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Grand Brave ~転生勇者の無双伝説~  作者: 篠崎冬馬
第一章 英雄王の聖剣
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第020話:ヴァイスへの疑念

「で、結局ヴァイスはリューンベルクの冒険者として、六色聖剣と一緒に行動しているってわけか」


 リューンベルクのミスリル級冒険者「夜明けの団」のリーダー、トマス・オールディンは笑ってエール麦酒を呷った。その隣でギルドマスター、アウグスト・ディールが溜息をついた。


「ヴァイスは六色聖剣に入ったわけではない。だが暫くの間、ウィンターデンで活動するそうだ。こっちに何か異変があれば、すぐに戻ると言っている。引き抜かれなかったのは良かったんだが、ちょっと噂を聞いてな」


「ヴァイスのか? 何だ?」


「六色聖剣のリーダー、レイナ・ブレーヘンと『デキた』らしい」


「マジか! あの超美人を落としたのかよ! こりゃウィンターデンの男どもは歯噛みしてるだろうなぁ」


「それよりも、これが本当ならヴァイスはウィンターデンに留まる理由が出来たということだ。『暫くの間』ではなく、『ずっと』になるかも知れん」


 冒険者は他の街のギルドでも任務を受けることが出来る。ヴァイスハイト・シュヴァイツァーがウィンターデンで任務を受け、ウィンターデンの迷宮を討伐しても、何の問題もない。だが冒険者はその街にとっては重要な生産者であり消費者である。武器や衣類、食料などは無論、移動のために馬車を借りたり、迷宮前のキャンプを維持するために地元民を雇うなど、冒険者の迷宮攻略は「公的事業」という側面を持っている。そしてその事業の結果、数多くのドロップアイテムをギルドにもたらし、それが医薬品や魔法道具などに姿を変え、人々の中に流通する。ヴァイスがウィンターデンに移れば、それだけリューンベルクの経済が停滞することになるのだ。

トマスもギルド長の悩みは理解していた。だが結局は、冒険者自身が決めることである。ギルドには、冒険者を縛る権利は無いのだ。トマスは杯を干すと、追加を注文した。アウグストの前にも杯が置かれる。


「仕方ねぇさ。アイツは一つのギルドに留まるような男じゃねぇよ。友人が最高の女を落としたんだ。祝おうぜ?」


「……そうだな」


 二人が杯を重ねた。





 ウィンターデン南東の迷宮討伐も、地下二十層まで進んでいた。ここまで潜ると、さすがに魔物も手強くなってくる。キャンプを張り、レイナは全員に状況を確認した。全員の顔色は明るい。何日も迷宮に潜り続ければ、どこか荒むものであるが、そうした様子は殆ど出ていなかった。強くなっていることもあるが、ヴァイスの「非常識キャンプ」も大きな要因であった。


「確かに手強くなってきているが、不安になるほどでは無いわね。今日出てきたミノタウロスの集団にもしっかり対応できたし、この分なら明日か明後日には終わるわね」


「魔素が濃くなって来ていますが、危険なほどではありません」


「一月前の私達だったら、ちょっと苦戦したかもね。迷宮自体が強くなっているっていうのは間違いないわ」


「ご飯が美味しいから楽ちん。ヴァイス、おかわり……」


 太い腸詰め肉(ソーセージ)を平鍋で焼く。肉から出た油で刻んだキャベツも焼き、細長いバンズにそれらを挟む。上から辛い香辛料を振りかける。「ボスナ」という料理だ。グラディスが瓶詰めの麦酒を呷って、それをまじまじと見る。


「まったく、迷宮内で酒を飲むなど以前なら考えられんな」


「酔いつぶれても平気だぞ。アレがある限り、魔物が入ってくることはない」


 一箇所しか無い出入り口には珍妙な像が置かれている。「(通称)アルソーク」という道具である。レイナたちは、最初はその効果を疑っていたが、今は信用しているようだ。ヴァイスもボスナを齧りながら、麦酒を飲んだ。六人の美女たちは、この数日は風呂に入っていない。だがキャンプのたびに濡れた布で躰を拭っている。水は無尽蔵で使える。摂氏1度から99度まで、使用者の望む温度で水が湧き出す「魔法の水瓶(通称:象さんマーク)」のお陰であった。食事が一段落すると、レイナが真面目な顔でヴァイスに詰めてきた。


「寝る前に、ヴァイスに確認をしておきたいことがあるわ。このところ、貴方の様子が少しおかしい。あのレッドアースマン以降ね。何かが気になっているって様子だわ。何を気にしているの?」


 ヴァイスは懐から魔眼を取り出した。だがどう説明するかで迷った。ダンジョンに潜っている現在、全てを明かして惑わす必要もない。第一、信じてくれない可能性のほうが高いだろう。


「俺が気になっているのは、未知の魔物についてだ。この『魔眼』は、相手の名前や種族、強さなどが解るものだ。俺はこれで、この迷宮の魔物を見てきた。レッドアースマンとマンドゴリラ。この二つは、魔眼に表示されなかった」


「壊れているってこと?」


「いや、他の魔物は問題ない。お前たちも普通に表示される。だが先の二種については『不明』と表示された。これが一体、何を意味しているのかが気になってな……」


「どっちも、ヴァイスさんが知らなかった魔物ですね。ですがどちらも、他の迷宮でも見かける魔物です。マンドゴリラはそれなりに力を持っていますが、それでもダンジョンマスター程ではありません。ヴァイスさんが知らないということが、ちょっと信じられないのですが」


