3 智朗、囁き機能を使用する。そしてカメラから逃れる。
「フルストリ」と念じ、悠をなじり続ける三人に対して囁きを行使する。
これは指定した相手に一方的に意思を伝える力である。
『お前達、人形にされたくなかったらそこから去るんだ』
俺の囁きを聞いた三人は動きを止めた。
「あ?」「なんだ?」「お前、なんか言ったか?」
三人は他の生徒に注意されたと思ったのか、周りを睨みつけ始めた。
囁きを続ける。
『聞こえなかったのか? 操り人形にされたくなかったら去れと言ったんだ』
「うるせえな」「黙れや」「誰だよ、出て来い」
三人は周りの目を気にせずに怒鳴り始めた。
こうなっては仕方がない。三人に向かって手をかざし、人躁術を行使する。
人躁術。これは対象の人間の行動を操るスキルである。行動を操るなど、とんでもない強スキルに思えるが、取得に要するスキルポイントはそれほど多くない。何故ならこのスキルは、レベルが1の人間相手にしか効かないスキルなのである。世界の異界化が進めば進むほど役に立たなくなるであろうスキルだが、今のところ三人は全員レベル1なので問題無く効くだろう。
「……」「……」「……」
三人は突然静かになり、教室から離れていく。
教室に平穏が戻った。”可愛い”はホッとした様子である。
さて、彼らをどうしようか?
***
学校の屋上へ繋がる扉を鍵開けスキルで解錠する。
そこに、先程の三人が仲良く歩いてくる。
「……」「……」「……」
三人は何も話さない。少しだけスキルの力を弱めてみる。
「う……ぐ……」「ぐ……」「ふうう……」
スキルに抵抗しようと必死のようだ。
足を前に出さないように踏ん張っているようだが、震えるだけで足は前に出てしまう。
屋上に出る前に、目撃者が出ないよう三人に隠蔽スキルを行使した。これは対象を他から認識しづらくするスキルである。
三人がゆっくり屋上を歩いていく。そして三人は服を脱ぎパンイチになると、屋上を囲う金網に手をかけた。
校舎裏側の金網の向こうに降り立った三人の顔は真っ青だ。
これから自分達の身に起こることを想像したのだろう。三人のうち一人が失禁した。無理も無い。
むしろ他の二人はよく耐えている。もしかしたらこれが現実ではないと思っているのかもしれない。
囁きを行使する。
『最後に言っておきたいことはあるか?』
他の二人も失禁した。
「いや……だ……」「たすけ……」「なんで……こんな……」
『なんでこんなことをするのかって? お前達が俺の注意を聞かなかったからだが……』
彼等くらいの年だと言っても聞かないのは仕方がない。悠に対する心無い言葉も、俺以外なら子供のする事だと大目に見るだろう。
しかし、俺は大目に見ない。
そして、今の俺には人躁術という力がある。つまり。
『お前達は運が悪かったんだ』
三人は学校の屋上から飛び降りた。
「カヒュッ、ヒュッ」「オ……」「オゴ……」
屋上から飛び降りた三人はかろうじて命を取り留めていた。
隠蔽スキルの効果で、三人の飛び降りを目撃した者は居ないと思われる。
このまま放置すれば三人は死ぬだろう。
三人が悠に心無い言葉をかけていたところを他生徒が見ている。
ここで三人が死んだら悠にあらぬ噂が立ってしまう恐れがある。それは良くない。
俺は三人に回復スキルを行使した。
突き出た骨が、破裂した内臓が、見る見るうちに治癒していく。
回復した三人に水場で血を洗い落とさせ、屋上で脱がせた服を持ってきて着させた。
そして囁きを行使する。
『お前達、同じ目にあいたくなければ今後の生き方について考えるんだ。
それと、今日体験したことは他言するな』
三人は無言で頷いた。
四時限目に遅れた三人は教員から叱られた。
