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妹が魔物化したけど可愛いので元の姿に戻したくない  作者: レイディアンと
第ニ章 人類の味方
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2 智朗、悠と家に帰る。そして学校へ行く。

 

 悠は歩けるようになった。身の回りのこともほぼ問題なく行えているようだ。


 もう入院の必要はないだろう。これからどうするかを医者を交えて相談した。


 医者の話では家に帰るのも、学校に行くのもOKらしい。


 魔物化は感染するものではなく、魔物化した者の中には精神に異常をきたして暴れる者もいるそうだが、悠の場合は精神も安定しているので問題ないとのこと。



「悠、学校行きたいか?」


「行きたいけど……」



 ”可愛い”はうつむいてしまった。可愛い。


 無理も無い。今の姿を友人や同級生に見られるのは苦痛であろう。


 まだ魔物化した人達は少数で、悠のような全身魔物化は俺の調べた限り他に例が無い。


 悠がいじめか何かを受けるのは間違いない。



「でも、一生家の中にいるわけにもいかないだろう? 大丈夫だ、初日は俺がついてく」


「兄さん……」



 動くタイミングとしてはもう少し魔物化が受け入れられてからの方が良いとは思うが、そこは俺が何とかすればよい。



「とりあえず学校のことは家に帰ってから考えよう」


「うん……」



 部屋の荷物を持ち、悠に上着を被せた状態で背負って家に帰った。


 背中で”可愛い”がキョロキョロと周りを見るたび、耳から生えた毛が俺の首をくすぐり、あまりの幸福感に狂いそうになった。



 ***



 家の中を幼児用の服を着た”可愛い”がうろついている。可愛い。ここは天国か。



「やっぱり家は落ち着くね」



 小さな笑顔を向ける”可愛い”。可愛い。天使か。


 一緒に食事をしながら悠の話を聞く。



「兄さん、私、学校へ行くよ」



 日常に帰ってきたことで元気が出たのか、悠は学校へ行く気になったようだ。


 学校に退院の連絡と、明日から登校することを伝えた。


 すると医者から既に連絡が行っていたようで、教員に案内させるので俺にも学校に来て欲しいとのことであった。


 元よりそのつもりだったので承知した。



 就寝時、幼児用パジャマに着替えた”可愛い”が俺の部屋に来た。その姿に理性を失いかけたが、素数を数えてなんとかした。


 悠の話を聞くと、友人に退院の話をしたらしい。朝学校に一緒に行くつもりだそうだ。


 俺としては、


 学校に行く → 学校に事情を全生徒に伝えてもらう → 特別教室で勉強の遅れを取り戻す → 徐々に以前と同じようなスタイルに


 みたいな順序で慣れていって貰うつもりでいたのだが、悠にそんな気は無かったらしい。


 いきなり以前と同じように過ごしたいとのことであった。


 中々に無謀であるが、徐々になどと考えずに一気に行ってしまった方がうまくいくこともあるかもしれない。


 しかし、今の悠はレベル3である。人々の心無い言葉に怒って手を出したりしたら相手を殺しかねない。


 そこだけは注意しておく必要がある。


 レベルアップのことは伏せつつ、魔物化によって爪とか鋭くなってるから下手に人を攻撃したりしないようにと伝えた。



「そんなことしないよ」



 ”可愛い”に睨まれた。


「オフッ」




 ***



 朝、余所行きの幼児用服に着替えた”可愛い”に卒倒しかける俺。大丈夫なのか俺。この毎日には慣れる自信が無い。


 ワタワタしているうちに、悠の友人二人が家まで迎えに来た。


 かなり早い時間であるが、教員から話を聞く必要があるので仕方がない。



「ゆ、悠ちゃん?」「ほんとに?」


「うん……」



 悠の姿を見た友人二人の反応に不安そうな”可愛い”。可愛い。



「きゃー!」「可愛い!」



 ”可愛い”に抱き着く友人二人。


 困った顔の”可愛い”。可愛い。


 友人二人が羨ましい。


 とりあえず大丈夫そうだ。


 悠が現在通っているのはこの町にある中学校である。


 悠の友人に事情を話し、学校までついていくことを了承してもらった。



 ***


 

 道行く人々がテクテクと歩く”可愛い”をチラチラと見てくる。


 傍から見たらどうみえるのだろう? 特殊メイクを施された子供が歩いている感じだろうか?


