第五階層”腐死籠堕園” 【 1 】
-==≡カサカサ┌( ┐・ー・)┐
一歩、一歩、歩を進める毎に強くなる、死の匂い。
廃骨が大地を形成し、敷き詰められた腐肉が不快な感触と共に音を成す
───ぐちゃ、ぬちゃ
粘り気のある腐肉は生者の歩みをまるで死へと誘うかの如く、歩を引く
ソレを見下ろす紅い月が、笑みを浮かべる、歪に嗤う三日月のように
───第五階層”腐死籠堕園”
生者を喰らう腐肉を纏う龍が、顎を開き、妖しく紫色に鈍く光る焔を瞳に宿しながら、その口内へ生者を向かい入れる。
「クセぇよ口開くな。【龍神顕化】【巨龍の双腕口】」
──筈だった、
一人の生者の片腕が変化し現れた巨大な龍の双腕が腐肉の龍を、掌で容易く叩き潰し、
────掌に開いた口に喰われた。
空に浮かぶ紅い三日月が、微かに引き攣った口のような形になった。
「腐敗の龍”ラ・ガ・ダゼス”とは言え、汝様の前では唯の悪臭を放つトカゲか。
───憐れ、とはならぬか、歯くらい磨け。……無茶か。」
生者、亜樹はそう悪臭に無表情の顔を密かに顰めると、微かでも腐肉やその腐血によって髪を汚す事を嫌い結った髪を揺らし、その腰に差した剣を、抜き凪ぎ斬り、
左右から挟むように迫って来た山のような巨体を誇る”骨の龍”を斬壊させた。
その斬撃によって破壊された骨を一見し、亜樹は眉を顰める
「腕力による風撃ではなく技による斬撃が放てるようになったのはいいが、まだ無駄な衝撃が走る、か、……修行不足。
───骨が斬撃の衝撃によって破壊されるのが、己の不足を証明する証だな……」
”汝様のような究極の斬閃を目指す道筋は遠そうだ”そう呟く亜樹の周囲に遅れて黒緑の斬残が一瞬漂う。
それを横で聞いていた白夜はしみじみと思う、”それでも居合を自分の一番の武器だとニヒルに笑う雷切より上の斬撃だったけどな”と。
”あのオジサン泣いちゃいそう”とも、なんとも決める時は決めるが普段の行いが残念なオジサンな為、尊敬とは程遠い位置に居る、無精髭を伸ばすSランク冒険者の姿を思い浮かべながら白夜は思い、そしてブツブツとこうじゃない、こうかも? と構えを整え反省を繰り返す亜樹の頭を無言で撫でる。
────ォォォォォォォォォォォォオ
そんな白夜と亜樹の周囲を囲うように長い胴体の腐敗した龍が、冥府から響いているかのような咆哮を上げ、腐敗を凝縮した大地から出て、とぐろを巻く。
その龍は蛇のようだった、長い胴体、崩れた肉、薄汚れ所々剥がれた鱗、そして剥がれた鱗の隙間から覗く”おぞましい目玉”──···
··──それは”蛇竜”の成れ果て、果ててそして、その果てから歪な進化をしてしまった”概念”
死んでるが故に死なず、などとゆう矛盾を抱えた”不死”
蛇竜は蛇龍へ、それが”当然とある概念たる混沌に至れず”、”複数の形へと身を堕とす”
────その体は不完全な形で不死となり、完全な異形と化した。
山を繋げたような長く巨大な胴体に、疎らな腕が生えている、その数は二つや四つなどでは、なかった。
まるで百足のように、しかし揃った足を持つ百足と違い、蛇龍の手脚はバラバラ、数も大きさも左右でまるで違う、揃わず、揃えず。
ソレをウワァ…と嫌そうな顔をしながら白夜は言う
「出たよ、ゲテモノシリーズ、俺が潜るダンジョンに高確率で居るんだけどォ!」
修正、白夜は叫んだ、心底から、SAN値がどんどん削られるとばかりに。
「仕方なし、複数の生物の形を取るのはそれが強力だからだ、一つより二つだ、例え一つが、本来の形よりも不足しようとも、
───こと”力”だけに視点を置けば、二つの方が強力なのだろう、──醜悪極まる、とゆう汝様の言葉には賛同するがな。」
「そこまで丁寧に口悪く罵ってはないけど…!?」
静かにツッコミ返す白夜、それにキョトンと無表情で首を傾げる亜樹の二人へ、
振り下ろされる歪な形の巨腕
繰り出された無造作な一撃は、圧倒的な破壊を生み出した、
大地の体を何とか成してた、腐骨を、腐肉を、ただの腕の振り下ろしで歪ませ、粉砕し巻き上げた。
────ゲラ…ゲラッ、ゲラゲラゲラゲラ
紅い月が照らす腐敗の地に、嘲嗤う声が嫌に響いた




