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それぞれの未来に乾杯

 その後、イリスは仲間たちとともに馬車でカールトンの街に戻った。

 すでに帝国軍による監視と軟禁は解かれていたらしく、どこに行くにも自由だったし、どこに行っても見張られているということはなかった。


 イリスとその仲間たちは一年前の戦い以来定宿になりつつある宿に腰を落ち着け、それぞれの今後について話し合った。


「私は、これからも正義のために旅を続けたいと思います」


 王国は崩壊し、王家と王国軍は解体されたが、メリアの騎士としての立場は保障された。先の戦いにおいて魔王の側近であるフェンを倒したことを魔王は高く評価していた。

 メリアはこれから自由騎士として多くの人々を助け、名を残すであろう。


「ミャーは日当たりのいい場所で一日中ずっとお昼寝するにゃー。あと時々コブンたちにも会いに行くにゃー」


 ミャーリーは魔王直々に直属のメイドにならないかとの打診をもらったが断っていた。その理由が各地に散らばった子分たちに気軽に会いに行きたいからというものだった。

 どうしようもない理由だったが、ミャーリーらしいとイリスは思った。


「わたしは、一度村へ戻っておじい様に報告をするの。そのあと、立派な騎士様になるための修行をするの」


 勇者パーティーの魔法使いとして獅子奮迅の活躍をしたデルフィニウムだったが、やはり騎士になりたいという夢は変わってないらしい。

 たとえ騎士になったとしてもあの爺さんによってデルフィニウムの活躍は(誇張込みで)広く伝えられるだろう。


「それじゃ、それぞれの未来に乾杯」

 解放された勇者たちがカールトンに到着する前日、イリスと仲間たちはささやかながらお互いの労を労うための宴を開いた。

 もちろん、全員ノンアルコールだ。




「姉さん! フリージア!」

 姉妹であるらしい三人のエルフたちが固く抱き合い、再会を喜んでいた。彼女たちは元は冒険者として勇者の仲間になっていたが、魔王に捕えられ、力を奪われた二人と、からくも逃げ去ってすでに冒険者を引退している一人とで今後は店を開くのだという。


 この日のカールトン郊外では、至る所でそういった光景が繰り広げられていた。


 しかし、出迎えのない者もいる。

 そういった者の多くは日本からこの世界に召喚された元勇者たちだ。彼らも魔王によってその力を奪われ、今後はただの人間として生きなければならない。


 カールトンの街を前に呆然と立つ勇者たち。彼らにもおおやけから救いの手が差し伸べられるということだが、そこから異世界でどう生きるかは彼ら次第である。


 二十台ほどの馬車に分乗してきてやってきた彼らのすべてを出迎え、街の中に姿を消していくのを見送ったのはもう日も暮れようとしているときだった。


「では、ここにサインをお願いします」

 彼らを連れてきた帝国のコボルト文官に促されるまま所定の位置にサインを施すと、コボルトは礼儀正しく一礼をして馬車を引き連れ帰って行った。これでイリスの勇者としての仕事はすべて終わりだ。


「今日はもう遅いから宿に戻りましょう」

「そうだな」

 そう言ってカールトンを見た。街は夕日を背に真っ赤に染まっていた。旅立ちは晴天に恵まれそうだ。


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