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解決??

 ツキミは来ていた学園の黒いローブを脱ぎ差し出す。結界を解除したためか少し楽になったようだ。

 シルミダがそれを着る。サイズはピッタリとはいかなかったもの、その体を隠すには十分であった。


 「人払いの結界も解いたから、もうすぐ人が通り始めるわ。行きましょ」ツキミが言った。

 「そうだな」

 

 さて、何処に行こうか。まだ夜風は冷たく、ローブのないツキミが寒そうだ。

 まずは暖まれるような場所に、と言ったもののローブの下になにも来ていない痴女を何処かのお店に行くわけにもいかないし、学園に言ってシルミダが生きていたなんて言うことを知らせるわけにもいかない。

 どうしたものか、と悩む。俺の家に、なんて言いたいところだがここの西区からは遠すぎる。


 「どうするグレイ、このまま俺の家行くか?」エイブは自分の家がある方角を指さしていった。

 今いる西区からは一番エイブの家が近くであった。四人はいても問題ないぐらい部屋は広い。なるほど、その手があった。


 「そうしよう。エイブはシルミダさんを頼む。俺だと逃げられたときになにも対応できないからな」

 「だな」エイブはうなずく。「それにお前の弟子がそれを許さないだろうな」

 「弟子?なにが言いたいのかはあまりわからないが、よろしく頼む」

 

 「へいへい」適当に返事をすると、シルミダの横に立った。

 「優しくしてくださいね」シルミダが微笑む。先程の戦闘のことなんて忘れたかのように余裕があるようにグレイには見えた。何時でも逃げれるとでも言いたげだ。だがそこはエイブも負けておらず、シルミダの言葉に返すように「それは貴女次第ですよ」爽やかな笑顔で返した。

 


 「グレイ、私魔力が足りないみたいなの」態とらしくめまいがしたかのようにフラフラとしてみせる。

 「問題ないだろう?すぐ近くに学園があるのだから歩け」戦いでの疲労があるため少しばかし言い方が強くなってしまったようだが、それでもツキミは折れない。

 「お祖父様だって心配するだろうし、先生が夜遅くまで生徒と一緒に居たと噂が流れたら大変でしょう?」

 脅迫とも取れそうなセリフだが、気にすることはない。というか生徒が教師を脅迫するというのはどういうことだ?

 「その時エイブだって一緒に居たから問題ないだろう?」

 「うぐっ......でしたら」

 「でしたらじゃねぇよ。そんな事考えれる余裕があるなら歩け。ほら」

 グレイがツキミの背中を押す。

 渋々あるき出すツキミ。それを見守るようにグレイも歩き出した。




 ************



 エイブの家は綺麗であった。汚れらしきものは見当たらず、そして脱ぎ捨てられた服や、洗われることのない皿などが溜まっていたりしない。俺の家とは大違いだ。


 「なにもないのね......」

 ツキミは驚愕していた。そのとおり、そのセリフの通りなにもない。あるとすればベッドぐらいであり、家具がまったくない。グレイは何度か来たことがあったため別に驚くことはなかったし、初めて見たときはまあ、これだけあれば生活はできるだろうなと適当な感想を抱いていたため、ツキミが何でそこまで驚いているのだろうと不思議に思う。


 「まあね。だいたい研究室にこもっているし、休みの日だって学園に行くから必要なものは全部研究室に置いているんだ」エイブはははは、と誤魔化すように笑っている。しかし隣でシルミダが激しく同意と頷いていた。


 「研究者って大変なのですね」

 「そりゃ。魔術を極めるのに文字通り全てを掛けているから」

 エイブは言う。悲しさとか、諦めとかではなく、勲章のように誇っていたのでグレイにはエイブが眩しく見えた。

 「とりあえずシルミダさんに服を着せるからそこ......ってなにもないよね。ごめんけど立って待ってて」というとエイブはシルミダを連れて部屋の奥に消えていった。

 

 「なんだか、命をかけた戦いをした後とは思えないわ」ツキミが言う。

 その気持ちはグレイもわかった。命を奪おうとした相手がさっきまで目の前に居たというのに、戦いのときに抱いていた殺意は全く無い。いや、ちがうな。

 「俺らはシルミダを殺そうとしていたんじゃなく、魔獣を殺そうとしていたんだからじゃないか?それは同じ相手だが、姿が違う」

 「うん」

 「魔獣の正体を知ってしまえば、もう一度魔獣の姿になったときさっきみたいに戦うことに戸惑うだろうな」

 

 そうだ。もしもう一度魔獣と戦うことになったとき、先程のように相手の生命を奪おうという気持ちで戦えるだろうか?俺なら出来るだろう、だがツキミは?きっと無理だ。


 エイブはすぐに帰ってきた。シャツとズボンと言った簡単な格好をシルミダはしていた。

 「さて、話を使用と思うのだがまずシルミダ、お前の計画を邪魔をするつもりはない」グレイが口を開いた。

 「それって」シルミダの表情が一瞬で変わる。驚愕、恐怖などが入り混じった表情だ。先程の余裕がある表情が嘘みたいだ。

 

 「グレイ、計画ってなんのことなの?」ツキミが聞く。

 「あとで話す。だから待っててくれ」

 「また後でまた後で......何時話してくれるの?」

 「近い内にアラグゥ先生に話に行くから、そのときに。多分一週間後だ」

 「......わかった」不満げではあったものの、ツキミはそれ以上追求することはなく引いた。

 

 俺は?と言いたげな表情をしているエイブには、グラスを傾けるジェスチャをする。すぐわかったようだ。

 再びシルミダに向き合う。

 「だから俺たちは敵ではないし、計画を邪魔できないように二人には終わってから話す。約束しよう」

 「なんで邪魔をしないの?すべてわかっているのでしょ?」本当に驚いている様子であったため、ツキミは一体どんな計画を立てているのだろうかと考えはじめた。

 (復讐?いやもうファミューダ教授に復讐を果たしているし......)

