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TRPGリプレイ小説 「国境を越えて」  作者: えにさん
第七章 小さな冒険者 【リリー】
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7-2 新しい出会い

 商人達につれられて到着した街はとても凄いところだった。ここは王都っていう名前の街らしい。とにかく広くて目が回りそうだ。

 わたしはここまで一緒に来た商人達にお礼を言った。あの人達はこの街でやることが沢山あるらしくてとても忙しそう。彼らは挨拶もそこそこに街へと繰り出していった。

 一人になったわたしは大通りをふらふらと歩いていた。色とりどりの布をあしらったきらびやかな衣装。嗅いだことの無い美味しそうな食べ物。何に使うか判らない雑多な品々。珍しい物ばかりが溢れていて見ていて飽きることが無い。

 そして何より行き交う人の数。パッと目に入る数だけでわたしの村にいた村人全員より多いと思う。

 幾つかのお店をのぞいて見たけれど、それもゆっくり見ている余裕がない。品物に惹かれてのぞき込んでいると、急ぎ足の人々に押しのけられてしまう。


「ごめんなさい」


 そう言ってあたまを下げ、下げたあたまを起こしてみても過ぎ去っていった人はもういない。わたしが謝るのが遅かったのかも。次はもっと上手く謝ろう。

 そしてあちこちのお店をのぞきながら歩いていたのだが、気がついたときには日が暮れかけていた。どこかで食事にするか、それとも寝る場所を探すか。腰を落ち着けられる木陰でも無いかとキョロキョロしてみたけれどどちらを見ても建物ばかりで休めそうな場所が見つからない。

 街を行き交う人々はそれぞれの家に帰ろうとしているのだろう。どこか急ぎ足で声をかけるのもちょっとはばかれる。


 その時わたしの目に一人の男の人が目に入った。それは帰り道を急ぐ町の人で特別な特徴は無い。器用にスルスルと人混みをすり抜けていく。走っているわけでも歩いているわけでも無くて、スルスルすり抜けると言う表現がとても合っている。

 街の生活に慣れるとああいう風に歩けるようになるのね。

 そう思いながら様子を見ていると、その人はお財布を落としてしまった。わたしもよくお財布を置き忘れたり、落としたりすることがある。よく村の友人達が見つけて届けてくれたものだ。

 でもこんな大きくて人が多い街の中で落としてしまったら見つけることは難しいだろう。わたしは大急ぎで落としたお財布を拾うと、男の人を追いかけた。

 その人はあいかわらずスルスルと人混みを抜けていく。わたしは沢山の人にゴメンナサイを言いながら追いかけた。彼のスルスル歩きは特徴的で少しぐらい離れてもすぐに判る。表通りから裏通りへ、狭い路地を抜けたかと思うとまた大通りに戻ってくる。

 わたしは見失わないよう必死の思いで追いかけた。彼の名前も知らないから声をかけて止めることも出来ない。直接会ってそして落とし物を届けるしかない。

 さらに大通りから狭い路地に入っていった彼を追いかけて路地に入り込む。そこには彼がこちらを向いて立っていた。


「よかったぁ。やっと追いつけました」


「俺に何か用か?」


 不審者を見るような視線でわたしを見ている。それは当然のこと。見知らぬ人に声をかけられたら誰だってあやしい人だって思う。


「あっ。わたし、あやしいひとじゃありません。ふつうの村人です」


「普通の村人が、俺を追いかけるのか?」


「えっと。きょう村から街に来たばかりで、とにかくあやしい人じゃないんです」


 わたしは両手を大きく振りながらあやしい人じゃ無いアピールをしてみた。


「なるほど。だが俺はあんたに用は無い」


 彼はそれだけ言うと背を向けて歩き出す。マズい。逃げられちゃう。まずは彼を捕まえよう。シュバッと走り込んで体当たりをすると両手で腰の辺りを掴んだ。彼はわたしを振り解こうと暴れ出す。


「くそっ。離れろ。この手を離せ」


「あやしい人じゃ無いって信じてくれるまで離さない」


 掴みかかってきたり殴ってきたりする彼の手や足を上手く避けながらそれでも彼から離れることはしない。そのうちに彼の息が上がってきた。彼が疲れて座り込んだところでそっと手を離した。


「判った、判った。信じるからとにかく離れてくれ。それで、そのあやしくない普通の村人は俺に何のようなんだ」


 わたしはニッコリと笑顔を見せると、お財布を差し出した。


「はい、落とし物ですよ。見つかって良かったですね」


 目を丸くしてお財布を眺める彼。


「これを。俺に?」


「そうですよ。貴方が落としたのを見て一生懸命追いかけてきたんです」


 彼はわたしにお礼を言うとお夕飯をおごってくれた。本当は自分の分は自分で出そうと思っていたのだけれど、なんとわたしも財布を落として無くしていた。気がつけば一文無しになっていたわたしを彼は笑って助けてくれた。


 この出会いをきっかけとして今は一緒に旅をしている。いつも迷惑かけてばかりだけれど、一緒にいるととても楽しいし頼りになるんだ。

 わたしにとって大切なお兄ちゃんだ。


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