第22話 トール商会組織改革
(時は2022年1月に遡る)
アメリカから帰国した僕たちはトール商会の組織改革を行った。
もちろん、未来予知さんの全面監修のもとでだ。
・代表取締役社長 トール
・取締役副社長 ユメ
今まではこの二人しかいなかった。
・コーポレート事業部
これから事業を拡大するにあたり、総務・経理等の業務が増加する。
人材会社を通じて、数名を採用した。
・コア事業投資部
部長 駐在員さん改め山田さん。M証券からの出向だ。その他に数名。
この部がトール商会の中核となる。
そもそもの話になるが、トール商会はエンジェル投資家としてベンチャー企業等に資金提供を行ない、そのリターンを収益の柱にしようと考えている。
まあ、神に与えられた使命を実行しようとしているのだ。エンジェル(天使)を名乗っても不敬にはならないであろう。
コア事業投資部は、銀行・証券会社筋からの情報を中心に投資を求めているベンチャー企業などの情報を収集し、投資に値する企業を選別して、投資条件を先方と協議するのが、それが表向きの事業内容だ。表向きには。
実際のところは、投資先選別ならびに投資条件の決定は、未来予知さんに行ってもらっている。従って、コア事業投資部の主な役割は、投資を求めている企業等の情報収集が主な業務となる。
・クールジャパン事業投資部
部長 青山さん。
投資案件のうち、日本のゲーム・アニメさらにはエンタメに関するものに特化した部だ。
ここの部長を広く募集したところ、100名を超す応募があったが、未来予知さんが全て却下。未来予知さんが選んだのは、コア事業投資部を希望して応募してきた青山さんであった。
青山さんと面談すると、ゲーム・アニメ・エンタメにはまったく興味がなく、知識が皆無であるとのこと。
酒好きの人は酒屋をやってはいけないというが、この業界にも似たようなところがあるのだろうか。
・技術部
部長 ユメ。
この部を設立したのは、アーロンの野郎---もとい、マスクド氏の影響だ。
マスクド氏は、航空宇宙工学を正式に学んだロケット技術者ではないにもかかわらず、Space Z社のチーフエンジニアとして、ロケット・宇宙船の技術開発を強力に統括している。
そうであるならば、『頭脳明晰』スキルを持つユメは、ベンチャー企業に対して技術面でのアドバイスができるのではないかと考え、この部を設立した。
・経営改善部
部長 原さん。
ベンチャー企業のみならず、日本の中小零細企業は、技術力は高いものの、経営能力や営業能力に大きな課題を抱えているため、その技術力が生かされないケースも少なくない。
エンジェル投資を行なった企業等に対し、経営改善部が経営・営業等のバックアップを行い、その技術力をフルに発揮できるよう指導するのが役割だ。
ところで---
「原さん、ハラン少将だよね」
「ん、次長の高田さんはタカード大佐。でもおにいちゃんの愛人さんだったコイアムちゃんはいない。残念」
全然残念じゃないさ、今の僕にはユメしかいない。ユメしか見えないと言っても過言ではない。愛しているよ、ユメ。
「あん♡」
いかんいかん、そんなことをしている場合ではない。
とにかく、これからのハラン・タカードコンビ改め原・高田コンビに期待したい。
さて、トール商会には重大な問題がある。
資金が不足しているのだ。金がないのだ。
あんなことがあったから、Space Zへの出資案件は立ち消えになるかと思ったが、何の問題も無く100億ドルの投資は実施された。
アーロンの野郎、絶対何か企んでいるな。
このため、108億ドルあった純資産のうち、手元に残るのはたったの8億ドルとなってしまった。
---まあ、920億円を「たった」というのは、感覚がバグってしまったとしか言いようがないのだが。
未来予知さんのアドバイスもあり、僕たちは資金を借り入れることとした。
事あるごとに、資金を借りろレバレッジをきかせろと言っているM証券の担当者さんと系列のM銀行の担当者さんと打ち合わせ。
「このたび、事業拡大を考えています。ついては、少々資金が不足しているので、貴行から借入れをしたいと考えています」
「おお、やっと決心していただけましたか。当行は、トールさんであれば、いくらでも融資させていただきます。それで、融資額はいくらをお考えですか」
「50億ドル(5,750億円)。無担保で」
「---Space Zの株式を担保に入れていただくわけには」
「だめです。あと、返済計画書を作成するつもりもありません。迅速かつ柔軟性をもって投資を行なうための資金とするので」
「M証券さん、貴社が債務保証をするというのは---」
「私の一存ではどうにも。持ち帰って上司に相談しますが、かなりハードルが高いと思います」
「---大変申し訳ありません。持ち帰って社内で検討させていただきますが、ご要望に沿えるかどうか---」
「無理を言って申し訳ありませんが、なるべく早めのご返答をお願いします。場合によっては外資系の銀行に声をかけさせていただく必要が生じますので。
あ、その際には証券取引口座が変更となる可能性もありますので、あらかじめご承知おきください」
うわ~、自分で言っておいて何だが、すごく嫌な奴だよな。こういう言い方をする奴って。
後日、銀行と証券会社の担当者さんが提示した借入金額は、15億ドル(1,725億円)。うち10億ドルについて証券会社が連帯保証人になるとのこと。
二人の担当者さんは、この金額が出せる範囲の上限です、お願いですからこれで勘弁してください、と平身低頭。
なんだよ、金を借りろと言っておいて、これしか貸してくれないのかよ、しょうがねえなあ、これで勘弁してやるか。
あれ、なぜお金を借りるのに、こんなに偉そうにしているんだろう?
