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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第十三章 黒幕
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盲巫女の降臨

 先々代姫巫女が生み出した異空間が消滅した。

 俺たちは元いた場所に戻っていた。


「お前は何者だ?どこから現れた?」


 アンジェさんの姿をした黒幕が声を上げた。

 律儀に待っていてくれたのか、その場に留まっていた。


「私はプリム。次代の盲巫女です」

「嘘をつくな!先ほどとはまったく違う姿ではないか」


 黒幕は反論する。

 確かに先ほどのプリムさんとは異なる姿をしている。

 エルフのような尖った耳、そして光を通さない青白く濁った瞳。

 そして、盲巫女が持つ天の魔力。

 それを翼の形に具現化したものが背中に生えている。


「それにお前は聖の魔力を持たなかったはず。

 どうして盲巫女の儀式を行えた」

「それは私の中に聖の魔力があるからですよ」


 その言葉に黒幕はハッとして辺りを見渡した。

 そこでようやく俺がいないことに気づく。


「男の方はどこへいった!」

「あなたも仮初の盲巫女の力が使えるのでしょう。

 自身の眼で確かめてみたらどうですか?」


 盲巫女の眼は魂を見ることができる。


「お前の中に魂が二つあるだと……。

 プリムのものと、あの男のもの。

 どういうことだ!」

「今の私は二人が合体した姿。

 彼の魔力は私とリンクしています」


 今俺とプリムさんは魔力を共有している。

 そしてそれによりわかったことがある。

 プリムさんは聖の魔力をもっていないわけではなかった。

 何らかの力で封じ込められていたのだ。

 俺とリンクしたことで封印が解かれ、膨大な聖の魔力は盲巫女の儀を経て天の魔力へ昇華される。


「この膨大な魔力……。

 それに合体だと。

 ありえない、そんなバカな話があるか」


 心底信じられないといった顔をしている。

 それでも黒幕はなんとか表情を取り繕う。


「だが、それだけの力だ。

 制御がうまくできないはず」


 黒幕は両手を使って聖の魔力と忌の魔力の球を作り出す。

 そして、その球をこちらへと放ってきた。

 小さいように見えるが、極限まで圧縮された強烈な魔法。

 俺たちの身体に着弾する。

 後方に流れた勢いが壁に当たり、壁は粒子状に粉砕された。


「どうだ!この攻撃を受けて無事には済まないはず」


 土煙が上がる。

 そして、その土煙が上がった瞬間。


「なっ……!?無傷だと……!?」


 現れたのは傷一つない俺たちの姿。

 黒幕に勝ち誇った様子はもう見られない。

 ひたすらに愕然とした表情をしている。

 形勢は逆転した。

 ここから俺たちの反撃が始まろうとしていた。


-----------------------------------------------------------


 その頃地上では。


「陛下!約束の時間まであと一刻となりました」

「ああ、わかっている」


 いまだに尻尾を掴めていない。

 衛生兵も怪我人も特段怪しい動きは見られない。

 無事だった兵士たちもせっせと後片付けを行っている。


「本当に何一つ違和感がない」


 本来幻術使いはあえて違和感をたくさん生み出しておくことで、本命を隠蔽する手法を多く取る。

 それだけ完璧に誤魔化しきることは難しいからだ。

 どんな実力者であっても小さな綻びが生まれてしまう。

 そのくらい難しい魔法なのだ。

 だが、師匠は違和感一つ見せない。


「本当に兵士として紛れ込んでいるのか……」


 そう考えてしまうほどに違和感がない。

 おそらく私の目で違和感を見つけることはできそうもない。


「何か、何か策はないのか」


 思考を巡らせる。

 ふとその時、師匠を見つけた兵士のことを思い出した。


「おい、あの時の違和感を見つけた兵士はどこにいる?」

「あいつですか……あいつは見当たりませんね」


 どうやらここにいないらしい。

 どういうことだろうか。


「聞いた時はどこにいたんだ?」

「こちらにおりましたよ。

 ただ目が虚ろで、おかしな言動が多々見られたので、隔離されております」


