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18.試合前(ミカグラ視点)


「よっしゃああああああああああ!!!! やってやろうぜぇええええええええええ!!!!」


 ワシは今、最高潮でやる気に満ちている。

 試合だ試合だ。部下どもとの練習は何度もやって来たが、幹部同士の試合は久しぶりだ。敵は魔王様が認めた人間。相手に不足はない……と思う!


「うるさいぞミカグラ。もう少し声量を落としてくれ」

「ギデオン! お前はもっとやる気を見せろ! こんなに戦いごたえのある試合は、お前も久方ぶりだろう!」


 最近はあまり戦争も出来ていなかった。

 どうやら不遜にも魔王様を陥れようとしている阿呆がいたらしく、ラスティア主体による内部の大掃除で戦争どころではなかったし、魔王様に並ぶだろうと言われていた折角の剣聖との戦も、その大掃除の締めで参加できなかった。


 だから、この試合はこれ以上ない最高の機会だ。


「やる気に満ち溢れているのはいいが、油断するなよ。相手の戦力は未知数だ」

「なんだぁ? 頭ごなしに否定していた割には、随分と人間相手に用心するじゃねぇか! ギデオン、まさかお前……」

「相手が誰であろうと油断するな、という意味だ。魔王様が認めているのだ。我々も油断できない」


 名前をアンリって言ったか?

 あれは魔王様が認めた数少ない強者だ。……って言っても、何を認められたのかまでは分からねぇが、舐めてかかるのはマズい。それがたとえ人間だろうと、な。


「今警戒するべきは、あのアンデッドだろう。あれは異常だ。魔力だけならば陛下と同じか、それ以上か……」

「あれがか? ……確かに、すげぇ強そうだとは思っていたが、流石に魔王様と同じってのは言い過ぎだろ」

「………………」

「おいおい、マジなのかよ」


 ギデオンは真面目な野郎だ。

 嘘や冗談を言うような奴じゃないってことくらい、ワシだって分かっている。


「それじゃあよ。魔王様がアンリの嬢ちゃんを認めたのは、あのアンデッドを使役してるから……なのか?」

「可能性は高いだろうな」

「『魔物飼い』か……なるほどな。だから魔王様は総力戦を組んだって訳か」


 魔物飼いは契約魔法で魔物を縛り、それを従えて戦う人間の職業……みたいなやつだ。

 術者本人は戦力にならないが、契約する魔物が多ければ多いほど戦力は増す。魔王様は将来性を見越して、アンリの嬢ちゃんを仲間に引き込もうとしたんだろう。


「にしても、アンデッドを従えるなんて悪趣味な嬢ちゃんだな」


 アンデッドを従える。

 それだけで嫌なもんを思い出す。薄気味悪い禁忌の術を。


「単なる偶然だろう。あんなものを狙って従えられる人間はいない……が、たとえ偶然だとしてもあれは厄介だ。その上、アンデッドの他にも戦力を蓄えているとなれば、不利なのは間違いなく我々だろう」


 ギデオンの言葉にワシも同意する。

 さっきも言ったが、魔物飼いは契約している魔物が多いほど厄介になる。あのアンデッドだけでも相当キツいってのに、その他にも契約している魔物がいるってなったら…………面倒だな。


「で、どうするんだ? 大将」

「完全な総力戦では負けていただろうが、幸いなことに今回は防衛戦だ。試合開始の合図と同時に攻め込み、油断しているところを一気に叩く」

「相手が量で勝負するってんなら、こっちは質で勝負って訳か。──いいじゃねぇか! 俄然、面白くなってきたぜ!」


 拳を合わせ、気合いを入れ直す。


 さっき角笛が聞こえてきた。

 あと数分もしないうちに試合が始まるだろう。


「よっしゃよっしゃよっしゃあ! こんなに面白いと思ったのは久しぶりだ! やってやろうぜ! なぁお前ら! …………ぁん?」


 魔族は戦闘好きが多い。ワシとギデオンの呼びかけに応じた奴らも、久しぶりに戦えるって理由で参加したのがほとんどだ。

 それもあってこっちの陣営は活気に満ちていた。

 なのに、だ。今は誰の声も聞こえない。みんな口を結び、揃って同じ場所を眺めている。それはワシらが今から攻め込もうとしている城──敵陣営へと注がれていた。


 当然、ワシもそれに釣られるように視線を城へ移し、他の奴らと同じように息を呑み込んだ。


「…………おい、なんだよ……ありゃぁ」


 異変が起きているのは城の門。

 未だ固く閉ざされたそれから湧き出る黒い霧は、そこにある光景全てを呑み込むように広がっていく。


 異変が起きたのは、そのすぐ後だ。


「っ、あれは──!」


 呻き声がここまで聞こえた。

 そいつらが動くたび、乾いたものが擦れる音がした。


 それが亡者の叫びだと気づくのは遅くなかった。

 それが人ではない、人だったものだと気づくのに多くの時間は掛からなかった。


 黒い霧から這いずるように姿を現した無数のアンデッド。

 人ならざる亡者。その中心に立つのは──あの時、嬢ちゃんの隣にいたアンデッドだった。


「……我々は一つ、間違っていたのかもしれない」


 ポツリと、ギデオンは呟くように言った。


「あれは魔物飼いなんかではない。あれはもっと別の……異質なもの」


 ワシらは最初、嬢ちゃんが魔物飼いだと思って話を進めていた。

 アンデッドを偶然従え、その他にも様々な種類の魔物を従えていると。この先、嬢ちゃんはもっと多くの魔物を従え、今以上に戦力を増やすのだろうと。魔王様はその将来性を認め、嬢ちゃんを魔王軍に引き入れようとしたのだと……そう思っていた。


 しかし、それは間違いだった。


 嬢ちゃんはすでに完成していた。

 ワシらが思っている以上に、壊れたやり方で────。


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