第八階層 憤焉幕終土 偉大な悪龍
「や、またせた?」
俺は寝転んで尚見上げる程の巨躯を誇る紅い龍神へ軽く挨拶を投げ掛けた。
これ程の者、ならば知性もそれなりか、との疑問を解消させる為にも、がやはり此方をその十四の目で一見するだけで口は聞いてくれない。
「さてさて、分かってて口を開いてくれないのか、それほど知性は無いのか……、何方かな?」
体勢を起こす紅い龍神を見ながら、口角を上げながらそう呟く。
久しぶりに、観ておこうか。
視点を切り替える。
──【出現階層《1000》】:《█▅のダンジョン》
・《生物名》【八獄界冠の龍神王】
・存在【666】:《進化回数+【300】》
─【所有スキル】
・【 龍権限 】
・【 灼焔・黒 】
・【 憤怒 】
・【 悪王の誘惑 】
・【 再命の灯火 】
・【 七紅光輪 】
・【 龍神体 】
・【 不滅 】
・【 終焉の獣龍 】
─【生物情報】
【────────吾、怒りに森羅万象を沈め終焉を齎す大いなる不浄の王なり】
──
わーァ、【スキル】のLvが全部無いや、ってことは全部が”ユニーク級”…或いは”外理級”か。
俺の推測、ってより勘的には後者かなぁ。
のそりと起き上がり俺を天から見下ろす十四の眼を見返しながら、口が自然と弓を描くのを自覚する。
「あぁ、なかなかどうして、───愉しめそうだ。」
先に動いたのはサタナスだった。
その背に生える一見すると龍の翼にも蝙蝠の羽にも見えるソレを羽ばたかせ、暴虐な迄の魔力と暴風を撒き散らし、一羽ばたきで巨城の上へと舞い上がった。
そして一つの龍頭が口を──膨らませた。
様子見に放つのは古今で見る物語での龍の代名詞たる一撃、単純が故に最強種たる龍が放つソレは純粋に強い一息──
────《龍の息吹》だ。
灼焔の息吹が天から降り注ぐ、ソレは空気を焼き払い、灰も残さず燃やす最強の焔。
───ソレを万象を喰らう暴喰の魔神が飲み干す。
一炎足りとも残さずに飲み干した。
「──ケハッハッ」
───█▇█▇█▇█
二匹の怪物は笑う、不気味に不遜に傲慢に、互いに笑う、何が楽しいのか、何が可笑しいのか。
ただ分からずに笑う。
ハハハハッと、ゲゲゲゲと。
次に動いたのは──またもやサタナス。
重い、声とはとても判別が付かない音で歌い、原初の法を組み立てた。
ソレは法、人類史では使える者は皆無であった原初の法理。
想像その物が現象となり、”なんでもあり”の法
ならば、この悪龍は何を想像した? この暴喰の魔神は何ならば殺し得る?
陣は無く、空からソレは──現る。
グロテスクな黒、まるで色々な絵の具をぶち撒けたような黒。
禍々しい死の存在を空間に浸透させるその黒はゆっくりと堕ちる、景色を殺し、死滅させ。
ドス黒いソレは堕ちる
ありとあらゆる大地獄が死の形を取りながら
──堕ちる。
死滅しろ英雄よ、凡ゆる死に呑み込まれ、記されろ、偉大であった、と。
「────ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!! 地獄行きなのは認めるが、向こうから来てくれるとはえらく気前が良いじゃないか!! ────が、後数兆年死のうとは思えねぇから、いらねぇや。」
───腹の足しにもなりやしなそうだしな。
そう大笑いを一変させた化物は背後の影を巨大な龍の頭に変化させると、堕ちてきた法を──
───刹那で喰い尽くした。
それでこそ、それでこそ吾が試練を与えるが相応しい大敵なり。
七つの首を持つサタナスの全顔が猛烈な笑みを浮かべ嗤う。
「ハハハッ、機嫌が良さそうな所に横槍を刺させてもらうぜ、悪いけどなァ?」
白夜が悪童のような笑みを浮かべそう”言葉”を放った瞬間、空を征する悪龍へ、山のような巨槍が真横から刺すように現れた。
防御の姿勢は取らなかった、否、取れなかった。
山のような巨槍、動きが鈍い、そうは言えどソレを出現させたのは”超存在がこれ以上は有り得ない”そう比喩する存在、単一なる理不尽の怪物だ。
”速さ”は未来を見れる悪龍ですら、避けれない。 そう確信し、受ける。 その選択をしなければいけないものだった。
悪龍神の巨躯に大穴が開けられ、そして突き抜けた衝撃は空に亀裂をいれ突き進む。
この怪物達が暴れる想定で作られた空間が、だ。
だが、そんな些細な事、どうでもいい。
白髪を熱風に靡かせる理不尽なる怪物は愉しい、その感情を全面に出しながら自らの”愛刀”へ優しく囁き。
七つの巨口から夥しい呪詛が籠った血を川のように吐きながら悪龍神王は尚も唯嗤う、悪辣に笑う。
「────黒刃。」
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二理の怪物が互いの魔力を垂れ流し、世界の領域を奪い合う。
純黒の魔力と、紅黒い魔力が鬩合う、ぶつかり合い、その間にある空間に絶対的な破壊を生み出しながら、鬩合いは拮抗する。
そう、拮抗していたのだ。
────純粋なまでの黒が更に黒く堕ち、憤怒の領域を喰らい尽くした。