 「別に俺たちに害はないし、魔術師としても害はない。問題ないだろう?」

 「そうだけれど、それでいいの貴方?」

 「ああ」

 

 シルミダが戸惑っている。

 (なんで戸惑っているの?でもグレイにも、魔術師としても害が無い......わからない)

 

 「だからもう俺らを襲うことを辞めると約束してくれ」

 「......ええ、わかりました」

 「よし、それじゃあ飯に行こう」

 「「え?」」エイブとツキミの声が被った。

 

 「腹が減っただろう、まだ夕食食べれていないし」

 「まあそうだが......いいのか?グレイ?」

 「ああ。襲われることも逃げられることがなければ、問題ないだろ」

 

 ということで4人は食事に近くのレストランへと向かっていった。

 ねえ、これでいいの?なんてツキミは思うが、お腹が減っているのは確かであったため、静かに付いていくことにした。


 

 *************



 ......本当にこれでいいの?再度ツキミは思う。

 エイブの家を出た私達は、近くとは言い難いが遠いとも言えない微妙な距離を歩き、レストランへと向かった。

 古びた外装だが、決して汚いというものではなく、親しみやすさを覚えるお店であった。

 グレイとエイブはお互い顔を見合わせ、その後シルミダさんと私に聞いて、了承を得た後入っていった。中には暖かな色をした照明がぶら下がっっており、棚にはいろいろなお酒が並んでいる。一見バーにも見えるこのレストランだが、ちゃんと料理があるようでメニューを見渡せばおつまみのようなものから、がっつりとしたものもある。


 適当にエイブが料理を注文した後、運ばれた食事と酒を口に運びながら会話をする。

 研究者あるあるとか、上司の愚痴とか。

 ......本当にこれでいいの?と再度思う。え、私達命の奪い合いをしてきたのじゃないの?

 気まずい雰囲気で、静かに食事をし、何かあったのかな?みたいな感じになるのじゃないの?

 何でこんな感じに和気あいあいとしているの?


 なんて思いながら、肉を口に入れた。

 その後、事件の話をするのだと思いきや、全く事件のことを忘れたのか、それともアルコールが体内に入ったからか出てこない。そのまま食事を楽しみ、酒を楽しみ、レストランで解散となった。



 本当にこれでいいのだろうか?



 ***************

 

 

 夜道をツキミとグレイは歩く。

 グレイにとってツキミの家は、自分の家と真反対と言える位置にあるため、かなりの遠回りになってしまうことになるのだが、ここまで命の危険にまで晒し、解決すればそれじゃあ、というのはあまりなものだと考えたためであった。

 

 ツキミは流石に今日は疲れてしまったようで、いつものように話しかけてこない。うつらうつらとしている様子からは、体内魔力の減少、戦闘による極度の緊張感、そして遅い時間帯というのもあるだろう。足取りもおぼつかなくなってきた。

 「ツキミ、大丈夫か?」

 「......うん。だいじょうぶ」発せられる声色は微かであり、いつもより口調が幼い。

 

 ふらふら、そんな擬音が似合いそうな足取り。仕方がない。

 「ツキミ、背中のるか?」

 「......うん」

 グレイはツキミの前にしゃがみ込み背中を向ける。そこにより掛かるようにツキミは倒れ込み、首に手を回した。息が耳に触れてこそばゆいが我慢した。

 よいしょ、と掛け声とともにグレイは立ち上がる。


 重たい。それは体重とか云々とかではなく、ただ、彼女の命を背負っているような気がした。

 きっと俺も初めての戦いを経験したためか、それとも自分の大切な生徒だからか。わからない。アルコールのせいで思考が鈍っているのだろうか。

 背中に感じるツキミの体温、吐息、重さ。あまりに普通の女の子だ。 

 そのままでいられたら幸せな日常のまま一生を過ごしていたかもしれない女の子だ。だが、今日のツキミは魔術師であった。精霊を使い、魔弾を放ち、魔獣を殺そうとした。

 

 魔術を使用し、目的を達成しようとする姿は魔術師といても問題ない。だが、彼女にとって魔術師になることは幸せなのだろうか。

 記憶が曖昧だが以前、刺激的な毎日を送りたいって言っていたような気がする。それは命を賭ける必要があるだろうか。少しの刺激だけで満足できる、それは恋愛であったり、スポーツなどの競技であったり得られる刺激ではいけないのだろうか。

 

 ......なんで俺はツキミの人生で悩んでいるのだろうか。

 人間としていて生きて欲しいとは、いつも思っている。魔術師でまともな死に方をしているやつなんてほとんどいない。そうなってほしくないのは、当たり前だろう。だが、魔術の才能を持って生まれてきたツキミを見ていると、どんな魔術師になっていくのだろうかともワクワクする気持ちとともに、劣っている自分に嫌気がする。


 ......疲れているな。考えていることが意味がわからない。ミミズのような思考が本調子でない証拠だ。

 俺らしくない。俺らしくってなんだろう。


 「......すぅ」

 寝息からして、どうやらツキミはもうぐっすり眠って今頃は夢の中だろう。

 まあいいや。これからどう生きるかを決めるのもツキミだ。

 ただ俺はそれを見守っていき、悩んでいたら手を差し伸べればいいんだ。


 暗い夜道を歩きながら、グレイは彼女を家に送り届け、自宅へと帰った。

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