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静かなる想い  作者: 華南
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静かなる想い その11

静かなる想い その11




「結局本心では語り合えなかったか…」


忍と話した後、俺は輝のマンションに赴き、また静かに酒を酌み交わしていた。


忍との顛末に輝は目を閉じ深く息をついた。


「いや、そうでも無いよ。

俺は…、忍の言葉に動揺した。」


「…」


「ただ頷くしか出来なかった。

普段ならどんな状況であろうと、忍の前では表情を変える事は無かった。


だが今回は感情が先走ってしまった。


自分でも驚いているよ。

初めてだ。」


「…で、今の心境はどうなんだ、豪。」


俺の言葉を聞いた輝が意地悪な質問をする。


本当にこいつには敵わない。


全くと言って良い程、俺は回りに恵まれている。


「お前は本当に性格がいいな、輝…。


今は時間が全てを解決するとしか言葉が出ない。


これが正直な感想だ。


忍がやっと前に進み、夏流との恋を実らせる。


夏流の幸せな笑顔を見つめる事が出来る。


とても喜ばしいし、願っていた事だ。


だが、これが人間の性と言うモノだろうか…?


喜ぶ想いと同時に、恋を実らす忍への嫉妬心が心を燻らせる。


俺はそこまで綺麗ごとを言える人間ではなかった。


これが今の俺なんだ…」


ばつが悪くなった俺は輝の視線を外し、手元にあったブランデーを一気に飲み干し、言葉を濁した。


そんな俺を輝は苦笑を漏らし、そして深く微笑んだ。


とても嬉しそうに。


「それでいいじゃないか。


完璧に装う「坂下豪」より、俺は今のお前の方がよっぽど、いい。


これでお前が忍君に祝辞の言葉を述べ、笑顔で見送ったと言葉を続けていたら、俺はお前を殴っていた。


もっと素直になれ、本心を出せと、俺はお前に諭していたよ、豪。」


「輝…、本当にお前ってやつは。」


「ふ…」


「想いが心の中で消える事は、一生ない。


だが今よりももっと、優しい思い出として俺の心の中に留まるのではないかと、そう思える自分も存在するんだ…。


時間が解決する事もあるだろう…。


輝…。


俺は本当にいい恋をした。


それだけは言える…!」


「豪。」


「忍の本心も垣間見る事が出来たし、俺としてはかなり上出来だと思っている。


まあ、いい大人がこうであっていいのだろうか?


ふふふ、全くお笑いぐさだ。」


「それでも幸せそうだよ、お前は。


豪…。


今のお前はただの「坂下豪」だ。


そして、これからもだろう…?」


輝の言葉に俺は曖昧に微笑んだ。


何かが変わったのかは正直解らない。


ただ…。


俺はこれからもこういう生き方をするんだろう。


だけどそれを、以前の様に捉えてないのが気持ちの変化であろうか?


忍が前に進む。


そして俺も、忍に捕われていた感情がやっと解放されそうだ。


夏流との未来が始まった忍を見送りながら、俺も俺が行くべき道にそのまま進む。


その先が決まっているとは、今はそう思えない。


「坂下豪」として生まれ、始まった人生。


だがこれも最後迄そうかと言うのが、断定してる事ではあるまい?


そうだろう…?


くつくつと笑う俺を見て、輝はこれ迄に無い程優しい表情で俺を見つめた。


そしてこう俺に言った。


「これからの人生、お前がどう転ぶか見るのがとても楽しみになったよ。」


輝の言葉に意味を知った俺は、壮大に顔を顰めた。


一言、嫌みを言いたいが今回は俺の方が分が悪い。


何時か倍返しにしてやる、と心の中で舌打ちしながらぽそりと、呟く。


「お前というやつは…」


俺の言葉が聞こえたのか、輝は爽快に笑った。




その後、忍は夏流と再会を果たし数ヶ月後に結婚した…。




月日はいつの間にか経つモノだとつくづく思う。


忍と夏流との間に子供が3人生まれたが、一人娘の志津流に何故か熱烈なアプローチを送られている。


子供の戯れ言だと思い、何時か熱病も醒めるだろうと思いながらここ何年相手にしていたが、

16歳を迎えた日に目の前に婚姻届を突きつけられた時には流石に、笑う事が出来なかった。


美樹が癌で5年前に亡くなり、確かに今の俺は再婚は出来る。


しかし…。


困惑する俺を真剣な眼差しで見つめ、そしてこう告白した。


「私は貴方に出会う為に生まれたと思っています。


貴方が好きです。


貴方が私のママに向ける眼差しを、私が望む事はいけない事でしょうか…?」


志津流の最後の言葉に、俺は言葉を失った。


知っていたというのか、この少女は。


俺の夏流への想いを…。


答える事の出来ない俺に志津流は更に言葉を続けた。


「私がこれからの貴方の全てを見つめて生きたいんです!

貴方の優しさも、心の強さも、孤独も、そして哀しみも全部私が受け止めたい…。


豪伯父様。

貴方を愛しています。」


目の前にいる少女は既に俺が知っている少女ではなかった。


一人の女として俺に愛を捧げている。


これからの人生、どう転ぶか見るのが楽しみだよ…。


ふと、あの時の輝の言葉が頭を過った。


今、俺にその転機が訪れたという事だろうか…?


輝の言葉を思いだしながら苦笑を漏らす俺を、志津流は虚をつかれた眼で見つめる。


そんな志津流に視線を落とし、俺はこう言葉を紡いだ。


「では、私を落としてみなさい、志津流…。」


俺の言葉に零れんばかりの笑顔を浮かべる。


その笑顔に俺は軽い既視感に陥った。


ああ、夏流と同じく、なんて綺麗な笑顔なんだ…!


胸の奥底が熱くなっているのが解る。


この想いが何を伝えているのかは今は解らない。


だが何時か、この想いが確かなモノへと変化する日が訪れるかもしれない。


その日がもし訪れたら、俺は逸らす事無く。




静かに想いを受け止めて共に生きて行こう…。

この作品にお付き合いして下さり、有り難うございました。

お気に入り、評価を下さった方々にこの場にてお礼を申し上げます。

とても嬉しかったです。

有り難うございました。


追記として、この作品の連作になるお話を「ムーン」様でアップしています(苦笑)


華南

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