24 智朗、ノスタルジーには浸らない。
窓に『ふれあい不動産』と書かれた紙が張られている。
部屋の中にいる俺はそれを裏側から見ている。左右反転した平仮名はどうにも読みにくい。
デスクの並ぶ部屋の中は書類が散乱し、デスクとデスクの間の通り道には石像が何体か置かれている。
いや、それは石像ではなく石化させられた人間であり、俺の仕業である。
目の前にいる、高そうな椅子に座り、高そうなスーツを着て、いかにも偉そうな顔をしている男性の胸ぐらを掴んで聞く。
「トゥエルヴ本拠地の場所を教えろ」
「うぐ……! し、知らん!」
ここは特務機関トゥエルヴの拠点の内の一つ。
どうやら不動産会社を装っていたようである。
中年男性とイグアナ顔はここで魔物化した者の勧誘指示を受け、悠を狙って俺の家に来たわけだ。
……許せん!
ということで中にいた全員を石化爪で石化させてやったのだが、ここは所詮トゥエルヴの一拠点である。
トゥエルヴを粛清するには本拠地を叩く必要がある。
そのため、今こうして本拠地の情報を持っていそうな人物に尋問を行っているのだ。
「知らないのか」
観察スキルで見てみると男性はレベル1だったので人躁術を行使。
「つ、使われなくなった地下鉄の……、駅……」
「知ってるじゃないか」
男性から本拠地の場所の情報を詳しく聞く。
拠点をいくつか回らねば本拠地にはたどり着けないかと思ったが、俺は運が良かったようだ。男性の勘違いでなければそこが本拠地なのだろう。
「遠いけど、まあ行けるかな?」
トゥエルヴ本拠地の場所は東和町から大分遠く、都会であった。
だが今の俺の移動速度ならば、特に問題ないであろう。
「用は済んだ」
「う」
男性を石化爪で石化させ、遅れて拠点に到着したイグアナ顔に「拠点の有様は全て自分の仕業だと言え」と指示し、俺は特務機関トゥエルヴの本拠地に向けて出発した。
***
古く、大きく、重そうな鉄の扉が目の前にある。
この中が特務機関トゥエルヴの本拠地のはずである。
周りを見渡すと、並木道と、広い公園だけが目に入った。
トゥエルヴ本拠地は地下の廃駅らしく、その入り口は使用者の多い駅から離れた所にポツンとあった。
「……」
その入り口の周りには誰も居らず、監視カメラも設置されていないようである。
本当にここが本拠地なのだろうか。
まあ、表向きは廃駅なのだから警備員がいたり監視カメラがあったらおかしいか。
いや、浮浪者とかが住み着いたりしないように見張られてるのが普通か?
……わからん。
とりあえず気にしないことにする。
ギィィィ……
大きな鉄の扉を無理やりこじ開け、内部へと侵入する。
ギィィィ……
こじ開けた個所を元に戻す。立派な扉が歪になってしまったが、仕方が無い。
中は暗い。だが俺の目には問題ない。
内部はドーム状の空間になっており、左手には古い切符売り場のようなものがあるが、窓口は板で閉ざされていた。右手にはお手洗いがあったが、これの入り口も板で閉ざされていた。
目の前には地下へと下る階段がある。
階段の横の壁には絵など飾っていたのか、額縁を入れるためらしき四角く浅い穴が並んでいる。
他にはよくわからない三角形のオブジェがいくつも突き出ている。
こういう物の芸術性は俺には理解できない。しかもこのオブジェは横の壁から結構な鋭さで突き出ており、危険である。階段を下りている途中でよろけたりして、壁にもたれかかったりした際に刺さったらどうする。
「むむ?」
三角形のオブジェをよく見てみたらワイヤーが垂れ下がっており、ワイヤーは階段の手すりの上部へと続いている。どうやら手すりの支えになっているようであった。
「ほほう、デザインと実用性を兼ね備えているという訳か」
だからなんだ。刺さったら危ないから止めろ。おっと既に廃駅だった。
階段を下っていくと階段は上り側と下り側に分かれた。下り側は板で塞がれていたので上り側を下っていく。
古い落書きや痛んだ紙が貼られた掲示板を見ながら下っていくと、やがてホームに出た。
「おや?」
線路を挟んだ向こう側にもホームが続いている。
おかしい。あちら側へはどうやったら行けるのだろうか。別に入り口があるのか。
首を傾げていると微振動を感じた。振動はだんだんと大きくなり、それが電車の走行音だとわかるのに時間はかからなかった。
ホームに電車が来たようだ。
「廃駅に電車が来るのか」
どうやらトゥエルヴ本拠地の利用者は別の場所から電車でここに来ているようであった。




