閑話 死力を尽くして
動き出す、傷付いた体を引きずるように、それでいながら衰えない脅威をたしかにその身に纏い、
赤く染まる眼光を、ゆらりと揺らし、
その不気味な程に静かな動脈は、嵐の前触れか。
ワイバーンはたしかに劣等竜種と言われている、
しかしこのように簡単に大地に体を沈めるほど、ワイバーンは弱くない、ならば此度の討伐での優勢は何故か、
偏に、初動の動き、それに加えた強者たる油断を上手く付けたことにあるだろう。
矮小な生物ごときをただ捻り食らう、その強者たる心の油断により片眼の損失、
眼を失ったことにより、獲物を殺す狡猾さを、体の動かし方を誤り、地に叩き付けられた、
地に付いた体を起こすのに、怒りと微かな怯えを含み、それにより起こった体の硬直、
その隙を見逃さないとばかりに、普通の生物に使うにはあまりにも過ぎた火力の連激、
即決とは思えない程に連携をなした冒険者達、
その連携はワイバーンになにもさせず、確かに追い詰めたのだ、
だが、これからだ、古代からの常識だろう?
───追い詰められた獣は、何よりも恐ろしい、と。
心して掛かるといい、なぁ? 親愛なる乗組員よ?
暴風を身に纏い、銃火器や身を削ぎ落とすような剣技からワイバーンは身を守る、
そんなワイバーンの首に糸が掛かる、夜の景色に溶け込むような黒い糸が、
ぎりぎりぎりぎりぎりぎり、と皮膚を削るような音を鳴らしながらワイバーンの体が大地へと引き摺り込まれる、
「ふぅ、有ってよかったギルド製の暗殺糸だな、」
「なにネ、そのダs…安直な名前の糸、」
一仕事終えたとばかりに安堵の息を漏らすディランにそうツッコミをいれるリェンファ、
「いま、ダサいって言おうとしてなかったか……?」
「言てないネ。」
そう軽口を叩く二人だが、リェンファはディランを背に、ワイバーンへと警戒を一切弛ませることなく、睨み付けている、
チラリとディランの腕に目を向け、すぐにワイバーンへと戻すリェンファ、
「ォォオオオオオ!!! 畳み掛けるぞぉ!!!!」
一斉攻撃を再開する冒険者達を見ながら、ボソッとリェンファは呟く、
「その腕、ささと後方支援にいる回復魔術師の人に見せた方がいいネ、早くしないと壊死するヨ、」
ディランはその言葉に苦笑いを浮かべながら自分の両腕を見る、そこには紫色に変色し、腫れ、切れ込みが酷い腕が、
震え、まともに動かない腕を見ながらディランは愚痴る
「たくっ、あのワイバーン力強すぎだろ、こちとら使い捨ての”超・身体強化薬”まで使ったのに、体を横転させんのが精一杯だったぞ、」
「横転十分ネ、あんな怒り狂う怪物を一人で横転、誇っていいネ、だから早くその腕治してもらてきなヨ、」
「いやー、正面戦闘も出来るんだぜ、みたいなニュアンスを使ったのに、この十分の討伐戦で功績が横転だけってのは、少し、その……恥ずかし…痛ったぁ!?」
ベチン、とディランの頭部に空気圧の指弾があたり、仰け反る、
指弾を当てたリェンファは呆れた顔で言う、
「バカ言てないで、はよ行け。」
「う…ういっす……。」
ゴォン、暴風が巻き上がる音が轟く、
「や、やっぱり居ちゃだめ、デスヨネ、はい、負傷者ディラン、後方支援に移りまーす、、、」
エヴァは悩んでいた、こんなこと初めての状況だからだ、
自分の戦法、相手になにもさせず、圧倒的な火力で消し炭にする、
その戦法が、ワイバーンには凶と出てしまう、
撃ち出した弾丸は暴風に巻かれ、爆炎は纏う風に熱を与えるだけとなってしまう、
詰みとは言わずとも、こうなってしまうと逆にエヴァの攻撃は邪魔となってしまう、
ならば指を咥え見ているか?
「答えはNO、だよなァ!? エヴァバートン!」
ハッ──ハァ!! と笑い、影の中で、
”影の中に収納”している銃火器を解体、作り替える、
作り替えた銃火器、を影から覗かせ、放つ、
「威力はあるが、射程とブレが安定しねェ!次だァ!」
起き上がり宙を飛ぶ”首に糸を引っ掻けたままのワイバーン”の羽を掠らせる性能を持つ銃火器をそう切り捨てまた解体、作り替えへ、出来上がったそばから放つ、
「命中精度は上がったが威力が足りねェ! こんなら後方支援の銃弾で足りる!」
俺ァが求めるモノはこんなんじゃねぇ! そう言い、エヴァは戦闘を続けながらも試行錯誤を繰り返す、それも確かに戦闘へ貢献しながら、
暴風に巻かれない速度を持つ弾丸を、
雷に誘爆させられない爆弾を、
放ち、解体、作り替え、放ち、を繰り返す、繰り返す、何万と、何百万と、10秒間に繰り返す、
これがエヴァの真髄、その戦場に合わせた適応を秒間で魅せる、見せ付ける、
ァハハハハッ!!! ハッハ────ァッ!!!