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トール商会組織改革を実施してから1年後の2023年1月。
この一年間の活動概要は以下のとおりであった。
・コア事業投資部
駐在員さん改め山田さんが投資可能先を調査、未来予知さんが投資すべき先を選定にしてもらう。
基本的には、その事業の10%の権利をトール商会が得るというスキームとしたが、例外的に過半数の権利をえるという事業もある。
当初は、銀行筋からの情報に頼りがちであったが、ベンチャー企業を立ち上げていくうちに、「トール商会は投資先を求めている」という噂が各方面に広がり、
企業・研究機関からの売り込みが多くくるようになった。
この部の年間投資額は、おおよそ100億円。このうち最大の投資先は、ミヤンマー海上石油鉱区取得の30億円。M商事の紹介案件であり、石油メジャーのS石油50%、M商事25%、トール商会25%のjvとした。このミヤンマー案件では、最終的に1000億円の投資が見込まれている。
・クールジャパン事業投資部
基本的にはコア事業投資部と同様のスキームだが、資本参加は行なわずに当該事業の売上高または利益の○%をリターンとして得ることとしている。
投資先例としては、とあるゲームソフト作成に対して○円を投資する。あるいは、とあるマニメ制作に対して○円を投資するというもの。
また、とある地下アイドルグループがメジャーデビューをする際に○円を投資する、という変わり種もある。
当初、部長の青木さんは投資可能先の調査に苦慮していたが、コア事業投資部と同様に業界内でトール商会の投資が広まったことにより、格段に投資可能先が増加することとなった。
この部の年間投資額は20億円。1億円未満の投資が多いことが、コア事業投資部との違いである。
・技術部
今回の組織改革で一番のヒットがこの技術部設立であろう。
コア事業部投資先の技術開発事業について、開発状況の確認と称してユメが研究所に出向き研究員たちにヒアリングを行なう。
このヒアリングの中で、「今後の方向性」について、複数の選択肢を提示してもらうのだ。
事務所にいる僕が、それをチャットで受け取り未来予知さんに相談、未来予知さんが選んだものをチャットで返信し、それをさらに深掘りするのだ。
当初は、素人が何を言っているんだという雰囲気であったが、そのうちにユメが選んだ(と思っている)方法が正解に近いと知った研究員たちは、喜んでヒアリングを受けるようになり、ついには技術的にデットロック状態になった際に、ユメにお出ましを願うほどになった。
これにより、複数事業の技術開発が飛躍的に進展するようになり、研究員たちの間で、ユメは「女神」「聖女」と称されるようになった。
ちなみに、技術部員の人員数は、部長のユメ一名のみである。
・経営改善部
コア事業部投資先のうち、主に中小零細企業への投資案件についての改善を実施している。
原さんが経営の問題点を摘出、解決策を策定しこれを提示する。
ほとんどの場合、こんなこと出来るか!と反発されるのだが、そこを高田さんが、まあまあそんなことをおっしゃらずに、一緒に出来ることからやっていきましょうとなだめすかしながら改善に取り組んでいく。
原さんが考え、高田さんが実行するという以前の方式をこの世界でも行なうことになった。
問題なのが、僕とユメがつい昔のクセで原さんと高田さんを少将・大佐と呼んでしまうことだ。
あまりにも頻繁に呼んでいたため、ついには原さんが「もういいですよ、少将で」と言ったため、両名の社内での呼称は少将・大佐として定着した。
上記のとおりエンジェル投資(含むミヤンマー案件)をした額は120億円。トール商会の手元資金は借入金を含めて2,760億円、差し引き2,640億円が余剰資金となる。
この資金については、コア事業投資部のメンバーに運用を委ねている。
いや、委ねていると言っていいのだろうか。委託方法は、未来予知さんから指示された銘柄・期間・株価をメンバーに指示する、すなわち、「A社株価を10月2日までに1000円以下が購入して」という指示をメンバーにする。当然ながら一度に大量の買いをすると株価が跳ね上がってしまうので、メンバーは細かく売買を繰り返し、指定された株価以下で可能な限り多くの株式を購入する。なお、売りを行なう際も同様。
さすがは、証券会社からの出向者たち。嬉々としてこの業務に取り組み、着実に成果を上げている。
この運用による本年度の純利益は、約1,000億円を見込んでいる。
なお、部長の山田さんもこの売買に関わろうとしたのだが、僕とユメとで「あなたの業務は投資先を見つけることです。トレードをしている時間はないはずです」という主旨の話をしたところ、山田さんは「わかりました」と言ってくれた。
ちなみに、その話をしたところ、山田さんは心なしか顔色が悪くなり汗を大量にかいていた。
なぜだろう?
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2022年2月24日
ロシア軍 ウクライナ侵攻
神から与えられた「国際紛争の鎮静化」という使命に対して僕たちはあまりにも無力であった。
大変申し訳ありませんが、本作品についてはしばらくの間、休止とさせていただきます。
1年後くらいには再開したいと考えております。
そのころには、ロシア・ウクライナ戦争ならびにアメリカ・イラン戦争が終結していることを期待しています。




