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ヤオヨロズ──中道録  作者: 隼理史幸
デイブレーカー
27/93

腐り過ぎてて何も言えねえ。

校舎の裏側の人気の殆どしない場所に移動した一行は、ここに来る前に話していた内容について詳細を語り始めた。


「…で、何処から話せばいいかな?」


幕下がそう訊くと、ミシェルのほうがほんの一秒程思考を巡らせた後答える。


「取り敢えず全部。…ごめん、訂正する。言ってもツラくならない範囲でいい」


わかった、と言いたげに首を振る幕下。彼は少しの間を空け、頭の中で話すべき内容を整理してから語り始める。


「…わかってると思うけど、僕は今回のような色々な嫌がらせを受けてる。顔も見ての通り、直接的暴力も」

「そこなんだけど、訊いて構わないか?」


九龍が質問を飛ばす。どうぞ、と幕下は手を差し出すジェスチャーを見せてそれを促す。許可を得たのを確認し、彼は質問の内容を話す。


「顔殴られてて、みんな疑問に思わないのか? 誰かがチクらなくても目立つ形でやられてちゃ教師連中にバレるんじゃ?」

「そう、それボクも気になってた。やるんだったら顔じゃなくてバレにくいボディー狙うのが定石のはずじゃ?」


二人はもっともな疑問を口にする。それに対し幕下は顔を僅かに伏せてその問いに答えを示す。


「結論から言うよ。その教師ら、ひいては学校自体がグルなんだ」


九龍とミシェルはほぼ同時に「やっぱりか」という溜め息を口からこぼす。幕下にとってそれはは意外と言うべきリアクションであった。


「顔殴られてたから、薄々そうじゃないかと思ってたけど。そうでほしくなかった…かな」


ミシェルはその息づかいに憂いを多分に含め言葉を放つ。それを見届けた後、幕下は事実の詳細を俯き加減のまま説明し始める。


「…数ヵ月前、二年生に進級する少し前のころだったっけ。放課後に校舎をうろうろしてたら、見つけたんだ。雨が降っている訳でもないのにびしょびしょの生徒がいたのさ。まるでバケツ一杯の水でも浴びたみたいに」

「…典型的かつ古典的だね。ボクにも覚えはなくもない」

「で、僕はその子に事情を訊いたんだ。最初は口をつぐんでたけど、根気よく訊いて漸く嫌がらせをしてるグループの生徒を特定して、学校側に密告した。けど」


けど、そう言ったところで幕下は言葉を詰まらせる。耳を傾けていたミシェルに確信に近いひとつの閃きがよぎる。


彼女はその予感を溜め息ひとつ吐いてから、微かな怒気を口調に帯びて訊く。


「まさかと思うけど、その生徒ら、親御さんが学校側に多額の貢献をしてる、とかいうんじゃない?」


それを聞いた幕下は眉を動かす。正解を当てられた、という顔を浮かべながら首を縦に振る。


明かされた事実に、思わず九龍は唾を飲みこむ。彼の表情は非常に苦々しいモノへとみるみる変化してゆく。


「ちょっと待ってくれ。じゃあ学校がグルってこと、つまりそういうコトか?」


九龍の呆れとも怒りとも取れる息づかいが汲み取れるその問いに、ミシェルは自分の中に燻る炎のような感情を地面に向けて蹴飛ばしそれを表す。


「…うん。アッチの親御さんはどうせそんな事実認めないし、コッチの学校は表面上問題にならなきゃOKってトコ? キミの顔の有り様を見る限り、そのグループ相当いい空気吸ってんじゃないの?」

「…言うとおりだ。で、後はだいたいわかると思うけどターゲットが僕に切り替わって今に至る、というコト」


はぁ、幕下の口から憂いを篭った吐息が漏れる。それを聞いていた九龍は身から沸き出る怒りに顔を歪ませ、言葉にしてぶつける。


「…腐り過ぎてて何も言えねえ。じゃあ何か、お前は体のいい生け贄ってことかよ! 周りもそれで良いってコトで見逃してるってか!?」

「そうだよ。わざわざ楯突いてまで僕を助けようとするのなんていない。そんなわざわざ地獄に片足突っ込むようなバカをするなんて…」


そこまで口にしたところで、幕下は軽く頭を抑え出す。彼の脳裏に、ごく最近起こった事実が急に思い起こされる。


「…いや、いた。一人だけ。顔も知らないけど。僕を助けようとした人が確かにいた。そう、名前は…」


幕下は顔を上げて、彼の境遇に怒りを覚えるふたりの顔を見る。ふと、先程聞いた名前を再び口にする。その表情をとても誇らしげにしながら。


「青柳…。そう、『青柳九龍』。君だ」

「! 俺、が? そんなことしたか?」

「…あー、そういえばクロウ、この間屋上の施錠しに行ったらチンピラみたいなのに絡まれたとかどうとか愚痴ってたっけ。アレじゃない?」


それを聞き、九龍は「思い出した」と言いながら相槌を打つ。幕下は口許を僅かに綻ばせると、頭を深々と下げる。


「ありがとう。何も覚えてないけど、本当にありがとう」


その感謝を受けた九龍は、どこかむずがゆいといった様子で頬をぽりぽりと掻く。


「うーん。アレはなんというか、ぶっちゃけ正当防衛という名の八つ当りというモンだからな。感謝されるようなコトじゃないから気にする必要はない」


感謝をかわす九龍に、隣にいるミシェルはクスクスと微笑みながら彼の横腹を小突く。


「またまた、お人好しのクセに感謝されるのは苦手なんだから~」

「うっせぇ、見返り欲しさでやってるわけじゃないからいいだろ?」


九龍はにやつきながら、反撃と言わんばかりにミシェルの浅葱色の髪を頂点からわしゃわしゃといじりだす。


ふたりのじゃれあいを見ていた幕下もまた、それにつられて微かに笑顔を見せながら、徐々に暗くなりつつある周辺に目を配る。


「じゃ、そろそろ着替えて帰るよ。その、ありがとう、ふたりとも。また、会えたらな…」


名残惜しげな目をしながらも、幕下はやや足早にその場を後にした。残されたふたりも腕に巻かれた時計の時刻を確認して、やはり帰り支度をしよう、という結論に至りその場を後にする。

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