01-08.将来の夢
「ゴロゴロにゃぁ~ん♪」
……あれ?
「はぁ~い♪ トントントン♪」
「ふにゃ~……」
くっ! そこはマズいにゃ!
「にゃぁ……」
「ふふふ♪ トロンとしちゃって可愛いですね♪」
待つにゃ……洒落にならんにゃ……。
「ふしゅ」
「おっと。危なかったですね♪」
くっ! やめどきも完璧にゃ!
「……ご苦労。気持ちよかった。感謝するにゃ」
「ニヨニヨ♪」
こんにゃろめ……。
「今日はここで寝るのかにゃ?」
「ええ。暫くは野宿生活です」
「町を避けるのかにゃ?」
「はい。すみません」
「もう謝るにゃ。次謝ったら承知しないにゃ」
「はい♪」
スフィアは何処からともなくテントを取り出した。
「収納魔法が使えるのかにゃ?」
「ご存知でしたか♪」
凄いにゃ。チートにゃ。
「私も欲しいにゃ」
「う~ん……」
無理そうにゃ。
「頑張りましょう♪」
応援してくれるそうにゃ。
「さあどうぞ♪」
スフィアがテントの中で両腕を広げた。
「気を付けるにゃ。変なところ触ったらシャー出るにゃ。締め付け過ぎてもダメにゃ」
「お任せください♪」
心配は要らんか。
スフィアは私を抱きしめて横になると、今度は毛布を取り出した。
「ぬくぬくにゃぁ~」
北国だからちょっち寒いにゃ。
逆にその程度ってことは今は夏なのかにゃ? 私の知る常識通りの気候とは限らにゃいけど。
普通、婚約破棄イベントって年度末とかクリスマスのイメージないかにゃ? 私だけかにゃ?
「ふふ♪ げふふふ♪」
また怪しい笑みが溢れてるにゃ。
不思議だ。
素のスフィアは多少変な子ではあるものの、とっても器用な子だ。相手の心を読み取ることにも長けている。だから尚の事不思議だ。スフィアなら上手く出来ただろうに。頭のおかしな王子だって簡単に手の平でコロコロ出来た筈なのに。
何故この子は一人になることを選んだのだろう。あんな王子と結婚するなんて御免だったからだろうか。実はあの断罪劇もスフィアの仕込みだったのだろうか。
ううん。スフィアはそんな事をする子じゃない。間違いなくあれには何か他の原因がある筈だ。
そしてスフィアは、その何かを事前に察していたのだ。自分が追い出されるとわかっていて準備を済ませていた。
それはスフィアの力を以ってしても、どうにもならないものだったのだろうか。それとも、スフィア自身が意図的に、離れる口実として利用したのだろうか。単に手を打つつもりが無かっただけなのだろうか。
本当はずっと前からうんざりしていたのだろう。両親からも利用されるような人生には。
スフィアは普通の子だ。きっと悩んだ筈だ。
もう無理、逃げ出したいって。
けどもう少しだけ頑張ってみようって。
今回だけはって。
次に限界を迎えたら逃げてしまおうって。
そんな風にズルズルと続けてきたのではなかろうか。
「……考え事ですか?」
「作戦を考えていたにゃ」
「どんな作戦ですか?」
「この美少女をどうやったら手籠めに出来るかにゃ」
「発情したんですか?」
なんだその目は。
「罰でも欲しいのかにゃ?」
「……わかりません」
なんか少し違うかも。
「まさか私を切り捨てるつもりか?」
「そんなことしませんよ」
「もっとしっかり抱きしめろにゃ」
「ふふ♪」
ふ~む……。
「スフィアは何がしたいんにゃ?」
「もっとアズキと仲良くなりたいです」
「そうじゃないにゃ。もっと漠然とした未来のことにゃ」
「漠然と……」
「王妃の代わりの目標にゃ」
「……」
また変な顔してる。
「何か人生を賭けてやりたいことはにゃいのか?」
「……そういうアズキこそ……どうなんですか?」
「元の世界に帰りたいって言ったらどうするにゃ?」
「……意地悪です」
「なんでそうなるにゃ。一緒に連れてくに決まってんにゃ」
「……え?」
「そこで不思議そうにされるのは心外にゃ」
「けど……だって……」
「こんなイジケた小娘放っておけないにゃ。私をなんだと思ってるにゃ」
「……やっぱり意地悪です」
「冗談にゃ」
「……」
「別に帰りたいだなんて思ってないにゃ」
「……むぅ~」
ポコポコポコ。
「私の夢はこれから考えるにゃ。骨を埋める覚悟は出来ているにゃ」
「……どこにですか?」
「知らんにゃ。未定にゃ。お前の隣って事以外は」
「なっ……むぅ~~~!!」
ポカポカポカ。
「痛いにゃ」
「何がしたいんですかぁ……」
「だからそれを聞いてるにゃ。私のしたいことはスフィアの喜ぶことにゃ」
「っ!!」
覆いかぶさってきた。
「チョロいにゃ」
「……」
また変な目してる。
変な笑いに変な目。器用なのに不器用にゃ。
「……」
倒れ込んできた。頬と頬をくっつけてきた。
「別にキスくらいしたっていいにゃよ?」
「黙ってください」
ふ~……って息吹きかけたら怒るかにゃ?