三人は青い顔で心ここにないといった感じであったが、教員は気にせず叱り続けていた。
これであの三人が悠に心無い言葉をかけることは二度とないだろう。
その後も同じような愚者が現れたので同じように処理した。
***
放課後、何食わぬ顔で悠を迎えに行った。
”可愛い”が友人と一緒に学校の門から出てきた。
「兄さん、迎えに来てくれてありがとう」
「礼なんていいさ、それより悠、大丈夫だったか?」
「うん」
悠は肯定した。本心かどうかは分からない。だがそれ以上聞くのは止めた。
「そうか」
「あのー、ちょっとお時間よろしいですか?」
後ろで女性の声が聞こえた。
見ればマイクを持った女性が下校する生徒を捕まえていた。
下校する生徒にマイクを向ける女性。それを映すカメラマン。どうやら女性はテレビのリポーターのようである。
「突如この町に出現した謎の壁についてどう思われますか?」
「なんか、怖いですよね。あれやったの宇宙人ですかね?」
「そうですねー、宇宙人かもですねー」
女性リポーターは生徒にファンタシーゾーンについてどう思うか聞いているようだ。
連中に悠の姿を撮られたら面倒なことになる気がする。
「悠、行くぞ」
「うん」
女性リポーターの目に入らないように、悠を俺の影に隠しつつ移動する。
しかし、カメラマンの後ろにいる現場ディレクターらしき男の目が悠を捉えていた。
「おい、あれ。怪物化だ」
ディレクターが俺たちの方を指差し、小声で女性リポーターに指示を出した。
周りに聞こえないくらいの小声だったが、俺の耳には聞こえている。
女性リポーターが歩いて来る。
「すみません、ちょっといいですか?」
「駄目です」
「あ、そうですか」
すぐに拒否すると女性リポーターは引き下がった。だがディレクターがカメラマンにこっそり指示を出している。
悠の姿を撮らせる気だ。だがカメラマンはまごついていた。
「同意なしで勝手に撮るのはまずいでしょ」
「あ? 同意とか良いんだよ、とりあえず撮れ。いいから撮れ」
カメラマンはディレクターの指示に渋々従い、カメラを悠に向けようとした。
俺はとっさに人躁術を行使してカメラマンを操り、悠を撮らせないようにした。
「なにしてんだ、早く撮れって」
ディレクターが小声でカメラマンを怒るが、カメラマンは一向にカメラを悠に向けない。
「チッ、寄越せ」
ディレクターがカメラマンからカメラをひったくった。
こうなったら仕方がない。
俺はディレクターを操り、ズボンとパンツを下ろして下半身を露出させた。
そのまま下校しようとしている生徒たちの前まで走らせ、驚いている生徒たちの顔をカメラで撮らせた。
「キャー!?」「なんだこいつ!?」「変態だ!」「ちょっと! なにしてるんですか!」
大騒ぎである。
彼の人生は終わった。
ふと見れば”可愛い”が人生の終了した哀れな男の姿を観察していた。
俺は”可愛い”の目を手で覆い、見せないようにした。
***
悠と一緒に家に帰り、夜九時に悠が就寝した後、家の外に出た。
隠密スキルを使いつつ、夜の街を凄まじい速さで駆ける。
あっという間にファンタシーゾーン近くである。
「さて、今日もフラウド探しだ」
山道は昼夜問わず人が見張っているため、山道を避けて森の中へと侵入した。
そのままファンタシーゾーン方向へと向かって歩く。
途中、銃声が聞こえたので音の聞こえた方向に行ってみる。
するとイノシシのような魔物が俺に向かって突っ込んできた。
血を流している。どうやらイノシシは銃で撃たれたようだ。
「逃がさんぞ!」
ドスの効いた声と共に現れたのはガタイの良い男性警官。
俺の方に銃口を向けたかと思うと、警官は迷いなく発砲してきた。
警官の銃から放たれた銃弾は、俺の腹に命中した。
「なんだと」




