転生
「もし生まれ変わるなら――今度こそ、魔法を使える人間に……」
思えば、救いのない人生だった。
魔法至上主義の世界で、まともに魔法を使えない人間として生まれた。
その時点で、俺の人生は決まっていたのかもしれない。
親から愛されることはなく、学校へ通うことも許されなかった。
家を追い出された後も、行く先々で差別され、最低限の魔法すら使えない俺に働き口はない。
まともな食事にもありつけず、飢えを耐える日々。
そんなある日、俺たちのような浮浪者はまとめて徴集された。
戦争のために。
もちろん兵士としてではない。
魔法兵の盾――ただの肉壁としてだ。
仲間たちは次々と死んでいった。
弔われることもなく、朽ちるか、獣の餌になるだけ。
そして俺もまた、魔法の矢に胸を貫かれた。
急所は外れていた。
だからこそ、すぐに死ねなかった。
冷えていく身体。
流れ続ける血。
長い苦しみの末、薄れていく意識の中で、俺は願った。
――来世では、魔法を。
ここは……どこだ?
見渡す限り、真っ白な空間。
さっきまで感じていた痛みがない。
確か俺は、戦場で流れ弾に撃ち抜かれて――。
「いやあ、すまんかったのう」
不意に声をかけられた。
振り向くと、そこには老人が立っていた。
昔、拾った本で見た神様によく似た姿。
「……誰だ、じいさん」
「神じゃよ」
あまりにもあっさりした返答だった。
「お前さん、ずいぶん辛い人生を送ったじゃろ?」
「……なんで知ってる」
老人――神は、申し訳なさそうに答えた。
「実はのう。わしら神の間で人生ゲームという遊びが流行っておってな」
意味がわからないが、ただ嫌な予感がした。
「世界を選び、人を選び、あとはルーレット任せ。止まったマスに応じて人生が決まるんじゃ」
「……は?」
「おぬしは、わしのコマじゃった。ところが運が悪すぎてのう。見事にバッドイベントばかり引いてしまってな」
頭が真っ白になった。
つまり俺の人生は――。
「ふざけるな……!!」
声が勝手に漏れていた。
「どれだけ苦しんだと思ってる。親に愛されず、人として扱われず、孤独に死んだ俺の人生……! それがお前らのゲームのせいだったってか!?」
怒りで身体が震える。
だが神は、ただ静かに頭を下げた。
「本当にすまんかった。じゃから償いとして、おぬしには新しい人生を与えよう」
「……新しい人生?」
「次は、おぬしの望む力を持たせてやる」
怒りは消えない。
正直許したくもない。
それでも、あの地獄のような人生のまま終わるよりは、もう一度やり直せるなら。
「おぬしは、何を望む?」
神に問われる。
答えは、最初から決まっていた。
「――魔法が使いたい」
俺は転生した。
目を覚ますと、そこは死に場所となった魔物の森だった。
最初は異世界に転生したのかと思った。
だが違う。
ここは前世と同じ世界だ。
赤子として生まれ変わったわけでもない。
姿形もそのまま。
まるで死ぬ直前の俺が、そのまま蘇ったようだった。
――ただ一つを除いて。
「……魔法が、使える」
震える声で呟く。
そして、すぐに試した。
「分析魔法、《ステータス開示》!」
目の前に半透明の画面が現れる。
そこには、俺の能力が表示されていた。
基礎的なステータスは平均以下だった。
むしろ、下から数えた方が早いかもしれない。
「俺ってこんなに弱かったのか……」
知りたくなかった現実だった。
スキルは二つ。
一つ目は《魔法創造》
自分だけの魔法を生み出せるスキルだ。
ただし制約もある。
死者を蘇らせたり、神を殺すといったような、世界の理を超える魔法は作れない。
さらに、強力な魔法ほど厳しい制限が課されるらしい。
例えば、世界中の生物を支配するなんて規模の魔法は、おそらく実現不可能だろう。
そして最大の制約。
魔法を創造できるのは、ひと月に一つだけ。
今使った《ステータス開示》も、《魔法創造》によって生み出した魔法らしく、次に創造できるまでの残り時間が表示されていた。
前世にも分析魔法自体は存在した。
だが見られるのは能力値や属性程度。
スキルの詳細まで確認できる魔法ではなかったはずだ。
制約は無し。
強力な魔法ではないからだろう。
そして二つ目のスキル。
《魔力無限》
魔法を使うために必要な魔力。
言葉通りそれが無限に使える。
つまり、魔法が撃ち放題ということだ。
試しに俺は、近くにいたゴブリンへ《火球》を放った。
爆ぜる炎。
ゴブリンが悲鳴を上げて吹き飛ぶ。
「はは……」
自分が魔法を使えている。
それだけで、笑いが込み上げてきた。
もっと使いたい。
もっと、もっと。
だが使えたのは《火球》だけだった。
前世で独学していた初級魔法が、それしかなかったからだ。
どうやら、知識のない魔法は使えないらしい。
他の魔法を覚えるには、使い方を学ぶ必要がある。
本来なら魔法学校へ通うのが一番早い。
だが今の俺は既に通える年齢ではなく、そもそも素性の知れない人間を学校が受け入れるとも思えない。
となれば方法は二つ。
魔導書を買うか、誰かに教わるか。
幸い、火球だけでも簡単な依頼ならこなせるはずだ。
まずはギルドに登録し、金を稼ぐ。
そう決めた。
……もっとも、以前いた町へ戻るつもりはない。
あの場所には、仕事を求めた俺を嘲笑い、虐げた連中しかいない。
俺は森を抜け、新しい町を目指して歩き出した。