「……」
「……」
なんか言えにゃ。
「……アズキ」
「本日の営業は終了しましたにゃ」
「……意地悪」
「冗談にゃ。続けろにゃ」
「……やっぱりいいです」
「ダメにゃ。言えにゃ。気になるにゃ」
「なら茶化さないでくださいよぉ……」
「いいから言えにゃ。眠れなくなるにゃ」
「……むぅ」
「悪かったにゃ。悪気は無かったにゃ」
「……それは謝る気が無い人の言葉です」
「海より深く山より高く反省しているにゃ」
「海を見たことがあるのですか?」
「さあにゃ」
「……そうでした」
「話が逸れたにゃ」
「……何の話でしたっけ」
「惚けるにゃ」
「……私のものになってくれますか?」
「奴隷でも嫁でも何にでもなるにゃ」
「……私を愛していますか?」
「そんなん無理にゃ」
「……ならなんで」
「生きていたいからにゃ」
「……私を利用するのですか?」
「そうにゃ。その通りにゃ」
「……どうして」
「事実だからにゃ。私は気を遣うより誠実でありたいにゃ」
「……そんなの誠実とは言えません」
「そうかもしれないにゃ」
「……かもじゃなくて『そう』なんです」
「違うにゃ。正義なんてものは自分で決めるもんにゃ」
「決められてないじゃないですか。かもって言ってるじゃないですかぁ」
「スフィアにとっては違うって認めているだけにゃ」
「……頑固者ですね」
「一面的にゃ」
「……裏切ったら許しませんよ」
「奴隷にして構わないにゃ」
「そんなになりたいんですか?」
「安定職は重要にゃ。こんな美少女が雇い主なら文句無しにゃ。性格の面倒くささに目を瞑るだけの価値はあるにゃ」
「めんど……ひどい……」
「正直がモットーにゃ」
「何でもかんでも正直に言えば良いってものではなくてですね……」
「私はスフィアを好きになりたいにゃ。だからって私に好かれるだけの退屈なスフィアになってほしくないのにゃ」
「……だからわざと突き放すのですか?」
「スフィアが本気で私を好きにゃら、突き放したりなんて出来にゃいし、必要も無いのにゃ」
「……やっぱり意地悪です」
「そうかにゃ? 伝わらないにゃらシンプルに言い換えてやるにゃ」
「……聞きましょう」
「私は飾らないスフィアが気に入ったのにゃ」
「……」
「もっともっと素のスフィアを引き出していきたいのにゃ。奴隷になれば、何を見せても離れないって確信が持てたにゃら、きっと今より素敵なスフィアが見れる筈なのにゃ」
「……逆です。間違ってます」
「仮に私が無償の愛を持ち得たとしても、他ならぬスフィアの心がそれを認めないにゃ」
「……そんなことはありません。きっと気付いてみせます」
「無理にゃ。だってスフィアはそれを知らにゃいんだから」
「……」
「逆に考えるにゃ。奴隷になっても構わないなんて言葉は、十分愛が有る証拠じゃないかにゃ?」
「無いって自分で言ったじゃないですかぁ……」
「愛と打算は表裏一体にゃ」
「そんな考え方は嫌です」
「なら自分で証明するにゃ。私を好きになってみせるにゃ」
「今でも十分大好きです」
「そんなところで満足されたら困るにゃ」
「アズキも愛が欲しいのですか?」
「見たいものが見れないって話はした筈にゃ」
「それだけですか?」
「……愛も欲しいにゃ。天涯孤独なんて耐えられないにゃ」
「結婚しましょう」
「形に拘りすぎにゃ。惑わされてはダメにゃ」
「自分だって奴隷になりたがってるじゃないですか」
「私の拘りとスフィアの拘りはまったくの別問題にゃ」
「のらりくらりと躱すのがアズキのやり方なんですね」
「人の話を聞かん奴にゃ」
「どっちがですか」
「もう寝るにゃ」
「……おやすみなさい」
「降りろにゃ」
「嫌です」




