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01:ここは熱帯らしい

毎日7時更新。全6話です。

この作品はオムニバス形式、シリーズで公開中の2作品目です。

よろしくお願いします。

 夜明け前の微睡の中。土の匂いと水の香り、そしてどこか懐かしさをおぼえる草の香りがする。ザラりと固い感触が残る寝所の上に私は横たわっていた。転生したか。


 周囲はまだ暗く、何が置いてあるのかはっきりとは見えない。身体の上には粗末な布が1枚掛けられていた。どうやら今世はハズレだな。


 身体を起こして注意深く辺りを見回してみた。そろそろ暗闇に目が慣れてくる頃だろう。

視線の先には竹を割いたようなすだれがかかっていた。身体の下に敷かれているものは――ああ、これか、香りの正体は。薄い織布の下に2枚重ねられていたのはパンタンリーフを編んだ敷物だった。ここが熱帯地域であることはわかった。


 周囲に人の気配はあるものの、誰ひとりとしてまだ起きる気配はない。さて、どうしようか。

この家に鏡があるようには思えぬ。先程から水の香りは強く感じている。探すなら水辺か。私はそろりと起き上がると、すだれの向こうへと足を進めた。


 まず初めに自分の衣服を確認する。腰には1枚布が巻きつけてある。さほど乱れてはいない。随分と寝相のよい人物のようだ。私は軽く布を整えた。上着代わりにも同じ布が1枚。それをいつぞやの時代に覚えたように巻き直す。随分と暗い色だ。寡婦なのだろうか。いや決めつけるにはまだ早い。弔いに暗色を用いる時代とは限らぬ。


 入り口近くに下げられたすだれの奥で寝返りを打つ音がした。どうやらこの身体は、同居人らより早く起きる習慣があるらしい。私は構わず外へと向かった。


――ドサり。


 床から地面へ転がり落ちた。痛い。そうか、高床式だったか。油断した。ヒリリと痛む膝をこすりながら、直前まで立っていたはずの場所を見上げる。誰かが動く気配はなかった。気がつかれずに済んだようだ。


 辺りはうっすらと白みを帯び始めていた。遠くの空が淡くオレンジ色に色づきだす。――美しいな。

と、同時に文明が未発達なように見えることにも気がついた。今しがた見上げた我が家とおぼしき住居も大変簡素な造りで、熱帯であることを差し引いても、かなり古い時代だと予想させるに充分だった。若しくは余程の辺境か?

 地面はしっかりと乾いている。草木は生い茂っているものの、高木はあまり元気がないように見える。乾季の始まり頃、だろうか。早朝なことも相まって、少し肌寒くすら感じる。


 今世が何者であるかを知るためには顔を、特に瞳を確認することが必要だ。転生後真っ先に鏡を探すのはそれが理由だ。直前の前世はよかった。自室の中に立派な鏡があったからな。ああいう幸運は滅多にない。今の状況を見れば、それがよくわかるだろう。


 己の鼻を頼りに水辺を目指した。随分と鼻が利く人物だな。考えてみれば水の匂いを感じ取ることなど今までそうそうなかったように思う。一本道を少し歩いたところで細い川が流れる場所にたどり着いた。両膝をつき、ずいっと川を覗き込む。バサりと長い髪が水に落ちた。ゆらゆらと川の中を毛先が泳いでいる。またうっかりしていた。転生したてとはいえ、どうにもうっかりが過ぎる。そしてやけに不自然な色の髪だ。それを考えるのは後にしよう。私は両手で濡れた髪を絞ってから片手で束ねて再び川を覗いた。


 澄んだ川ではあるが所詮は川だ。よくは見えなかった。しかしこれで充分だ。私はこれから生きることとなる人物を正確に理解したよ。


 今世の名はサリ、通称[ラニを継ぐサリ]と呼ばれる女だ。場所と時代はわからぬ。サリが知らぬ情報は得られぬからな。そしてひとつ訂正しよう。ハズレではなかった。


大ハズレだ。

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