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『煙』9.夜を背負う

9.夜を背負う


俺はDから報告を受けた後に現場に部下を向かわせる。

程なくして、現場には誰もいなかったこと、大量の切られた蔦が落ちていたという報告を聞いた。

ショウエンがかけた魔法を解くには、外から断ち切らなければ無理だと本人が言っていた。

更に仲間がいたようだ。

俺は送られてきた人物のデータと、組織の人物データベースを参照する。

窃盗の前科付きの市民、住んでいるのはダウンタウンで、ナイトクラブで働いている。

同じく婦女暴行の前科を持つ男、住んでいるのは同じくダウンタウン、こちらは洋服販売店の非正規従業員。

その他、アウトサイダーとも言える柄の悪い連中ばかりだ。

何かの組織に所属しているわけではないが、気になるのは彼らの行動範囲だ。

住んでいるダウンタウンは、ショウエンが襲われた場所からは随分離れている。

犯罪を犯すために、わざわざ離れた場所に行ったのだろうか。

それならば一層、違う街に行けばよいものを。

「C。今からH地区のナイトクラブに行く。準備をしてくれ。」

傍らにいた腹心の一人に指示を出す。

襲った連中の一人が勤めているナイトクラブに行くことにした。

少しだけ、気になることがあるのだから。



彼女は、この都市の有名な高級娼婦だった。

父の目に留まり、妾になり、そして俺が生まれた。

彼女は、かわいそうな人だった。

父の気まぐれで愛され、つなぎ止めるために俺を生んだ。

正妻の地位も狙っていたのだろう。

だけど父は態度を変えなかった。

気まぐれに呼び、気まぐれに愛す。

彼女の想いが叶うことはなかった。

彼女が死んで、彼女の持ち物は、俺のものになった。

服、宝石、化粧品、そしてコネクション…俺は時々それを、使う。


例の男達が屯するナイトクラブは母の同業者が開いたものだった。

俺はそこの経営者に連絡し、探りを入れることにした。

そして自身もそこに行くことにした。

母の服を着て……。

「あの女、だれだ?」

激しいダンスミュージックが流れる薄暗い店内。

その一角のボックス席でフロアを物色していた男が、一人の女を見つける。

黒い髪の毛の、赤い服いノースリーブのカットソーに黒いエナメル質のパンツ。

大きなアクセサリーで着飾った派手な女だ。

首もとにはスカーフを巻いている。

「今日はじめて来られた方ですね。人を待っている、とおっしゃっていました。」

派手な外見から男はその女を商売女だと判断した。

「ちょっと引っ掻けてくる」

「やめとけよ、ヤクザの女だったら、お前死ぬぜ。」

「しかも今日喧嘩に負けたんだろ?これ以上無理はやめとけよ」

男の仲間が揶揄するのもかまわず、女に近づいていく。

そう、命令でジュニアハイの女を襲ったのだが、気が付いたら宙に浮いていたのだ。

暫くしてアイツが助けに来たから良かったが、もしあのままだったら警察にしょっぴかれていただろう。

臭い飯は二度とごめんだ。

「ん?アナタ、私にナニか用?」

タバコを吹かそうとしていた女が男に気づく。

「一人でこんなところにきて、寂しいんじゃないかと思ってな。」

「人を待ってただけど、まだ姿が見えないのよ。そうしたら遅れるって連絡が来たの。」

女が携帯端末を弄る。

そして連絡が分かるようにとカウンターの上に置いた。

「そんな待たせるやつなんて放っておいて、俺たちと遊ぼうぜ。」

下卑た笑みを浮かべる。しかし女は男が示した方を見て、口の端を上げる。

「なんだか、男前が多いのね。アナタも怪我しているし。」

女がそう言えば男は顔をあからさまに歪める。

「ちょっとな、今日あったんだよ。」

「喧嘩?嫌だわ暴力なんて。」

「違うさ、ちょっと調子に乗っている奴がいるから懲らしめてほしいって、頼まれてよ。そしたら、いつの間にかな。」

「その頼んだ人が自分で凝らしめたら良いのに、なんで人にやらせるのかしら意気地がないわね。」

「本当だぜ!どっかの社長の息子かなんだか知らねえけど、偉そうにしてよ。女とみれば誰でも口説くし、…名前もムカつくんだぜ。『ロメオ(色男)』なんてな!」

女は心底同情するといった表情を浮かべる。

「可愛そうに。そんなやつギャフンと言わせたら良いのに。」

「…正直、あいつのバックは堅気じゃねえんだ。片足裏社会に突っ込んでる俺の勘だけどな。だから誰も手を出さねえんだ…それに、金も貰っているしよ。」

男は酒をあおる。

「…んで、あんたの相手ってのは何時来るんだ?」

「さあ、いつかしら…」

女は携帯を鞄に仕舞い込んだ。

すると入り口から一人の男が早足でこちらに来る。

バイザー型の眼鏡を掛け、この場に相応しくないスーツ姿だ。

「お嬢様。行きますよ。」

「見つかっちゃったわ。じゃあね、私は行くわ。アナタとアナタのお友だちの分は私が払っておくわ。」

そういって女は男の追撃を許さずその場を去った。




「収穫はありましたか?」

「ロメオという名前を探れ。至急な。」

俺はスカーフと、その下の声帯変換装置を引き剥がす。

被っていた鬘

そして録音しておいた音声データを再度再生する。

はっきりと、『ロメオ』と言っている。

俺は回線でDを呼び出した。

『お呼びですか?』

三コールで出る。

「ショウエンの回りでロメオという男が居ないか探ってくれ。あと、彼女の様子はどうだ。」

『落ち着いて眠っています。』

「そうか。…明日から暫く、車でショウエンの送迎をしてくれ。念のためな。」

『わかりました。他には、なにか。』

「何も。何かわかったら連絡をしてくれ。」

『了解。』

通信が途切れると同時にコールがかかる。

室内モニタに出力すると、そこには銀髪が。

「珍しいね、君が直接僕に連絡をくれるなんて。」

『さっきの件だが。早めに知らせておいた方が良いと判断した。』

「ショウエンが関わると、君は珍しい行動ばかりとるね。」

『さっきのロメオという男だが』

何事もなかったように俺の言葉を無視する。

まあ、茶化しただけだし深い意味はないから別段構わないのだけど。

『アドラー・ロメオ、57歳。不動産会社の社長だ。会社の規模は中程度だが、最近になって国外の会社に土地を売ったりして財を成している。ま、色々不正はしているようだ。…叩けば埃は出てきそうではあるが、ショウエンを襲うとは思えない。接点がないからね。』

モニターに写されたのは肥った体躯の男だ。

さっきの男が若いと言っていたので別人だろう。

「この男に息子は?」

『娘が二人。だけだな。しかし愛人がいるようだから、隠し子はいる可能性はある。もうすこし探すよ。』

本当にショウエンの事になると人が変わる。

もしかして好意を持っているのかもしれない、とは思ったがどうやら違うらしい。

どちらかといえば、妹を見るような感覚だと言っていたような気がする。

「ありがとう。ディル。」

俺は通信を切断し、タバコをくわえる。

「ショウエン、若い男、ロメオ、不動産、国外」

何かが、頭の中を巡る。何かが繋がりそうで繋がらない。

俺は煙を吐き出した。

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