表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤオヨロズ──中道録  作者: 隼理史幸
デイブレーカー
41/93

何にせよ、恐ろしく厄介な事に巻き込まれた事だけは確かだな。

降り下ろされた鉈が幕を下ろす合図であるかのように、廃墟と化した校舎は死んだように静まり返る。九龍とミシェル、ふたりには目線だけを動かし辺りの確認を行う。


先程まで死闘を繰り広げていた二対の怪物と首のない騎士の骸、ならびに自らの戦闘の代行者たる傷ついた<カミサマ>たち。そして足音一つしない校舎の外へ乗り出して見回してみれば、その先もやはり人の気配を匂わせぬ不毛の大地。地平線まで続くであろう棄てられた街々が広がっていた。


「───今まで気にする余裕なかったケド、本当にここは何処なんだ?」


疑問を口にし問題を提起するミシェル。これまでに我が身に起こった事、これらは本当に事実なのか。九龍は徐に頬へ指を添える。既に乾いてはいるが、まだ飛び散った鮮血の温みがまとわりついているような、そんな感覚に苛まれる。


ミシェルもまた、斃れゆく<デムナ>の姿が反芻し、生の光景が焼き付いた目が、身体が決して仮想(バーチャル)などではない現実(リアル)だと理解し、それが彼女の呼吸を大きく乱している。


そこへ唐突に、汗ばむ手で握りしめていた携帯端末に振動が伝わる。突然のことにふたりは肩を跳ねつつもおそるおそる画面に目をやると、いつぞやの狐の面をしたキャラクターが姿を現し一礼する。


『congratulation。青柳様、雨傘様。此度のテスト、誠にご苦労様でした。』


テスト。そのワードを耳にしたミシェルは眉をつり上げ、怪訝な表情で狐面に強い口調で問い詰める。


「なにそれ。ケンカ売ってる? ボクら危うく死ぬところだったんだよ?」


強い憤りと僅かに残る恐怖が混ぜ込まれたミシェルの荒い口振りに対して、狐面のキャラクターはそれらを意に介さず一貫して機械的かつ丁寧な口調で返す。


『・・・ですが、事実生き残っておられます。それはあなた方に資質があるという証左でございます。』

「───さっきも言ってたな。俺らが見たのはいったい何なんだ? 説明してくれるよな?」

『勿論で御座います。私は、ユーザーの<ヤオヨロズ>に関する質問には包み隠さず、正確に答えるよう設定されております。』


「良いの?」と苛立ちを見せながら訊くミシェルに、肩を竦めつつも「仕方ない」と返し説明を受けることを促す九龍。ふたりに静聴の用意が整ったことを確認すると、狐面は丁寧な態度を崩すことなく語り始める。


『……こほん。まず、御二方の端末にインストールされたアプリケーション<ヤオヨロズ>の機能について、あらためて説明させていただきます。』


画面の中の狐面が何もない空間を小突くと、まるでプレゼンテーションのように画面がスライドし、簡単な概要などが文字として出力され、狐面がそれを朗読する。


『知っての通り、この<ヤオヨロズ>は正規の手段を経て電子の海に放たれたアプリゲームであります。しかし、その本当の機能は、あなた方が暮らす空間とは別の、通称<辺獄>へ端末を介し接続することにあります。』

「<辺獄>、とな?」

『はい。あなた方は<契約者(コネクター)>となり、戦闘の代行者である彼ら<カミサマ>を携え、其処で根を張る<黒>を滅する事が出来るのです。』


そう言って狐面は彼らがつい先刻まで指揮していた<カミサマ>らを指して告げる。彼ら三騎は主が面持ちを見れば頷き、狐面の言葉が正しいという肯定の意図を見せ、それらを見届けた後に説明が再開される。


『<カミサマ>らは本来は仮想の存在。あなた方が普段息づく世界では活動するための実体がない為、直接的には干渉は不可能です。しかし、今あなた方が居る<辺獄>は違います。ここは通常の物理法則が無視される場所。ヒトの悪性の廃棄場です。』

「ヒトの悪性の廃棄場、だって?」

『そうです。誰かが妬ましい、なぜ自分だけ、そのようなマイナスの感情を一度は感じたことを有りましょう?』


場を僅かな沈黙が支配する。普段蓋をしていた、思い出したくもない記憶が顔を見せ、ふたりの眉をつり上げさせる。それを知ってか知らずか、狐面は丁寧口調を維持したまま説明を続行する。


『今貴殿方が滅しておられた<黒>とはの悪性、即ち人間の後ろ暗い感情が目に見える形になったものであります。決して表に出ることなく、ここで朽ちてゆく筈のそれが、如何様な理由か明確な形を取る、青柳様の言うところの禍津神と化してしまいましたのです。放っておけば現実にも影響を及ぼすであろう<黒>に対抗するため、この<ヤオヨロズ>は生み出されたのです。』


狐面が一通りの語りを終えたところで一息入れ、聴き手側の九龍とミシェルは今まで濁流のごとく流れ込んできた情報の整理整頓を済ませていく。


現実離れも甚だしい、と否定する感情と、それと相反するように目の前で起こった、体験した内容としてあっさりと理解せしめている感情の折り合いをつけていく。


知恵熱に似たものを感じながら九龍は、いつになく長く艶のある髪を弄る回数の多いミシェルに向けて、定期試験の答え合わせをするように互いの調子の確認を行う。


「そっちはどうだ? 俺は微妙なところだ。多少は飲み込めたが、正直聞いてて頭痛くなってきた。」

「・・・ボクも似たようなものかな。色々納得はできないけど、それでも起こった以上は認めるしかない。そんなところかな。」

「───ああ。何にせよ、恐ろしく厄介な事に巻き込まれた事だけは確かだな。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