楽しい楽しい首切りゲーム、これにておしまいだ。
「やった、のか?」
炎と共に消え去る<土蜘蛛>の片割れを見届けながら、心配そうに尋ねる九龍。それに対してミシェルは、何処か上の空みたく答える。
「・・・みたい、だね。しかし、流石の一撃だ。コイツは負けてられないな。」
そう言うミシェルが<ベルシラック>へ向ける視線に、ふと違和感を覚える九龍。それは期待というより、まるで憐憫とも取れるものに映ったからである。
「・・・ベルちゃん、お願い。」
何処か重々しい表情のまま、ミシェルは命を告げる。それを慮ってか、<ベルシラック>は堂々とした足取りで敵へ詰め寄り鉈を振るい、一刀にて鮮血を散らし、八つある足の内を二本を両断する。
「すげえ、大ダメージだ!」
響き渡る敵の悲鳴と飛び散る紫色の血液に感嘆の声を上げる九龍。しかし、その一撃を命じたミシェルは重々しい顔持ちのままであった。彼にはそれが気がかりになり訳を訊く。
「お、おい。なんでそんな暗い面なんだよ?」
「わからないの? 今ボクが使わせたスキルは<捨て身の一撃>。属性はカテゴライズされておらず、かわりに必ず命中し、かつ高威力。されど、代償として体力の半分が消費される。」
九龍はハッとする。必殺の一撃のもと斬り捨てた<土蜘蛛>の脚二本が、<ベルシラック>の胴へと突き刺さっていたのだった。そのような重態に追い討ちをかけるように、まだ倒れてはいない分裂したもう一体の<土蜘蛛>はスキルを発動させる。
「<切り裂く糸>。全体にランダムに二~五回攻撃を叩き込む。それが二発連続来るってことは・・・」
九龍が懸念した通り、糸が意思を持つかのようにうねり、ワイヤーのごとく自らの敵全てを切り裂いてゆく。
『にょわわわわわ! いってえ!』
『ぐっ! 針の刀くらいでやられるかよ!』
ミシェルの<アザゼル>だけでなく、九龍の<ケルベロス>らをもダメージを与えるものの、どれも致命打とは言いがたく戦闘続行不能とはなるには至らなかった。しかし<ベルシラック>のみ、最大の五回の攻撃を受け消耗し膝を折る。
『ちょっ、アンタもう一撃貰うたらお陀仏やんけ!?』
<アザゼル>の懸念通り、蜘蛛の糸が二度目の攻撃の準備を終え、緑の騎士は全身から血を流し今にも朽ちそうな状態に、九龍は彼の主であるミシェルに思わず叫ぶ。
「お、おい! これじゃ<ベルシラック>が持たないぞ!?」
「───いや、これでいい!」
スキルのデメリットに加え、連続で攻撃を受けじりじりと残りの体力を示すゲージが目減りしていき、緑の騎士は体力をあとわずかというところまで奪われた。その後ろ姿をじっと、ミシェルは目をそらさずに見続ける。
「っ、また糸の攻撃が!」
再度九龍とミシェルの<カミサマ>たちへ攻撃が降り注ぐ。<ケルベロス>をはじめとしたメンバーたちは切り刻まれていくも、まだ多少なりとも耐えることはできた。しかし、
「────ッ!!」
止めの一撃と言わんばかりに<ベルシラック>は糸が鋸のように鋭く放たれ、それを受けた緑の騎士の首は捻り飛ばされる。思わず目を覆いたくなる光景を、ミシェルは唇を噛み締めながら見届ける。
「───ベルちゃん。その、」
『皆まで言うな。こうなることはわかっていた。』
転がる首は穏やかな表情で、自身を気にかける主に向けて諭す。その姿を見届けたミシェルは一度深呼吸をすると、力強く宣言する。
「パッシブスキル<教会の試煉>。自身がダメージを受けた三ターン後の開始時、自動で発動する。」
首から上を両断された<ベルシラック>は、何事も無かったかのように自分の頭を拾い上げる。その光景に思わずぎょっとして肩を跳ねる九龍。
「なっ、やられた筈の<ベルシラック>が動いてる……?」
「クロウ。さっき首切りゲームを知ってるって聞いたよね?」
つい先程、何気なく尋ねたその言葉を思い出した九龍は徐に頷くと、ミシェルは淡々とした口調で説く。
「首切りゲーム。クリスマスに現れた緑の騎士は、王に互いに首を切り合うというゲームを持ち掛けた。そうして首を切られた騎士は何事もなかったように落ちた首を拾い上げ、一年後に首を切り落とすと告げた」
ミシェルの語る概要はふたりの目の前に映る光景と似寄っており、彼女は首の切れた騎士を指差し説明を続ける。
「これはその再現。ボクのとっておきの隠し玉。このスキル発動したターン中、戦闘不能になった場合、敵一体に即死攻撃を与える。」
一歩。また一歩と。首を抱えた緑の騎士は目標へと詰め寄る。手にした刃は鈍く光り、まるで飢えた獣のよう、と九龍は息を呑む。
『さあ、次はこちらの番だ。首を頂こう』
緑の騎士は鉈を振り下ろす。課せられた試煉の幕を下ろすために。
「───楽しい楽しい首狩りゲーム、これにておしまいだ」
ポトリ、と蜘蛛の頭が落ちる。直後に戦いの終わりを告げ勝者を讃える、号令にも似たブザーが鳴り響く。




