龍の死骸を呑み、大地を呑み、そして──
龍神が墜落する、翼を胴体を、一線に両断された龍神が海へ堕ちる。
それを見送り、俺は”帰ってくる”龍神を宙に足場を創りながら眺め待つ。
俺は確かに”龍神”に自分が最も得意とする居合い斬りを浴びせた、──しかし、だ。
少しの緩めでブレスを斬ってから次元にズレが生じるように小手先の技とも言えない手抜きをした。
それの性で俺は”不滅の概念”を斬る斬り方をしていなかった。
てか、ブレスを斬ろうとはしたが、別に後ろにいた龍神まで両断する気は無かった。
思った以上に俺の居合い斬りの技量は進化してたようで、次元のズレの次いで後ろの方まで斬断した、してしまった。
そうアレは事故なんだ! ……なぁんて茶番は置いといて、十中八九あの龍神は海から這い上がって来るだろう、あのHPの減り具合じゃ十数年は掛かりそうだけどね、
────”普通の自然回復を待つなら”と枕詞が付くけど、ね。
「もう少し楽しめそうだな。」
俺は口角が釣り上がるのを感じた。
さァ、 自然の化身、神の見形、力の概念とも謳われる龍の死骸吸い尽くし、龍の神よ、次は何を吸い尽くす?
「ハハハッだよな、生命を喰らえば次は
────”星”だ。」
目に見える範囲の大地が、まるで命を吸われたかのごとく砂塵に還る。
─俺の気配察知が届くこの巨星全体の大地の死滅を感じる。
少し、胸が高鳴る、俺を殺したいが為にここまでしてくれるのか、と。
今、俺はとても醜い笑みを浮かべているだろう、仕方がない、楽しみなのだ、俺と相対した者の殆どは二度の”死”で諦めてしまう。
それが二度の死を知覚し尚も俺を殺そうとしてくれる、幾つかの感情を無視しても残るのは、何故か嬉しいと言う感情。
──ははッッ、この巨星のエネルギーを呑み干してるな、あと数秒で出てくるだろう。
ん? 龍神の体格が縮みだした? んや圧縮か。
無駄となり得る総てを押し込み、体の構造すら変えだしたな。
ふぅーん、なるほどなぁ、龍を龍たらしめる半概念体という特性を捨て、いや改良しているのか、自分の属性、司るモノに殆どの概念を注ぎ込み、纏い、いや、いやいや、違うな、コレはァ
概念体と同時に物体である理を共存、概念50パーセント、物体50パーセントではなく、混ぜ込んだまるで別の法則、”概念”であるが故に世界への自分が司るモノ以外の物理干渉力を減らされるデメリットを完全に消し、”龍種”でありながら”半概念”であった物体を完全に混ぜ、”混沌と化し”、どちらも手に入れた、か。
概念であるが故に死なず滅びず、不滅。
物体である体が最強であるが故に堕ちず、名に恥じない最強種。
「さて、何がでてくるかな。」
鬼が出るか蛇が出るか、と言いたい所だけど、藪蛇突いて突いて出てきたのが龍の神様だからなぁ、定番の文が使えなくて残念…、
「ん、大仕上げかな。」
死んだも同然のエネルギーが一切無い、もはやただの大きな球体の物質となった巨星に唯一残されていた母なる海が、たった今、刹那の時で呑み枯らされた。
新生を果たした、そう言えるだろう変貌を遂げた龍の神へ、俺は言葉を投げる。
まるで人のようになった人型の龍の神へ
「先ずは、Happybirthdayとでも声を掛けた方が無難かな、龍の神様?」
なんてね、返答が返ってくる訳でも無いのに何を言ってるの──
「──〖あΣァ〗、ー■▂、いや、この言語か。」
わぁお、びっくり。
「喋れたんだ。」
「あぁ、今し方な、汝が己を蹂躙してくれたおかげでな。」
無機質にも見える髪色とそっくりな黒緑色の瞳が俺を射抜くように見据える。
「ははは、恨み言は聞く耳持つ気は無いよ。 だって殺し合いだからね。」
「百も承知、……思っていたが。」
ん? 龍神が俺に初めて諌めるような感情を向けて来たな、少し新鮮。
「汝は少々物事が見え過ぎている故に自己完結し過ぎる傾向が視える、まだまだ若いのだ、寄り道も時には善き事だと思うぞ。」
「────」
……諭された、直そうと思ってた部分を的確に諭された。
だが、そうだな。
「あぁ、その忠告、有難く心に残すとするよ。」
さて、戦闘、って雰囲気じゃ、無くなっちゃったな。
「けど、殺るしょ?」
「是だな、己は汝に試練──いや、己は、汝を打倒したい。」
「打倒? 殺したいじゃなくて?」
「うむ、死んだらそれまで、しかし己は奇怪な事に汝を殺したい、とまで思えない、だが闘いたい、打倒したい。 そう言う願望が、汝のおかげで明確に芽生えた、芽生えて、しまったんだ。 植物のようにただ思考し生きていただけの己に。」
龍神は溢れ出す感情を吐き出す様に、俺に告げる。
その無機質に見える瞳に、俺しか映さず、ただただ静かな激流のように感情を露出する。
産まれたばかりの赤ん坊が泣き出すように…、
