、変な目で見られるのは誰だって嫌でしょう?
百歩譲って私だけの評判が悪くなるのはいい。死霊術士は昔からそういう扱いを受け続けてきたから、他人が抱く負の感情には慣れっこなんだ。これはもう血筋だね。
でも、エレシアにまで嫌な目を向けられるのは我慢ならない。
エレシアは私の天使なんだ。私なんかに優しくしてくれるだけじゃなくて、偏った知識を持つ世間知らずで物覚えの悪い私に、色々なことを最後まで教えてくれた。
だからエレシアに悪い印象がつくのは嫌だ。
そのためには私の行動一つ一つに気を付けなければならない…………っていう話を、タナトスにも伝えておいたはずなんだけどなぁ。
『行けい我が僕ども! 主人の威光を今こそ見せつけてやるのだ!』
「……あー、あれは忘れてるわ。完全に役にハマってるわ」
映像に映るのは、アンデッドに向けて演説を行っているタナトスの姿。
魔王だった頃にも何度か同じようなことはやっていたのか、次々と並べられていく言葉は気分を高揚させるような気迫と熱意があった。
こうして外から様子を眺めているだけの私でさえ、ちょっと心がワクワクするような気分になったほどだ。実際に間近で聞いているアンデッド達は、初陣ということもあって相当やる気に満ちていることだろう。
それに比例して、私の評判が落ちている気もするけれど……そこには触れない。
『……ふっ、この際だ。我らの覇道を見せつけ、主人こそが真なる魔王に相応しいと』
「やめてやめて。本当にやめて! タナトス! お前そんなことしたら絶対に許さないからね!」
『…………む? 主人の声が聞こえるぞ。なるほど、これが主従の間でのみ交わされる念話なのだな』
私が従えているアンデッドに限定して、私の声だけを届ける。
死霊術の応用だけど、これが意外と使いやすい。どんなに離れていても即座に連絡を取り合えるし、時間の誤差もほとんどない。鳥などの死体を使えば空からの偵察に使えるし、魚なら水中も自由に見渡せる。色々ある死霊術の中でも、一番使い勝手のいい魔法だ。
『ところで主人よ。なぜそんなに怒っているのだ?』
「怒るわっ! 私はエレシアと静かに暮らせればいいの! 魔王なんて冗談じゃない。そんなものになるつもりも予定もないからね! ほんと余計なことは言わないで!」
『ふむ。それは残念だ。娘の悔しがる姿が見られると思ったのだがな……』
……勘弁してくれ。
魔王の座を狙った奴らが見事に処理されたって、この前聞いたばかりなんだ。私もそれと同じになりたくない。
『分かった。我も愛娘に恨まれるようなことはしたくない。精々、幹部で収まる程度に暴れるとしよう』
「さっき悔しがる姿を見たいとか言ってたくせに、何を……まぁいいさ。くれぐれもやり過ぎないようにね」
『無論だ。我を誰だと思っている』
「性格ねじ曲がった親馬鹿」
『これは手厳しい。……だが、性格がねじ曲がっているのはお互い様だ』
親馬鹿は否定しないのか。
そこが本当に、親馬鹿らしいと思うよ。
『では主人よ。そこで我らの初陣を見守っていてくれ』
「はいはい。ご武運を」
適当に応援して、念話を切る。
これで多少は大人しくなってくれると嬉しいんだけど、どうだろうな。
「っと、始まったか」
空高く打ち上がる狼煙。
それが最頂点に上って弾けると同時に、魔族の雄叫びが戦場に轟いた。
ギデオン率いる魔王軍は速攻を仕掛けるつもりらしい。
その勢いは、まるで突撃槍だ。どうやら少数精鋭で私のアンデッド部隊をくぐり抜け、私を倒す作戦なのかな。
中々に良い作戦だと思う。
アンデッドは不老不死の部隊だ。術者である私や、ノーライフキングのタナトスを無力化しない限り、アンデッドは無限に動き続ける。
長時間戦えば戦うほど無駄に体力を消費することになって、どんな精鋭でもいつかは数の暴力に呑まれてしまう。
だから短期決戦を選んだ。
「でもさ。その程度で私のアンデッド軍団を突破できると思わないでほしいかな」
最初は順調に進んでいた魔王軍。
しかし、そんな快進撃を見逃してあげるほど、タナトスは優しくない。
彼らがアンデッド第二陣と激突した、その直後──魔王軍とアンデッド諸共を巻き込む大爆発が生じた。
建物の隙間を通り、熱風が城の中までやってきた。
ノーライフキングと十体のリッチが魔法を結集させて放った魔法だ。それはそれは凄まじい威力になると予想していたけれど……私の予想を遥かに上回るものが出てきた。
…………大丈夫だよね? 今ので死んでないよね?
最悪、重症程度なら問題ない。
戦場の外には大勢の治療士が待機しているから、何か大事になる前に対処は可能だ。
でも、即死はどうにもならない。
生き返らせるのは無理だ。一応方法はあるにはある。でも、それは死霊術に並ぶ禁忌として指定されているから、大衆の目がある場所では使えないだろう。
あとは私のアンデッド軍団の仲間入りをするくらいしか選択肢が無いけれど、そもそも殺してしまうのがマズい。この試合は私の負けになるし、私に対する魔族の印象は最悪になる。
だから、どうか死なないでほしいと切に願う。
「…………ん?」
煙が晴れる。
そこに立っていたのは──無傷の魔王軍。
「……んん?」
一瞬、自分の目がおかしくなったのかと思った。
あれほどの爆発だ。大半は戦闘不能になっていると思っていたのに、まさか誰も……今のを喰らってなかったの?
「魔法で防いだ? いや、そんな様子は無かった。だったら単純に耐えた? ……うそぉ」
爆発を受けた魔王軍も、それを防がれたタナトスにも、驚きや焦りの色は見えなかった。
むしろ、これが小手調べだと言うように次の行動に移っているし、何なら今度は魔王軍の方から先程以上の魔法をぶっ放してやり返しにきている。
正直なことを言うと、意味が分からない。
人間があれを喰らっていたら、まず間違いなく四肢が吹き飛んで即死する。それくらいの威力だったのに、鍛えられた魔族には効きませんってか。
「……ははっ、本当にさ……ふざけるのも大概にしてほしいよ」




