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命の時間  作者: らりなな
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最終回 会いたいんだ(神崎side)

 住所を頼りに、山内さんの家まで行ってみた。

 山内さんの体調が心配だったのもあるけれど……山内さんに、読んで欲しい本があるんだ。



 山内さんの家は広い一軒家で、茶色の、どこかレトロな雰囲気を醸し出したよさげな家だった。山内と書かれたネームプレートを確認し、緊張気味にチャイムに手を伸ばす。


 ピーンポーン

 中から、女性の声が聞こえた。


 ガチャリとドアを開けてもらう。そこには四〇代位の、上品な顔つきの人が立っていた。あまり山内さんと似ていないんだな、と失礼ながらも思ってしまう。


 「南小学校の神崎優二と申します。里美さん、いらっしゃいますか?」

 普通に言ったはずなのに、女性は驚きを隠せない、とでも言った表情のまま凍りついた。

「あの……?」

 訊いてみるとやっと我に返ったようで、

「……今、ご案内するわ」

と、どこか悲しげなトーンで呟かれた。



 長い廊下を歩いて和室にたどり着き、障子を開けてもらった瞬間、今度は僕が凍りついてしまった。


 そこに、山内さんはいた。


 高そうな布団の上で、息をせずに眠っていた。



 何も言えない。言葉が出てこない。


 女性は山内さんの顔に掛けた布を外した。

「昨日、里美ちゃんは病院で息を引き取りました。静かに、音も立てずに……」

 隣に立つ女性が、涙目で訴えかけてくる。


 昨日、僕は何をしていたんだ。


 どうして一刻も早く、山内さんに会いに行かなかったんだ。


 今更後悔しても遅いのに、後悔の波は呆然としている自分の心を平気で襲いかかってくる。


「……あなた、里美ちゃんのお友達?」

「……はい」

 眠っている山内さんを見つめながら、返事をする。

「そう……」

 それからしばらく、沈黙が続き、


「……里美ちゃんの傍に居てくれて、ありがとね」


 押し出すように、女性は言葉を紡いだ。

「あ、そうだこれ……里美ちゃんが、神崎君へって」

そう告げ、ふるえる手で手紙を差し出された。

「……ありがとうございます」

僕は優しい手つきで手紙を受け取った。




「山内さん……」

 女性が出て行った後、僕は山内さんの枕元に座り、そっと手紙の封を切った。



 これが、最後の手紙――

 そう思うと、手が震えて上手く中身を取り出せなかった。


 最後の手紙を、一字一字読み逃さないように目で追う。昔よりも乱雑に書かれた文字は、山内さんが一生懸命僕に気持ちを伝えようと頑張った結晶だと思った。




「……――っ!」


手紙を読み終えたら、途端にどわっと目から雫が溢れだした。


 何で、何で……!!


 悲しみや怒り、やりきれない気持ちが、どんどん溢れ出て来る。


「何で、何で、山内さん……っ!!」

 手紙を持っていた手に力を入れてしまい、紙がクシャリと曲がる。

「何で今更こんな事……!! こんな、重要なこと……!!」


 顔を俯かせ、しゃくり上げた。人の家だなんて関係なく、涙の染みを畳にどんどんつけてしまう。時折、涙が山内さんの顔にかかる。けれども山内さんは眠ったままだ。


「何でっ!!」



 今更。

 ――好きだ、なんて。



 僕も、山内さんが好きだった。初めて山内さんの笑顔を見たとき、僕の心はやられてしまった。山内さんで、支配されてしまったんだ。

 山内さんの為なら、なんでもできると思った。なのに――何も、してやれなかった。


「ごめんなさい……」

 山内さんは相変わらず眠っている。その優しげな顔に、自分の顔を近づけた。



 そしてそのまま、唇を重ね合わせた。


 ――好きだって、直接伝えたかった。


 お互いの唇の間に、熱が生じた気がした。





 山内さんの、お葬式の日。

「神崎君……来てくれたのね」

「はい……」

この前会った女性は、目をハンカチで押さえている。


 お葬式には、先生方や何人かのクラスメイト、その他知らない人がちらほらいた。


 山内さんの写真を見つめながら、僕はお経を聴いた。時には、渡された紙を見ながらお経を唱えた。



  

 ふと思う。

 

 ちょっと手紙交換しただけなのに……。


 なんでかな?


 どうして君の事がこんなにも、気になったのだろう――?




 最後に山内さんの入っている棺桶の中に、たくさんの花を添えた。それにより、山内さんの顔がもっと栄えた。


 僕は、そっと女性に話しかける。

「あの、これも入れて頂けませんか?」

女性は、僕が持っているものを見て、切ない眼差しで笑った。

「神崎君……いいわよ」


 僕はそっと山内さんに近づき、幸せそうに眠る顔の隣に手紙を添えた。



 山内さんへ


今まで一緒にいてくれて、ありがとう。山内さんと共にいた日々は、僕の宝物です。

 ……そして山内さんに、伝えなければならないことがあります。



 好きです。


「……」

 棺桶の蓋が閉められる瞬間。


 山内さんが、僕の名前を読んだ気がした。

最後まで読んでくださりありがとうございました。自分にとって、初めて連載小説を完結することができました。悲しい終わり方でしたが、楽しんでいただけたのなら幸いです。

別の作品と同時進行でもしかしたらまた、短めの恋愛ものを書くかもしれません。その時はまた見てくださるとありがたいです。

それではまたいつか会えることを。

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