諦めない
なんとか手紙が書ける手になった。
一方的にもらっていた手紙にも、返事が書けるようになった。
だけど。
「里美ちゃん!!」
「ん……?」
「良かった……」
いつの間にか、おばさんに抱きかかえられていた。意識がもうろうとする中、涙目のおばさんを見て、ああ、私、倒れたんだなと自覚する。
最近、突然意識がぷつんと切れることが多々あるようになった。ひどい時には、いつの間にか病院のベッドで寝ている。
もう、そろそろか。
「最近、学校休みがちだけどどうしたの? 大丈夫?」
神崎に住所教えといて良かった。前より頻繁ではないけれど、神崎から手紙が届く。神崎の字を見ていると、なんだか元気が出てくるような気がするのだ。
「うん。大丈夫だよ……心配しないで」
大丈夫では……ないのかもしれない。けれど、自分に言い聞かせるように、神崎へと手紙を書いた。
「うっ!」
「山内さん!?」
急に、体の奥から強烈な気持ち悪さが襲いかかってくる。げほげほと、何かを吐き出すように咳払いをした。
看護師さんが、背中を手でさすってくれるだけで、少し安心した。
もう、制限時間は短いのだと思う。
吐き気が治まり、ベッドの上で仰向けになった。眠くて、意識がもうろうとしかけた時、神崎のあの、優しい眼差しが、脳裏をかすめた。
……いいのだろうか?
このまま、何も言わずに別れを告げても。
手紙をお互いの机の中に入れ、密かに会話していた日々。
初めて、二人っきりで話した日。
図書室で、オススメの本を紹介してくれた、あの日。
思い出してみると、神崎とは短い間でも様々な思い出が出来た。
「山内さん」
そう、優しく呼ぶ声。
私は、神崎の声が好きだった。
「神崎さんって、笑顔可愛いんだね」
私の気持ちなんてお構いなしに、そんな恥ずかしいことを言って笑う、神崎の顔が好きだった。
もう一度、あの声で私を呼んでほしい。
もう一度、話がしたい。
もう一度、会いたい――
気が付けば、シーツに染みが出来るほど、涙をあふれさせている自分がいた。
どうしたんだろう。私。
最初から、分かっていたはずなのに。
私には、時間がないことを。
「あれ、また、諦め切れていない自分がいる……おかしいなあ?」
そうやって、自分で自分に笑う。
私は、我儘になったのかもしれない。今まで、与えられたものだけで満足していた。むしろ、欲求が出てくる理由が分からなかった。
なのに今、こんなにも神崎の顔が浮かんでくるんだ。
いつからこんなに我儘になったのだろう?
そう問いただしてみても、答えは見つからない。
ただ、これだけだった。
……あなたに、会いたい。
そして、さよならを言いたいと思った。
外は音もなく雪が降り続けている。私もそろそろ、音もなく眠ってしまうのだろう。
もう制限時間はないんだ、と感じた。
読んでくださりありがとうございます。次回、14日20時投稿予定です。ちなみに最終回となります。視点が山内から神崎へと変わります。




