第五階層”腐死籠堕園” 【 4 】
腐臭に満ちた顎が、俺を下から掬い飲み込もうと迫る、ああ、臭い。
「──黒刃、”魔槍”」
くるりと感触を確かめる為、黒い槍を一回転させ、槍先を”邪龍オスネスト”へ向け、軽く突く。
迫っていた邪龍オスネストの顔面から胴体まで通すように風穴を開け、それに追い討ちを掛ける。
不完全な不死とは言えど、不死は不死、しかも元とが再生力も優れていた竜種ともなれば、不完全でも完全な不死と遜色無い程には不死身をしている。
────だから、殺す。
【槍術】のスキルを引き出してLv.7の武技、
《ゼル・ダゼス・ランス》で”不死殺し”の技を放ってもいいけど、この数じゃあ、な。
一々技放ってたら、──亜樹の剣術上達具合をじっくり見れない、だからさっさと適度に殺す。
口にする必要のない詠唱を短文でつい口遊む
槍先を、いつでも振り下ろせるように、背後へ引き絞りながら
「──”死すら忘れた汝へ、私は告げる。”
────”哀れな生無き汝に救済を”」
不死者に成り下がった友達を救済してあげようと、ある聖職者が作った呪い、その純然たる願いから生まれた魔術。
不死者と、不完全な不死龍では格が違うが……まぁ、それでもコレは歴とした”不死殺しの魔術だ”
俺の引き絞る黒い槍先に、白い光が纏わる
その変化を再生中の邪龍オスネストが感じたのか、風穴が開いて尚も喰らおうと腕を動かし迫っていた邪龍オスネストの身体が一瞬、硬直する
「──ああ、もしかして、聖属性の魔力に嫌な思い出でもあるのか」
オリジナルを丸々模して創られたなら、有り得ることか、と先程、コイツに嗤われた事を思い出し、意趣返しの意を込め笑みを浮かべる
───ゲラ、ゲラッゲラ……!!
微かに、再生途中のヤツの口皮膚が引き攣ったように見えた、──が、知らん。
「ぶっ死ね」
俺は満面の笑みを浮かべながら黒い槍を振り下ろした。
脳天をかち割り、敢えて一点に収束させなかった衝撃が、振り下ろした槍先を中心に、聖属性の魔力を纏いながら拡散する、
走った衝撃は周囲の邪悪なる龍に渡り、破壊する、その魔力を身体を、不完全な不死を
──それでも、一掃とはいかないのは、流石の一言だろう。
俺を喰らってやる、その気概を感じる気迫と共に、
────上空から迫る剥き出しの”無数の牙”
「ケケケ、骨だらけだから飛べないと油断したぜ」
まったく、自分で言った癖に
余所見が過ぎたな、と反省し、振り下ろし戻す途中だった黒い槍を、──離す
宙に放った黒い槍に、軽く足で触れ、槍先が上空を向くように調整する
さて、体が宙に浮いた状態から放てる投擲……投擲?
「ま、なんでもいいかァ!」
石突の部位を、────蹴る。
放った黒い槍が、白い魔力の残影を残し、上空から迫ってた”山のような骨を固めた龍”に大穴を開けた
「昔から足癖が悪くてな、おかげで空中でも投擲威力に不足しない、はははっ!」
創楽との空中投擲勝負の成果で精度も百発百中だしな、よく魔術で補完しろよとは言われたが。聞き流し練習を重ねた甲斐があったと言える程には役立っている。
自由落下に身を任せ、抉れた大地へ落ちるのを呑気に風を感じながら、あー、風があると臭いが少しはマシだなと思う、
上を向いて落下していたからか、黒い光が俺の横を通り過ぎるのを見た、ソレは俺が投擲した黒い槍、黒刃だった。
俺より先に大地へ黒い槍が俺の着地先に刺さるのを眺め考える、コレは…踏めってか。
いや、有り難いちゃあ有り難いが、地面ぐちょぐちょだし、まさか上の骨や腐肉を吹っ飛ばしたら中から更に汚い謎の腐肉…? が出てくるとは思わんかったし、でも俺の靴も結構汚れてる、よ?
そう思念を飛ばすが、バッチ来い! との思念しか帰って来ない、……仕方ない、こうすりゃいいか。
靴に着いた”怨の魔力”がこびり付く腐肉を浄化の魔力で消し、ついでに汚れも浄化する。
これで良し、と。
そのまま体を捻り、体勢を整え石突の上に着地する、
おお、安定する。
一切の揺れもさせない黒い槍の上で、さてと。と一息、今も絶えなく剣を振り続ける亜樹へ目を向ける。
そこには先程とは比べ物にならない斬撃を、一瞬の内に二閃、三閃と繰り出す姿が。
おおー、と思わず感心と驚きの声が漏れる、その成長速度に、その熟練を感じさせる剣技に。
「ふーむ、動きは、何処か演舞を思わせるなぁ」
んー、ああ、”ユグドラゴシル”は、元はユグドラシル、世界を体現する巨大な木を表す、世界樹から来てる、大分変わった形だけど、それが進化、または祀られ過ぎて龍へと転化したものが”界樹の龍”
元からその”上位種”だった亜樹からすれば、演舞の知識は身近なものだった、てことか。
世界樹を信仰するエルフの剣舞は、さぞ熟練された舞だったのだろうな。
「ま、”観た知識”があろうとも、ソレを再現、昇華出来る熱意があるかどうかは別問題だろうが、な。」
立つことも本来なら儘ならない、足場で、ソレを一切感じさせる事なく舞うように山のような巨躯を、斬る斬り捨てる、亜樹を見ながら、綺麗だな、と感想を抱き、自分でも分かるくらいの笑みを浮かべる。
「あー、そろそろ終わりか。」
もう少し見てたかったんだがな、と残念な気持ちに蓋をし、褒めて欲しい、感想を来れ、と雰囲気を存分に纏い、無表情で宙に魔力で足場を作り跳ねやって来る亜樹を撫でる為に、取り敢えず身を綺麗にしようと浄化の魔力を準備する。




