閑話 外道だが下道には無き恩義の感情を
どういうつもりだ。
そう二人は問い掛けるが、女は可笑しそうに、まるで人を小馬鹿にしたようなチェシャ猫のように嗤う、
その女の態度に二人は怒り抱いた殺意と共に、ダニエル・ウィントは縫い付けられていない片手で隠しナイフを女に投げ付け、仮面を被る者は両足に仕込んだ刃をアクロバティックな動きで足を動かし女に振るう。
迫る二つの刃───、
しかしその二つの刃が女を傷付けることは無かった。
女の後ろにいつの間にか現れた巨漢、投げ付けられたナイフはデコピンの要領で弾かれ。
アクロバティックな動きで迫った刃は子供の蹴りを大人が優しく受け止めるような感覚でぽん、と受け止められた。
『貴様ッ!?』
『梟……ッ!? ッチ…!』
目を見開くダニエル・ウィント、身の危機を感じ瞬間的に距離を取ろうとする仮面の者
しかしその行動は背後に回った一人に止められた、否、正しくはその行動をとるために必要な足を切断された。
『ギ……ッ!! ィッとち狂ったかッイカれ女ッ…!』
そう仮面の者が怒りを向ける先には、眼帯を着けた真っ赤な髪を三つ編みにする古傷だらけの女がいた。
『アァ? なにが?』
そうまるで意味が分からない、そう言いたげな反応を返す女の周りには、
腕を雑に捥がれた者、足を切り飛ばされた者、骨が捻れ曲がりのたうち回る者が、
転がっていた。
仕事仲間をバラシやがったのか……ッ!? と絶句する仮面の者
その横で肩に刺さった大刃を抜こうと痛みに喘ぐダニエル・ウィントは霞む瞳を開け、唸るような声で、無傷で立つ者達に言う。
『何時からだ……ッ』
その疑問に答えるのは、目の周りの隅がヒドイボサボサ黒髪の男だ、猫背の彼は答える
『何時から……? ははっ、
───なぁ、逆に聞かせてくれよ、ウィント様、あの大厄災以降、手厚く支援をしてくれたギルドの片方、そしてその人達一生懸命作った復興の掛橋を、自分達の私利私欲の為に、落とそうとするヤツラと何時から、俺達は"何時から"なんて言われる程絆を育んだ? あぁ違うか? 部下だと思ってたか? なぁ”ウィント”大臣のご子息さま?』
その返答にダニエル・ウィントは血が出る程に歯ぎしりをする、その表情は憤怒に染まっていた。
『ゴミを部下に据えようとしたのが間違いだったと言う訳か……ッ!! 覚えてろよ貴様ら、許さぬ……ッ絶対に殺してやる……ッ!!』
そう憤怒を露にし、静かに殺意を振り撒くダニエル・ウィントを無傷で立つ者達は嘲笑う。
『アーァ、これだからたまたま”職業”にスパイの才能があるだけのボンボンをこうゆう家業に置くのは反対なんだよォ俺ァ』
そう嗤うのは古傷だらけの女。
『オデも同意するんだな、コイツみたいなヤツの下に付くヤツラが可哀想なんだな』
古傷だらけの女の辛辣な言葉に同意するのは、仮面の者から”梟”と呼ばれた巨漢だ。
『だからワタシ言たネ、普通の依頼で乗ろうテネ。』
『仕方ないだろう、ボクたちがあのお方に少しでも近付きたいならこの方法が一番都合がよかったのだから、色々とね。』
毒姫と呼ばれた女が、デカイ爪のような刃を挟む腕を頭部で組み、そうぼやき、
隅がヒドイボサボサ髪の猫背の男が説明したろ? 我慢してくれと返す。
「やぁやぁ! ならその色々、を。
この”機空戦艦”の艦長にして総督こと大空 紬様に話してくれないかい?
───怪しいお方々?」
そう不敵な笑みを浮かべ、軍服に似た装いを着る青銀の髪を靡かせた少女が腕を組み言う。
それに対し猫背の彼は、ええ喜んで。と不器用ながらも友好的な笑みを浮かべ答えた。




