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Grand Brave ~転生勇者の無双伝説~  作者: 篠崎冬馬
第一章 英雄王の聖剣
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第021話:ヴァイスの正体

 DOD内のある都市にて……


「ウォッカさん! 一緒に、ダンジョン行きましょうよ!」


 黒髪の男が手を振って駆け寄ってくる。赤茶髪の男は鬱陶しそうに、それでいてちゃんと立ち止まって振り返った。孤高の単独(ソロ)プレイヤーとして名は広く知られていたが、一部の上位ランカー以外から話し掛けられるのは珍しい。


NEO(ネオ)か…… また俺につきまとうのか?」


 DOD世界で数年に渡って繰り広げられた「混沌と秩序の戦い」も収束に向かいつつある頃、総合戦闘力ランキング第一位の「爽快ウォッカ」には、仲間というよりは弟子に近いプレイヤーが一人いた。数多のPK者を屠り、無課金者から羨望と尊敬を集めていた爽快ウォッカであったが、特定のギルドにも入っていないし、知人はいても「仲間」はいなかった。そんなある日、珍しくPKを受けていた新人を助けたことが、その後の爽快ウォッカを微妙に変えた。


「良いじゃないですか! ウォッカさん、どうせ暇でしょ?」


 助けた新人は「NEO」という名前であった。SF映画の登場人物から取ったベタな名前である。大学生になったばかりというNEOは親の許可を得てVRゲームに参画した。ネット上では依然として、DODについて問題視されている。それを選んだのは軽率というほかない。新規登録した初日に、いきなりPKを受けたのである。見回りをしていた爽快ウォッカが叫び声を聞きつけ、PK者四人を瞬殺した。

それ以来、NEOは爽快ウォッカに憧れてつきまとっている。これまでの爽快ウォッカであれば、同レベルの仲間を見つけて強くなれと言っていただろうが、秩序側の勝利が確定的となったため「何をするか」が定まらず、確かに暇であった。


「まぁ、たまには新人とダンジョンに入るのも良いか……」


 NEOは大喜びでLv100ダンジョンを指定した。爽快ウォッカからすれば目をつぶっても攻略できる程の低レベルダンジョンである。ダンジョンでは主にNEOが戦い、爽快ウォッカが後ろを守っていた。


「NEO、戦い方がなっていないぞ。NPCを前提とした戦い方をするな。常にPvPを意識して戦え」


 ウォッカが手本を見せる。出現した四体の魔物を流れるような動きで屠る。まるで水のように滑らかな動きで、全くムダがない。度重なるPvPの中で身につけた、複数の相手を想定した戦い方であった。


「いちいちステータス確認をするな。PvPはコンマ一秒の差で決まる。自分の攻撃力を把握し、相手にどの程度のダメージを与えたかを感覚で掴めるようにしろ」


 NEOはVRゲームの才能があったのか、真綿が水を吸収するようにウォッカの指導を自分のものにしていった。なんだかんだと言いながらも、ウォッカはNEOにDODでの戦い方や遊び方を教えた。娼館だけは「リアルで先に経験しろ」と教えなかったが。

およそ2年間、NEOはウォッカと行動を共にしていた。最初は潜れなかった高レベル者用のダンジョンにも入ることが出来るようになり、無課金者の中では上位ランクの戦闘力を持つほどになった。Lv990、十個のJOBでLv99に達した時、ウォッカは祝いの品として剣を渡した。本来であれば重課金者しか手にはいらないような剣である。


================

装備名:英雄王の聖剣

種類:片手剣

装備Lv:990

装備ランク:赤

攻撃力:+485

効果:力上昇(極大)

   速度上昇(大)

   状態異常耐性(大)

製作者:Conrad Solingen

================


 NEOは大喜びし、その剣を自分のものとした。このとき、総合戦闘力ランキング上位三十位(サーティーズ)に入る「唯一の無課金者」が誕生した。それから暫くはNEOを見かけていたが、やがて姿を見せなくなった。MMO-RPGにおいては突然の引退はよくあることであったが、一言の挨拶も貰えなかった爽快ウォッカは、一抹の寂しさを感じたものであった。だがゲームを続ける中で、やがてそれも過去のこととなっていった。





 ウィンターデンの街の北東にはアガスティア大山脈まで続く森林地帯となっている。以前は街の手前まで魔獣が迫ってくる危険な森であった。だが今では、大山脈まで続く深奥はともかく、街の近くは小動物たちの楽園となっている。この森の魔獣を駆逐したのが、六色聖剣である。森の中に屋敷を建て、六名で共同生活をしている。レイナとグラディスがこの地に屋敷を構えた理由は二つある。一つは魔獣の森と恐れられていたため近くに民家が無く、剣や魔法の訓練をすることが出来るからであった。もう一つの理由は魔獣討伐中に偶然に発見した「モノ」にある。


「ふぅ…… やはり我が家の湯が一番だな」


 湯煙の中からグラディスの声が聞こえる。六名の美女が、自宅にある広い露天風呂に入っている。レイナとグラディスがこの地に屋敷を構えた最大の理由は、この温泉にあった。アガスティア大山脈があるためか、帝国北東部は温泉が多い。ウィンターデンには公衆浴場などもある。だがそれでも、自宅に風呂を持っているのは貴族や一部の豪商くらいであり、庶民には縁の無いものであった。六色聖剣全員が見惚れるほどに美しい一つの理由に、この温泉があった。