 ”可愛い”の顔を見ると、不安そうな顔であった。可愛い。



 ***



 学校に着くと門に教員が立っており、面談室に来て欲しいとのことだったので、悠の友人二人と別れた。


 教員とこれからどうするかを話し合う。


 自宅学習や特別教室は使わない。他の生徒と同じようにして欲しいと、悠の望みを伝えた。


 全校集会でこういう生徒が居ると伝えるのはかえって混乱させるのでやめて、同じクラスの生徒に前と変わらず接するように伝えるとのことであった。


 それで抑えになる訳がないのはわかっている。しかし悠は覚悟完了しているようなので了承した。



「よろしくお願いします」



 何が起ころうと、俺が何とかして支えれば問題ないのだ。



 ***



「じゃあ放課後にまた来るよ」


「うん」



 悠と別れてトイレに入る。隠密スキルを発動する。


 トイレから出ると悠と教員が面談室から出てきた。既に生徒達が揃っているであろう教室へ向かうのだろう。


 教員と”可愛い”の後をついていく。二人とも俺に気づく様子はない。


 悠と教員が教室に入ったので、扉が閉められる前に体を滑り込ませた。


 教室内がザワザワする。



「え?」「子供?」「猫?」



 教員が悠の事情を説明しだした。


 教員はまず、悠がこうなった原因と、悠の症状に感染や暴れだしたりといった危険が無い事を説明した。


 そして悠と普段と変わらず接するように指示した。写真を撮ったり、他クラスの者に伝えて見世物にしたりしないように、みたいなことも言っていたが、まあ聞かないだろう。



「あれが粘大?」「マジかよ」「フサフサ……」


「……」



 悠は無言で自分の席に歩いた。クラス全員の視線が”可愛い”を追った。


 自分の席まで来た”可愛い”は椅子を引き、座ろうとするが身長が足りないので椅子によじ登る形となる。


 何とかよじ登り、椅子に座ってすまし顔の”可愛い”。


 可愛い。鼻血が出て床に落ちた。



 ホームルームが終わり、教員が出ていくと途端に悠の席の周りに女生徒が集まった。



「可愛い!」「撫でたい!」「嗅ぎたい!」「抱っこしたい!」



 キャイキャイうるさいが、大体俺が思っていることと同じようなことを言っているし、結構受け入れられているようだ。


 写真も撮っていないようだし、行儀の良い生徒達である。


 と思ったら、教室の隅からこっそり写真を撮ろうとしている男子生徒がいた。


 音もなく近づき、指で弾いてスマホのカメラ部分を破壊する。



「はっ!?」



 盗み撮りしようとしていた男子生徒は角の欠けたスマホを見て呆然としていた。


 それ以降も盗み撮りしようとする生徒が後を絶たなかったので、全て破壊しておいた。



「さ、最新機種だったのに……」「おこづかい貯めて買ったのに……」



 スマホを失ったことを嘆く声が聞こえるが、同情は無い。


 一限目、ペンが持てなくて四苦八苦している”可愛い”。可愛い。


 暫くペンと格闘した後、悠はペンを両手で抑えて持つことにしたようだ。



 そして、一限目が終わって休み時間に入ると、教室の扉から悠を覗く生徒が見られるようになった。


 前の休み時間に悠のことが他生徒に広められたのだろう。


 そいつらも盗み撮りしようとしたのでスマホを破壊しておいた。


 今の時世、中学生でもスマホが無いのは辛かろう。だが同情は無い。



 そうして大きな問題は起きずに時が過ぎた。


 だがついに、愚者が現れてしまった。


 三人ほどの男子生徒が教室の扉辺りに立ち、悠を指差して言ったのだ。



「おい見ろよ」「なんだあの毛むくじゃら」「学校来んなよ、うつったらどうすんだ」



 それを聞いた悠はショックを受けた様子でうつむいた。


 悠の覚悟は完了していたとはいえ、やはりきついものがあったのだろう。



「悠ちゃん、あんな奴ら気にしないで」



 悠の友人が”可愛い”を慰める。


 生徒たちはまだ中学生である。分別がつくものつかないもの、様々であろう。


 だからこのような事態が起こることは想定していた。


 誰も悪くない。ただあの三人は、運が悪かっただけなのだ。


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