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辛口令嬢は辺境で花開く〜妹に婚約者を奪われ追いやられたので無口で不器用な伯爵と子育てをはじめますからお好きにどうぞ〜  作者: リーシャ


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17/17

17案外悪くない家族との人生を過ごせそうである

 店の中を見渡すと彼の視線が、棚に並べられた小さな手のひらサイズのハープの飾り物に留まる。


「これを」


 ディートリッヒが告げると店主が飾り物のハープを包んでくれた。幼い頃に母が弾いていたハープを思い出させるものなのだろう。心の中の大切な記憶の欠片。


「ご趣味が良いこと。可愛らしいものを選ぶなんて、あなたにも意外な一面があるのね」


 何も言わない。店を出ると馬車に戻る。ルカスは買ったばかりの馬の人形を抱きしめ、嬉しそうにディートリッヒに話しかけていた。

 ディートリッヒもそんなルカスに静かに耳を傾けている。二人の様子を眺めながら、心の中でじ幸せが広がっていく。


 幸福という塊。王都での夜会は心を大きく揺さぶったけれど、そこで改めて知ったのはディートリッヒ、ルカスがかけがえのない家族であるということ。

 ヴァルター伯爵領こそが皆とって、本当に帰るべき場所なのだということだった。馬車は故郷へと向かって進んでいく。今回の参加は参加してよかった。


 王都から戻ってきて数日。城には以前にも増して穏やかな空気が流れていた。風がサラサラしている

 ルカスは買ってきた木製の馬の人形を肌身離さず持ち歩き、時折ディートリッヒに、人形を嬉しそうに見せている。楽しそうでなにより。


 ディートリッヒも執務の合間にその人形をじっと見つめたり、ルカスがそれを使って遊ぶ様子を父親の眼差しで眺めたりするようになった。

 自身の毒舌は相変わらずだけれど、ディートリッヒはもう完全に慣れてしまったようだ。ああ、つまらない。


 何か言っても頷いたり、あるいは微かに笑みを浮かべたりするだけ。変化に自身が一番驚いている。

 ある日の夕食時、食卓には領地で採れたばかりの新鮮な野菜や肉料理が並べられていた。ルカスは楽しそうに今日の出来事を話している。


「父上! 今日、庭で大きなカブトムシを見つけました!」


「ほう」


 ディートリッヒは短く答えるが、ルカスの話にじっと耳を傾けている。眼差しは以前のような冷え冷えとした冷たさはなく、明らかに子の父親としての温かさを帯びていた。


「昆虫の話に耳を傾けるなんて。よほど退屈しているのかしらね」


 ディートリッヒはちらりと見た。親しみが混じったような笑みが浮かんでいる。なんだか、ムッとした。


「ルカスが楽しそうに話している」


 出た言葉はそれだけだったけれど、その一言に彼のルカスへの深い愛情が滲み出ているように感じられた。その時、メイドが慌てた様子で食卓にやってくる。


「伯爵様、フロラティア様。城の北門に、旅の商人が来ております。珍しい品を多数持っているとのことで、門番が確認を求めております」


 旅の商人。辺境の地では珍しい。赤字になるような気がするのに。


「この時期に旅の商人とは。一体どんな珍しい品を持ってきているの。がらくたばかりなんてことはないでしょうけれど」


 ディートリッヒもゆっくり頷く。


「私が確認してくる。ルカスはフロラティアとここにいろ」


 ディートリッヒが席を立とうとすると、ルカスが不安そうにディートリッヒの服の裾を掴んだ。


「父上、大丈夫ですか?」


「心配ない。すぐに戻る」


 ディートリッヒはルカスの頭を優しく撫でると執務室へと向かった。


 その日の夜。城はいつもより少しだけ賑やかだった。旅の商人が持ってきた珍しい品々を使用人たちが興味深そうに眺めている。

 いくつか品物を見せてもらったが、どれも中央では見られないような異国の香りがする品ばかり。

 自室に戻り、就寝の準備をしていると再び扉がノックされた。ディートリッヒだ。


「ごきげんよう、ディートリッヒ伯爵。お土産でも持ってきてくれたのかしら? 私の趣味に合うものなんて、ないと思うけれど」


 いつものように言うと、ディートリッヒは何も言わない。ただ、手に持っていた木製の箱を差し出してくる。びっくりした。


「これだ」


 箱の中には手のひらサイズの小さなオルゴールが入っていた。蓋を開けると繊細な音色が響き渡る。どこか懐かしく優しいメロディ。


「意外な一面ね」


 オルゴールを受け取るとディートリッヒ は頷くだけ。ささやかな贈り物への愛情が宿っているように見えた。


「……眠れぬ夜に聞くといい」


 ディートリッヒの言葉に、夜に一人でお酒を飲んでいることを知っているのかもしれないと知る。案じて、オルゴールを選んでくれたのか。

 ディートリッヒの優しい心遣いに言葉を失う。毒舌もこの時ばかりは影を潜める。


「……ありがとう」


 素直な感謝の言葉を口にするとディートリッヒの瞳が、より一層優しい光を放つ。


「ああ」


 夜の帳が降りる中、城の中にはオルゴールの優しい音色が響き渡っていた。頬が勝手に熟れる。手をぱたぱたさせて熱を冷ます。

 辺境の地でルカスの純粋な心が、ディートリッヒの心をゆっくりと溶かしていった。

 三人はかけがえのない家族として、家族の愛を深め続けている。少しずつ少しずつ。屋敷に流れる心地よさ。


 どんなメロディよりも、美しく温かい音色を奏でていた。

最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。この家族は書いていて楽しかったです

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― 新着の感想 ―
完結お疲れ様でした。 不器用な2人が、純粋な心と明るい笑顔のルカスを中心にして、ゆっくりゆっくりと家族になっていくお話、素敵な終わり方で心が暖かくなりました。
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