「ヴァイスさんは、明日の昼頃にいらっしゃるのでしたね。では入念に磨かないといけませんね」


「男が来るのは初めてね。さすがの私も、ちょっと緊張しちゃうわ」


「ヴァイス、お土産なに持ってくるかな」


 六色聖剣全員が、一人の男についてアレコレと話す。つい先日までは考えられないことであった。ヴァイスハイト・シュヴァイツァーという冒険者の出現は、六色聖剣にとって大きな衝撃であった。この一ヶ月は、その背に少しでも追いつくための修行一色であった。グラディスが楽しそうに笑う。


「私としては、あの男の強さの秘密が楽しみだ。あの規格外の強さ、有り得ないような道具類、それらを知ることができれば、六色聖剣は更に強くなる」


「みんな。私たちはこの一ヶ月間ずっと彼に世話になってるわ。明日はその御礼を兼ねているんだから、失礼の無いようにね?」


 ヴァイスが来ることを想像し、レイナは躰の疼きを感じていた。まだ数度しか関係を持っていないが、それでも自分の躰はあの男に染まっている。ヴァイスのいない生活など、もう考えられない程になっていた。


(好きな男に抱かれる。これが女の悦びなのかしら…グッディもイイ人を見つければ良いのに…)


 入浴とは違う理由で赤くなる。隠すように、レイナは顔を洗った。





 翌日の昼、ヴァイスは徒歩で六色聖剣の屋敷にやってきた。普通は馬を使うようだが、ヴァイスは乗馬が苦手であった。DODでは乗馬などの遊びも無課金でできたが、PvPに明け暮れていた自分はそんな遊びには縁がなかった。


「いらっしゃい。良く来てくれたわ。貴方が来るのをみんなも楽しみにしていたの」


 レイナが門まで出てきて、迎えてくれる。装備類はアイテムボックスに入れているため、ヴァイスは普通の服装をしていた。家に入るまでに僅かな間に、レイナが腕を組んでくる。


「今夜は、泊まっていくでしょう?」


 女の顔を見せる。随分と大胆になったものだと思う。つい一月前のレイナでは考えられない誘いた。絶世とも言える美女の処女を奪い、己の手で開発していくことに背徳的な快感があった。今すぐにでも押し倒し、この躰を隅々まで貪り尽くしたいという欲求にかられる。どうやらレイナも同じ想いのようだ。扉の前で立ち止まり、金色の髪を撫で上げる。


「ヴァイス……」


 頬が染まり、欲情した牝の表情を浮かべる。腰に手を回し、唇を重ねようとした時に咳払いが聞こえた。


「良い雰囲気のところ申し訳ないが、二人とも少しは自重して貰えんか?」


 何とも言えない表情でグラディスが立っていた。





 アイテムボックスから手土産を取り出す。テーブルの上にプルプルと震える黄色と焦げ茶色の菓子が置かれる。ミレーユが鼻をヒクつかせる。


「美味しそうな香りだけど、これは何という料理?」


「これは『プリン』という料理だ。砂糖、卵、牛乳だけで作ることが出来る。俺が作った」


「砂糖だと? 南方の高級食材ではないか! 良いのか?」


「高級なのか? 確かに街の雑貨屋では見掛けなかったが…… まぁ気にするな。水系魔法で冷やしてある。皿に切り分けて食べてくれ」


 ハーブティーが淹れられ、六名の美女が顔を綻ばせる。多めに作っておいて正解だった。


「さて、どこから話し始めようかな……」


 エレオノーラが淹れた茶を啜りながら、ヴァイスが呟いた。全員の視線が集まった。


「そうだな。まずはこの剣から見てもらおうか」


 そう言うと、アイテムボックスから自分の愛剣「伝説勇者の剣」を取り出し、テーブルの上に置いた。レイナとグラディスが息を呑む。


「改めて見ると、凄まじい存在感だな……」


「グラディス、この剣を持ってみろ」


 グラディスが柄を掴み、持ち上げようとする。だが剣はピクリとも動かなかった。


「なんだ、この重さは…… 全く持ち上がらないぞ」


「重い? だってテーブルの上に置いてあるし、そんなに重そうには……」


 レイナも柄を掴むが、同じように動かない。六色聖剣全員が同様であった。ヴァイスは軽々と剣を持ち上げた。


「この剣の装備レベルは999、つまり、レベル999の者にしか持つことが出来ない」


「何のことだ? レベル? 999とは?」


「ちなみにレイナのレベルは242、グラディスは240だ。俺とのPvPで経験値が増え、レベルが上がった」


「ヴァイス、何を言っているのか解らないわ? お願いだから、解るように説明して」


 ヴァイスは黙ったまま、アイテムボックスに愛剣を収納した。全員の顔を見渡す。


「俺は、この世界の人間ではない。別の世界から来た『異世界人』だ」


 全員が驚いた顔を見せ… なかった。何の話か、やはり理解できないようであった。


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