「──嗚呼、なんて、なんてモノを汝は芽生えさせたのだ、コレはどんな血より甘く、どんな果実よりも美味な、──どうする、そうだ汝は誕生おめでとうと言ってくれた、己を殺したのも汝だ、歓びを与えてくれたのも汝だ、どうしてくれる、嗚呼……どうすればいい? どうしていい?」
わーぁ、ここまで複雑な状況になってしまうとは、思わんかったなぁ……。
でも、そうだな、俺も助言を一つ貰った事だし、ここは俺も一つ解決策を投げようか。
「なぁ…龍の神様よ、何をそこまで悩む? 芽生えた感情を抑えられない? 混合する願望に戸惑う? 善いじゃないか、寄り道がいっぱい、産まれた理由もいっぱいだ、そこでどうだろうか、ここは一つ、その迷いを産み出した元凶を殴る殺す打倒、なんでもいい、やりたい事を全てやってみる、って言うのは。」
俺が挑発的な笑みを浮かべそう言えば、龍神は漸く落ち着いたのか、荒ぶり混合し絡まっていた感情と願望が静かな水面の様に収まりを見せる。
「──そうか、そうだ、な。 己は産まれたのだ、使命に縛られる頃の己ではない、今なら、今ならば
────なんでもやっていいのか。」
初めて、新生初めて、龍神は笑みを浮かべた、その笑みは樹木のような、少し口角が微かに上がる静かな笑みだ。
「待たせた、随分と長く、永く待たせてしまった気がする、
────やろうか己を殺してくれた、この世で最も強き者よ。」
些か、役不足かも知れぬがな。 と自信なさげに龍神は呟き、手を此方へ伸ばす。
「ああ、やろう。」
「フフ、 ”混沌樹の神龍姫”たる己が”詠う”──〘矢は、死せる巨星、弦を引き、死せる巨星は一条の光と化し、強大なる壁を射崩す──討て巨星一矢〙」
エネルギーとなる総てを吸われ死んだも同然の巨星が、刹那の間に収縮され、光速と化し放たれた。
おいおい、いきなりとんでもねぇ”魔術”を魅せてくれるじゃねぇか。
放たれた巨星を【龍神顕化】させた片腕で軽く凪弾く、弾かれた巨星は光速で突き進み、宇宙の何処にあるダンジョン階層の壁をブチ破り突き進んで行った、 ………まぁ、下に飛んでったし、どっかの階層で超新星爆発して止まる、……かなぁ…?
「しっかし、はは! 龍に足場は必要無いとは言えど、いきなり舞台を矢にしてブッパなすなんて、静かな雰囲気からは想像出来ない豪快さだな! でも好きだぜそうゆうの。」
翼も生やさず、素足で宇宙空間に立つ龍神へ笑い掛ける。
「フフフ、擦り傷でも、と期待してはみたが、やはり無駄か、しかし”好き”とは大胆な。」
「あんだよ? 言葉にするのは結構大切だって聞いたぞ、お気に召さなかったか?」
「いや、そんな事ない、己の”心”が揺れるのはまだまだ産まれたばかりの為だ、あまり気にしてくれるな。
────それよりも、己にばかり目を向けていて良いのか? 狡いなどの文句は己も聞く耳を持たぬぞ?」
迫ってた”次元を潜る根”を斬り落とす。
「死んでも言わんよ、落胆はさせないから安心して斬り伏せられろ。」
「なに、言ってみただけさ。 ──《燃ユル惑星》」
そう可憐に微笑み紡がれた龍神の詠により、俺の視界は────真っ白く染まり上がった。
★珍しく意味の有る設定!【竜と龍について。】
一:竜とは、言わずもがな強いの代名詞、伐てば英雄、挑めば勇士、となれる程の生物としての最強種。
その体は強靭で、どんな生物よりも強く、どんな生物よりも魔力の蓄え量と生成量が多い、だから強い、シンプルな強生物。
二:現代のドラゴンの分け方、呼ばれ方は色々あり、だけど主に覚えておくといいのは、物語での生体の違いではない、と言うこと、
竜は西洋のドラゴン、龍は東洋のドラゴンという括りで区別されてる、という訳ではない、ただ、強い方に画角が多い”龍”の字が採用されてるだけ。
その安直さが”異世界”での竜と龍を分ける定義にマッチしていた。
三:【異世界の竜と龍】強さの違い。
【竜は翼で空を飛び、魔力も豊富で強い、さらには無尽蔵とも言われる魔力回復量、人間が一千万居ようとも敵わない敵う箇所が一つも無い、それが最強と言われる由縁、しかし、幻の生物と言われようとも生物である限り死ぬ。】
【龍は翼が無くとも宙を翔け、”半概念の化身”その為、概念とは攻撃出来る対象では無い為、最強であり半無敵、である、それも司るモノがある龍は次元が違うと言われる程どうしようも無い。対処方法のない終末災害とも言われる。】
この二つを常識に。
竜は大国の英傑達が力を合わせれば討取れるモノ
龍は対処方法のない現れたら終わりの証とされている。
四:”もともと超条の存在を知っていた裏の世界”では今の所、名称とか、どう分けようか、と会議中の為、裏の世界ではブレブレ、どうやら古くから続く伝統を疑うのか! とそこ議題じゃないのだけど? と言いたくなるような声を荒らげる老人共が煩く決まり兼ねてるそうだ。




