16 智朗、陰謀の臭いを感じとる。
「……」
「……」
住宅街にある小さな商店街を”可愛い”と一緒に無言のまま歩いていく。すると電気屋の前で”可愛い”が立ち止まったので俺も止まった。
電気屋の店先には何故か微妙なサイズの液晶テレビが何台か置いてあり、その液晶テレビの画面にはニュース番組が映し出されていた。
”可愛い”は立ち止まったまま液晶テレビをジッと見ている。液晶テレビを見てみると、ニュースの内容は例の立てこもり事件についてであった。
テレビの中でリポーターの男が、高くブルーシートがかけられた建物の前で話している。島が暴れたせいで学校のグラウンドは酷いことになっていた。それを隠すためにポールを立て、グラウンドの全体をブルーシートで覆ったのだろう。
「これは血痕でしょうか」
リポーターが地面を指さす。学校の敷地外の道路に、黒い何かがへばりついている。おそらく、あれは島が学生の上半身を振り回していた時に飛び散った何かであろう。
「グラウンドからここまで飛んで来たってことですよね?」
「恐ろしい」
「ねえ、それ映して大丈夫なやつ?」
番組内のゲストらしき者達が一人一人コメントを言っていく。
「犯人の男は機動隊に向かって振り回したんです。
首を掴んで。
上半身だけになった彼の体をね」
番組の司会者が深刻そうな声色で島の行動について語っている。その倒置法めいた話し方により、島の行った残虐非道な行いが、より鮮明に視聴者の頭の中に映し出されたことであろう。
「こんなことができるのはもはや人間ではない。怪物ですよ」
ジッと液晶テレビを見ていた”可愛い”の可愛い耳が、司会者の言葉を聞いた瞬間ピクリと動いた。
「その怪物達が今、人間社会に紛れ込んでいる。大変危険です。
ですが怪物と人間を見分けるのは難しい。
何しろ我々人間と全く同じ姿をしていますからね」
……この司会者、こんなこと言って大丈夫なのだろうか。今日の番組終わりを勇者達に待ち伏せされて行方不明になったりしないか?
「だからこそ国民保護緊急措置法は絶対に必要なのです」
ふむ、司会者の言いたいことはそれか。世論の誘導をしろとか、そんな感じの事を上から命令されているのかもしれない。だがSNS等を見てみた感想としては、誘導などしなくても世の中は既に国民保護緊急措置法は必要だという空気感である。
立てこもり事件前は勇者達にも人権はあるとか、擁護に回る人たちの声がそれなりにあったが今では皆無。これでは島達の行動は無意味どころか勇者達にとってマイナスであったと言える。
……いや待て。それが狙いか。
金を積めば動いてくれそうな勇者を雇って凄惨な事件を起こさせて、勇者は危険だと人々に思わせれば、国民保護緊急措置法を非難する者はいなくなる。後は金で雇った勇者を消せば実に低コストな世論誘導の完了である。
推測の域を出ない話だが、そうだとしたら法とかどうでもよさそうな島が法の廃止を求めて動くなんて似合わない行動に出た事にも説明がつく。機動隊を倒しておきながらすぐ逃げ出そうとしたのも、既に目的を果たしていたからか。
立てこもり犯全員が誰かに雇われていたのだろうか? いや、島以外の立てこもり犯の中には本当に国民保護緊急措置法に反対して行動した者もいたかもしれない。そこを島に誘われたとか? そういえば帽子の男は完全に私怨だったか。
そして、金で雇った勇者達を消すのが、魔物化した者達で構成された部隊、トゥエルヴか。島達は現場で殺されずに捕縛されたようだが、そのうち不慮の事故で死亡することになるのだろう。
ハッ! いかん。このままでは島が殺されてしまう。
……。
まあいいか。
「国民保護緊急措置法は絶対にあった方が良い」
「だって怖いですもんね。どこに怪物が潜んでいるかわからない社会なんて」
「ええ、そのとおりです」
番組のゲストたちが司会者の意見に賛同する。番組スタッフの考えた茶番である。
「兄さん」
「ん?」
いつの間にか、”可愛い”のクリクリした丸く大きな目が、俺を見ていた。可愛い。
「兄さんも私が怖い?」
「え」