と笑い声を荒げ、エヴァは狂ったように災害へと適応した武威を網続ける、
「ハハハ!! 少しはマシになったカァ!? 」
青白く輝く銃弾が繋がるカートリッジを、まるで羽衣のように揺蕩わせ、大きな銃身を両手で引きずり笑うエヴァ
放たれる弾丸は青白い線を夜空に残し、ワイバーンの体に傷をいれ続ける、
───ギ"ァ"アアアアァ!!!!!!!!!
怒りの咆哮がワイバーンの回りに付きまとう冒険者達を弾き、
それでも攻撃の手を弛めないとばかりに冒険者達は武器を振る、
血が飛び散る、武器が砕かれ、意識を失った冒険者がまるでゴミのように転がる、
ワイバーンは羽の一枚を完全に破壊され、胴体は臓物を晒す、
首にはもがいても取れぬ糸が括られ、
ワイバーンの動きを止めるようにLv5以上の《武技》が振るわれる、
優勢は、冒険者達だ、しかし、その優勢も決定打に欠け、一つのミス、ワイバーンの一つの動きで壊れかねない、
薄氷の上の優勢。
羽を振り回し、雷鳴纏う暴風の刃を飛ばすワイバーン、
それを大剣を持つ冒険者が何とか切り裂き、仲間達を守る、
それと同時に他の冒険者達が間髪いれずに攻撃を叩き込む、
微かなワイバーンの怯みを見逃さず、後方支援部隊が意識を失った冒険者達を機空戦艦の内部に運搬、
絶えずに掛け続けられる冒険者達の強化、ワイバーンにも絶えず掛け続けられる弱体化、
ワイバーンが一番警戒しているリェンファには、固定砲台と化しているエヴァに、捥げ掛けの鱗を弾丸のように魔力で飛ばすことで、そのエヴァに飛んできた鱗を破壊させることに専念せざる負えなくする。
「 糞が 」
しかし、一振り一振りで飛んでくる鱗を破壊しているリェンファだが、その飛んでくる鱗のあまりの硬さに悪態を付く、
切り傷が絶えないリェンファの手の甲や、腕、肘、足、そのどれもが”気と魔力”で強化してるのにも関わらず、紫色に変色し腫れていた。
「修行不足、糞、糞、糞糞糞糞糞……!」
ズルン。そんな重い音共に、凄まじい形相で悪態を付くリェンファの袖から大きな刃が出てくる、
その一振の大刃に、リェンファは”気”を使いなれた”気だけを”集中、凝縮する、
また飛んできた鱗を、かかげた足を勢いよく落とす踵落としで踏み、砕き。
大刃を持った片手を、消えるような速度で振るう、
降られた片手には、大刃は無く、
しかし、次の瞬間、暴風を纏っていたワイバーンの暴風が斜めに裂かれ、その切れ込みとしか言いようのない跡をなぞるように、ワイバーン豪羽が中間から切り裂かれる、
「糞、一本殺っちまったネ」
そう怒鳴るリェンファの足元から斜めに、崩れ落ちた鉄が転がる、
「ハハハッ!! 一本で羽一枚! 上等だろォ!」
「ババアなら壊さずに羽二枚は持てけたネ!」
「そらァ比べる相手が悪りぃだろ! ハハハッ!!!」
そう軽口を投げながらもエヴァは撃ち続ける、冒険者達も体勢を崩したワイバーンに好機と魔力をじゃぶじゃぶ消費しながら《武技》放ち、確実にワイバーンの命の火を消しに掛かる、
その好機をさらに後押しするように、夜空に声が響く
『 やぁ! 待たせたね! みんなの艦長だよ! 』
グォ───ン、と腹の底に響くような音が鳴り響き、戦場盤と化してる機空戦艦の真上に、魔法陣の下から五十を越える砲身が覗く、
『 後方支援部隊による、魔力がたーんまり詰まった砲弾装填完了! これより一斉砲撃を開始する! 各人気お付けてね!? 』
あまりにも一方的な支援宣言だが、冒険者達の顔に浮かぶ表情は笑みだ、
戦い、剣を振るい、弓を射り、魔法を放ち、みなが言う、待ってましたー!とやれやれぇ!とガヤを飛ばすように、それでいて気持ちよく、
『 ふふんふ♪、ならば撃とう! さぁ!みんな準備は万全だろぅ!?
────放てェー!!!!!!!!!!!!』
その号令と共に冒険者達は各人放てる最高の一撃を放ち、ワイバーンの側から離脱する。
数十の《武技》と、魔力の籠った砲撃がワイバーンを襲う、
途轍もない爆炎が轟音と共に、夜空を赤く染め上げた。
ぐらん、と糸が切れたようにワイバーンは落下する、
それに思わず”うッシャァ!!”と声を上げるのは戦い抜いた勇姿達、
「シッ、って、リェンファ?」
冒険者達と一緒に小さくガッツポーズを空に落ちるワイバーンを眺めながらするエヴァの横をリェンファが猛スピードで走り出す、
劣等とは言えど竜種、その生命力を舐めてはいけない、
光の無い眼を開き、劣等竜種は大きく吸っていた空気を、魔力と共に、
─────吹き出す、
「いや、大人しく死んどくネ、」
音が凪ぐ、
「─────命静崩震 」
トン、と軽く押された掌にワイバーンの命の火は完全に止められた