 どうやら精神に問題がある者として扱われてしまったらしい。

 だが、部下の中で唯一師匠を見つけるに至ったその観察力には目を見張るものがある。

 どうしてもその力が今必要だった。


「すぐ連れてこい!」

「ですが彼は……」

「連れて来いと言ったのがわからないのか!」

「申し訳ございません!ただいま連れてまいります」


 部下は足早に走り去ってしまった。

 苛立ちを部下にぶつけてしまったことに自己嫌悪を覚える。

 国王としての未熟さを実感する。

 父上がおかしくなる前は何事にも動じなかったことを思い出す。


「後で詫びなければな」


 待つこと十数分、部下が連れてきた。

 その兵士は確かに視線が定まっていない。

 妙に浮ついたようにそわそわしている。

 念のため正体を確認する。

 この人物は師匠が化けた姿ではなさそうだ。


「お前に聞きたいことがある」

「なんでしょうか、陛下」


 意思疎通は取れるようだった。

 それに落ち着きがない以外は普通の兵士だった。


「兵士の中に化けた者が一人紛れ込んでいるのだが、何か違和感があった奴を見ていないか?」

「何を言っておりますか陛下。

 違和感だらけで、逆に違和感がない人を見つける方が難しい状況ですよ」


 思っていたことと正反対の返事が返ってきた。

 あの違和感が微塵も感じられない状況を違和感だらけだと言うのだ。


「何をもって違和感を覚えるのだ」

「その前にどういう状況なのか教えていただけますか。

 小生は隔離されてしまっており、何も分かっていないのです」


 全兵集合させろと言ったのに、この者を連れて来なかったのか。

 頭を抱えたが、過ぎたことはどうでも良かった。

 師匠との勝負について手短に説明をした。


「おそらく兵士の中に紛れ込んでいるということで、目の前にいる人物が自分の知る人物かどうか疑わしくなってますよね。

 それに自分の行動で疑われることがないように平静を装っていて、みんなの動きがぎこちないです」

「なるほどな」


 この兵士の言うことは的確だった。

 全員を集めてわざわざ説明したのだ。

 少なからず皆が動揺している。

 だがそれを違和感として感じ取れなかった。

 自分の視野の狭さを思い知る。


「他に何か気になる点はあるか?」

「無礼な言い回しになってしまいますが。

 陛下はこの勝負のルールを理解していませんよね」


 確かに無礼な発言だった。

 だが、そうまで言い切る根拠が知りたかった。


「ほう、そう思った理由は?」

「勝負についての肝心なところが説明に出てこなかったので。

 普通であれば真っ先に触れられるべき点であるはずです」


 多少端折った点もあるだろうが、おおよそは説明したはず。

 どこが足りないというのだろうか。


「その点について教えてもらうことはできないか」

「はい、まずはですね……」


 その説明については至極もっともな内容だった。

 兵士に紛れた師匠は、常に同じ兵士のままなのか、姿を変え続けているのか。

 兵士は隠れても良いのかどうか。

 それと認識改変魔法の私に対して使っていいのかどうか。

 重要な点にも関わらず何の取り決めもせず勝負を飲んでいたのだ。


「私の詰めの甘さが露呈したな」

「そう悲観しないでくださいませ陛下。

 逆に確認されなかったということは、有効活用してくる可能性が高いということでもあります」


 未熟さを嘆く私にフォローまで入れる。

 こんな優秀な人材が何故このような扱いを受けているのか疑問でしかなかった。


「お前は何者だ?

 何故そこまで頭が切れるのに雑兵なのだ」

「小生は元人間国軍師補佐でございます。

 ですが人員不足で慣れぬ戦地に送られましてね。

 この通り、負傷で後遺症が残ってしまいました」


 この者は傷痍軍人だった。

 この問題は国王として取り組まなければいけない課題だ。

 今回の信者の暴走にも繋がっている。


「貴重な意見感謝する」

「お役に立てたようで何よりです」


 他の兵士に連れられて歩いていく。

 その姿を見送った。

 新たな課題と、自身の視野の狭さを思い知る。

 勝負の終わりまであと半刻。

 それまでに見つけることができるのだろうか。

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