「そうだな。私も疑問に思っていた。ヴァイス、お前は本当に冒険者だったのか? 信じられない程に強く、見たこともない道具を普通に使っている。一方で、普通の冒険者なら知っているような魔物すら知らない。一体、お前は何者なんだ?」


「………」


 グラディスの質問に、ヴァイスは沈黙することしかできなかった。全員が注目する中で、ヴァイスは重い口を開いた。


「……今はタイミングが悪い。このダンジョンを攻略したら、俺のことを話そう』


 この場では、そう応えるしかなかった。





 翌日、ヴァイスと六色聖剣は地下二十五層でダンジョンマスター「ゴールド・ゴーレム」と対峙した。全身が金で覆われ、魔法全般に対して強い耐性を持っている。レベルは三〇〇を超えていた。六色聖剣はそれなりに苦戦したが、レイナとグラディスの連結技により討伐に成功した。大きな魔石とかなりの金を残し、ゴールド・ゴーレムは倒れた。


(やはり、DODの魔物は普通に魔眼が通じる。魔眼が通じない相手には、何か共通点があるはずだ。俺が知らない、つまりDODの魔物ではないのか? だがこの世界のオリジナルでもない…… 一体、何なんだ? 他の迷宮でも検証してみるか)


 討伐を終え、迷宮の出口へと向かった。





 ウィンターデンから北西に数日行くと、エルフの森「ルーン=メイル」に入る。ウィンターデンには四季があり、冬になれば雪がふることもあるが、ルーン=メイルの森は一年中、鬱蒼と茂っている。エルフ族の結界によって、一年を通じて一定の気温で安定しているためだ。エルフ族には大きく二つがある。一生の大半を森の中で暮らす「ルーン=エルフ」、一生の大半を闘いの中で過ごす「ヴァリ=エルフ」である。この二種は、対立こそしていないが積極的な交流はしていない。外見も大きく異る。ルーン=エルフは青い瞳と白い肌を持ち多くは金髪であるが、ヴァリ=エルフは褐色肌と茶色い瞳、そして銀髪をしていることが多い。


 ルーン=エルフの中には、他の種族との接触を役割としている者もいる。「代表者」と呼ばれる彼らは、人間族やドワーフ族と接触し、結界の境目で物々交換の交易を行う。人間と比べて長寿を持つエルフであっても、食べなければ生きていけない。ある程度の自給は出来るにしても、すべての素材が手に入るわけではなく、衣類や鉄製品などを外部から輸入し、エルフ族の薬品や森の恵みなどを輸出する。特に「サトウカエデ」から抽出されるシロップは、甘味料として人気があり、重要な輸出品となっている。


 他種族との接触があれば、その中で「混血者」が誕生する場合もある。ヴァリ=エルフ族では、人間との混血者をそれ程タブー視する文化は無いが、ルーン=エルフ族は人間との混血者を「ハーフ・エルフ」と呼び、森への立ち入りを禁じるなどの追放処分を行うことが多い。人間の世界においても異端者であるが、外見が見目麗しいことが多いため、奴隷としてハーフ・エルフを求める貴族も多いのである。





 鬱蒼と茂る大森林の中の開けた場所に、その集落はある。石と木で作られた家々が並んでいる。その中でも一回り大きな建物内で、男たちが集まっていた。蝋燭の灯りの中に影が揺れる。全員が一様に沈鬱な表情を浮かべていた。一人が溜息を漏らす。


「まさか、この森に『迷宮(ダンジョン)』が出現するとはな。この数百年、いや千年は無かったのではないか?」


「恐らくな。英雄王ルドルフの建国以前から、我らの森は結界に護られてきた。魔素の集密を防ぎ、迷宮が生まれるのを阻止してきた。大婆様でさえ、記憶に無いと仰っておられる……」


「討伐に潜った者たちの話はどうだ?」


「それが問題だ。森に稀に出没する魔物とは桁が違うらしい。石鏃の弓矢と短剣程度では、とても討伐は出来ん。現在は入り口を結界で塞いでいるが、このままでは魔物大行進(モンスターパレード)が発生してしまう。何とか手を打たなければ……」


「やはりここは、人間の冒険者を雇うべきではないか? 森への立ち入りを許すことには私も忸怩たる思いがあるが、背に腹は代えられぬだろう。少数精鋭の冒険者集団(パーティー)でなら、他の者も抵抗も少ないだろう」


「となると、ウィンターデンの『六色聖剣』か。だが六色聖剣のリーダーは……」


 全員が一人の男に注目した。男はしばらく沈黙していたが、意を決して頷いた。


「他に(よすが)が無い。私が手紙を認めよう。だが、もう十数年も離別したままだ。それに娘は私のことを酷く恨んでいる。果たして動いてくれるかどうか……」


「他にも動いておく必要があるな。冒険者ギルドの方にも声を掛けよう。数日後にウィンターデンからの行商隊が来る。冒険者ギルドの方にも手紙を運んでもらうように手配しよう」


 方針が決まり、一人を除いて皆が退室した。薄暗い部屋の中で、男は辛そうな表情をして瞑目していた。


「ユリア……レイナ(あの子)は、私を恨んでいるだろうな……」


 小さな呟きが漏れた。



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