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1.僕ん家の座敷童
白石心平の家ではいつも、座敷童が一番だった。
小学二年生の夏休み。その日は母と、ハワイへ旅行に行く約束だった。何か月も前から決まっていて、心平は友達に自慢までしていた。
だが出発の朝になって急に、座敷童が「行かないで」とごねた。
「心平、ごめんね。ぼっこちゃん、やっぱり一人で家にいるのは寂しいみたい。旅行はまた今度にしよう」
母は、座敷童を「ぼっこちゃん」と呼んでいる。自宅の和室に棲みつく、その妖怪のわがままをなんでも聞いてきた。座敷童がノーというものは、必ずノーになる。
一人、玄関でスーツケースにもたれかかり、出掛ける準備万端だった心平は、納得できなかった。
「でも、今日旅行に行くって約束だったじゃん。僕、ずっと楽しみにしてたんだよ!」
「心平、お願いだから我慢して」
母はそれだけ言うと、座敷童のいる和室へと戻っていった。
この時を境に、白石家は家族旅行をしなくなった。同時に、心平は諦めた。
この家では座敷童の言うことが正しくて、母にとっては座敷童が一番大切なんだ、と。




