呼び方。
ステータスの確認を終え、さて次にする事を考え纏めようとする俺に後ろから亜樹が声を掛けてくる。
「うむ、すてーたすの確認作業は終わったと見ていいか?」
どうやら少し待たせたみたいだ。
「あぁ、終わったよ、どした? 何か急用かな、その表情は。」
「すまぬな、少し、な。」
どうした、ボケ担当と俺の中だと位置付けられて来た亜樹に似合わない表情してるぞ。(ド級な失礼)
「どうした? どれもこれも急ぎの用事じゃないから、言ってみそ? 話きくよ?」
「……己は……。」
「うん……?」
己は…?
「汝をなんと呼べばいいのだろうか。」
────知らんがな……。
と、言いたいが、ここでそんな事を言ってとんでもない呼ばれ方されても困る? 困る…と、思うし……。
一応真面目に聞こうか、な?
「…んーと、何故急に、そのような?」
「あ、いや。 急と言う程では無いのだ。」
ほむ?
「己はふと、思ったのだ、」
「うん? 何を?」
「───夜伽の時、汝の事を思い喘ぎを上げる時、汝、汝と呼ぶのは些か、どうか、とな。」
「キリッ、じゃねぇんだよなぁ……、貴女の思考が些かどうかの領域に足を踏み入れてる、てか踏み抜いてるんだよ。
俺の──真面目に聞こうか、な?(慈愛)
の精神を返せ。」
「慈愛と看板を掲げるにはあまりにも疑問印の主張が強過ぎはせぬか、汝よ。」
「そもそも一人称で”己”って使ってるのに、そこ気にする?」
小首を傾げる亜樹。
「向こうでは100年以上生きた者が使う一人称としてこの地での”儂”や”妾”などと同じ位置にある程人気の一人称なのだが……、もしや、この地では違う、のか………?」
「異世界ギャップだなぁ、てかそんな人気な一人称なのか己、そして何故その儂や妾が人気なのを知ってて己がマイナーだと知らんのだ。」
「どうしても己らの得られる知識は”己ら偉大なる母”の好みに左右されるから、だな。」
「あ〜、成程、ここの”お母さん”も智核と一緒で自分の趣味に合う知識を偏らせるタイプか。」
「うむ、…戦闘に関連する知識以外を授けられない者共よりも己は豊富な知識を授けられている分、未だ良しな部類だと自負するがな…。」
そりゃそうだ、誰も感情があるなら殆どのヤツが戦闘兵器になんて成りたくないわな。
そうじゃないとしても知識が無いだけで戦闘で不自由する事にもなるだろうし。
「それで、汝をなんと呼べばいいのか、良案は出たか?」
「んや、まったく考えてなかったから出とらん♪」
「このままでは汝の呼び方は”己らが最上なる雄様”と成るが……?」
「おまっ、根本的な解決から遠のいてるジャマイカッ…!?」
そっちの方が呼びにくい、てか呼んで欲しくない! 流石に!
「冗談だ。」
無表情の冗談は冗談に聞こえん……。
「一旦で善い、代案は浮かばぬか?」
「ってもなぁ、そもそもどう呼びたいんだよ? よっぽど酷い呼び方じゃなきゃどう呼ばれても俺はいいんだが、それこそオマエやキサマとかでも。」
「うーむむ、取り敢えず己が汝の所有物だと分かるような呼び方をさせてくれれば善いのだ。」
まずその点からツッコミを入れたいが、……スルーしとくが吉か…?
「もう汝様とかでいいんじゃね?」
てか汝って元から”おまえ”とか”テメエ”みたいなニュアンスで使われる言葉じゃ無かったけ…? 忘れたわ。
「善き、採用だ。では宜しく頼む、汝様」
……ま、いっか。 呼び方の正しい使い方なんぞ、人それぞれだし、時代、場所、によって変わる物だしな。
「──あぁ、宜しく亜樹。」
妙に雰囲気がニヨニヨしてる無表情の亜樹を傍に、俺はある問題に頭を悩ましていた。
それがコレ。
”分類魔法──【転移】”
・転移の魔法、対象の存在抵抗力を無視して強制的に転移させる魔法、その改造版。 性能は世界の境界線を崩さぬ様な繊細な式が組み込まれている、更に、対象を1人に絞る事で、更なる転移性能の向上、だがその為、この転移魔法は他の生命体には全くの干渉が出来なくなってる。 対象者【式理白夜】
・転移地点、別世界・帝国
・発動者・自称”試練のダンジョンのコア”
──────《段位50》
なーんで俺、このダンジョンのコアさんに異世界の帝国に飛ばされそうになってんの?
異世界転移? 流行りの? でもなんか違くなぁい…?
しかもご丁寧に俺専用の”転移の魔法”を新たに創り出したみたいだし。
え、なに、そんな邪魔? 祝福までしてくれてるのに? えー。 泣きそう。
「手な訳で何か心当たりある?」
「何が”手な訳”なのか分からぬが、偉大なる母の思考なら少し読めるぞ。」
「お、マジか。」
「うむ、」
「教えてくれ。」
出来れば直す!
「まず、己ら偉大なる母は、性格からして”試練”と名前をしたムリゲーを挑戦者に課すのが趣味だ。」
それは悪趣味と言うのでは……? 俺は訝しんだ。
「あの悪趣味染みた試練を課す偉大なる母の事だ、
────汝様の実力が予想以上に化け物染みてるのに自分の課せる試練が釣り合ってないと確信したのだろう。
結論、リニューアルをする時間を欲してるのでは? 一日程。」
「へぇ、成程なぁ……。 そうゆう事もあるのか……うん、うん。 ありがとう亜樹。」
「役に立てたようで何よりだ。」
んー、でも帰ろうとした時間まであと1時間半以上もあるんだよなぁ…。
───せっかく用意してくれた魔法だし、乗ってみるのも良いかな? 少し……気になる事もあるし、な。
???「娘よッ……! 後一日って言いはしたが、アレ取り消す事出来ぬかなぁ……!?
───あ"と"い"っ"し"ゅ"う"か"ん"は"ほ"し"い"……ッ!!!」




