第3話 初めての戦闘訓練
「おい、顔色が悪いぞ? どうかしたのか」
「今日から戦闘訓練なんだよな、ちょっと怖くてな」
「何言ってるんだ、お前さん戦闘訓練の教官だろ? 候補生を相手にするのが怖いだって」
「問題児が居るんだよな、体力の化物。フルマラソンしてピンピンしてる奴。そして移動は全部駆け足、もう勘弁してくれって話だぜ」
「な~に、しょせんは餓鬼だ。実戦経験のあるお前さんの敵じゃないさ」
「だったら良いけどな~、何か嫌な予感がするんだよな。犬かと思ったらケルベロスだったって感じ」
「竜騎士の中でもベスト10に入るお前さんの敵じゃね~よ、考え過ぎだって」
朝っぱらから青い顔をしている男、彼は竜騎士候補生の戦闘教官レビン。身長2メートル体重120キロの筋骨隆々の大男である、勿論彼は普通の兵士など比べ物に成らない程強い、なにせ魔物のオーガと素手で殴り合えるくらい強い。竜騎士の中でも10本の指に入るほどの強者なのだ。それゆえ彼は感が良い、危機回避能力が高いのだ、彼は今日の戦闘訓練がシュガーのせいで酷い事になる様な嫌な予感がしていたので有った。
「候補生集まれ~!」
戦闘教官レビンの指示で竜騎士候補生5人が横一列に並んでいる。服装は戦闘訓練用の普通の戦闘服、此れは普通の兵士が着ている布の服と同じだ、丈夫で破れにくくてゴワゴワして着心地が悪いので有名な服だ。
「よ~し、貴様ら。体力をつける為の3ヶ月の訓練が終了したので、今日からは武器を使った訓練に入る。竜騎士は色々な武器を使うが、今日は先ず剣から教えるぞ」
「「「「「はい、教官」」」」」
「良いか! 剣の基本は足腰だ、しっかり剣を振る事が大事なのだ。よく見て覚えろ」
戦闘教官レビンは候補生達に正しい剣の振り方をやってみせた。上段から下段の振り落とし、腰の高さで振る横切り、滅多に使わないが下段から上段への切り上げ等。素晴らしい速さと剣筋の正確な軌道は流石は竜騎士の中でも10本の指に入るというレビンならではの技で有った。
「よ~し、基本は分かったな! では振ってみろ、剣が体の一部になるまで素振りをするのが上達の早道だぞ」
「ハイ、教官」
そして竜騎士候補生は素振りを始めた、剣は木製だが大きくて重い、本物の剣と同じ重さが有る訓練用の剣だった。候補生の中でも父親が竜騎士団団長の息子ジョナサンと貴族の息子ミラーは子供の頃から剣術を習っているので既に基本が出来ていて、腰の入った中々の素振りだった。この2人なら既に魔物のオーク位なら切れそうだった。その一方、平民上がりのソルトとレインは剣に触れるのが始めてなので、中々上手く振れなかった、彼等の剣の軌道はぶれていて切っ先に力が集中しないし、刃が立っていないのだ。これではゴブリンを切るのも難しそうだった。
「何か、重い」
「胸が邪魔で上手く振れない」
そしてもう一人の候補生の問題児シュガーは・・・・・・
ブオン! グオン! ブオ~ン!!
轟音と共に振られる剣は辺の埃を巻き上げ、シュガーの姿が見えない程だ。そして剣は切っ先が音速を超えているのか、たまに衝撃波が起こっていた。剣筋はさっぱり分からないが、あれに当たれば問答無用であの世行の必殺の剣である事は間違い無かった。シュガーの馬鹿力で振られる剣は既に魔法剣の次元に有る凶器と化していたのだった。
「ワハハハハ~!!! 楽しい~!!!」
ブオン! ブオン! ブオ~ン!
音だけ聞けば、暴走族がバイクの空ぶかしをしている様だが、これはシュガーが木剣を振っている音である。
「なんじゃ! ありゃ!」
「こえ~! あんなのに当たったら消し飛んで死ぬ!」
「何笑ってるんだ彼奴!」
「チョット、洒落に成らないんですけど」
「ええ~と、見なかった事にしよう・・・・・・」
大人で有る戦闘教官であるレビンは都合の悪い事は見なかった事にした、精神安定上これが一番楽な解決方法なのだ、実際に困ってから悩めば良いのだ、今はまだ悩む時間じゃ無い! 多分。
「さて、体も温まった頃だろう。防具を付けて軽く模擬戦をしてみようか」
「「「「嫌です!」」」」
「え~と、これは騎士候補生の授業の決まりだから」
「「「「シュガーとやるのは嫌です! 死にますから、竜騎士になる前に死ぬのは嫌です」」」」
「ハハハハ大げさだな~、大丈夫だよ。木の棒だから、当たっても痛いだけだよ」
「教官殿、我々は仲間で模擬戦しますから、教官がシュガーの相手をして下さい!」
「えっ! 俺! 俺まだ死にたく無いんだけど、まだ独身だし。せめて結婚ぐらいはしたいんだけど・・・・・・」
結局模擬戦は素手で行う事になった、シュガーの剣術が余りに凶悪過ぎたのだ。素手なら体格差でレビン教官の方が有利だと思われたのだ。
「よし、掛かってこいシュガー!」
「行きます! 教官」
ズゴン!
シュガーの素早い移動は地面に足跡の穴を開け、蹴り飛ばした教官は10メートル程向こうに飛ばされて泡を吹いて倒れていた。あまりの速さに何がどうなったか分からないが、シュガーの蹴りが教官に決まった様だった。
「わ~!!! 教官が大変な事に!」
「ヤバイ! 口から血反吐を吐いてる、内蔵がやられてる」
「早く医務室に!」
「それより、回復魔法を掛けないと死ぬわよ!」
「う~む、20メートルは飛ばせると思ったのだが、僕もまだまだだな」
戦闘教官レビンは候補生達の必死の回復魔法で一命を取り留めた、そして彼はそのまま医務室で1ヶ月の絶対安静に成ってしまった。そして次に来た戦闘教官によってシュガーは対人戦闘禁止にされてしまった、訓練の度に大事な兵士を壊されると困るのだ。
「教官殿、自分も訓練したいであります」
「君はそこでスクワットを千回程やってなさい、終わったら腕立て伏せ千回ね」
「了解で有ります」
傍から見れば立派なイジメで有るのだが、シュガーはスクワット千回を千秒、つまり17分でやり遂げて、次の腕立て伏せ千回も17分で終わらせる化物じみた体力が有った。教官からの指示も30程でやり遂げて暇そうにしているシュガーを見て、教官も候補生達も青ざめるのだった。




