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TERRA NAUTS(テラノーツ)  作者: Co:Creation Lab


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第9話:深淵の知恵、目覚める

Scene 1: 絶望の一秒


「ボルダーッ!!」


カイの絶叫が、谷を裂いた。


ジャンク・タイタンの巨大な掘削ドリルが、ボルダーの交差した盾の上に振り下ろされる。

ガキィィィイインッ、メキメキメキッ!!


ボルダーの白磁の装甲に、初めて、深い亀裂が走った。


『グォオオ……ッ』

ボルダーが、低く呻く。

前脚の地面が、彼の重量とドリルの圧力で、もはや砂のように崩れ始めていた。


『……押し負けるか、ボルダーよ』

アトラスの青い瞳が、痛みを堪えるように細められた。

『ええい、皆、退け! 一旦下が――』


王の号令を、しかし誰もが、聞き取れなかった。


なぜなら、その瞬間。


紺青の閃光が、谷の側面を、稲妻のように切り裂いたからだ。


Scene 2: 司教ビショップの論理


ピシッ……ピシシシッ……ッ!


苔とジャンクに半ば埋もれていた円柱の表面で、紺青の発光ラインが、いっせいに線を伸ばした。

それはもはや脈動ではなく、明確な意思を持った「電気の網」へと変わっていく。


ガコン……。


円柱の上下のフタが、ゆっくりと回転しながら脚部基部へと変形する。

内部から、四本の長い脚部がスライドアウト。

そして――


円柱の側面が、扇のように開いた。

収納されていた、巨大な板状の角が、ゆっくり、しかし力強く、左右へ広がっていく。

電子戦アンテナの紋様を刻んだ、紺青の角。


『キンッ……コォォォーーン……』


それは、鳴き声というよりは、調律された梵鐘の響きに近かった。


現れたのは、白磁とディープネイビーの装甲に身を包んだ、巨大なオオツノジカだった。

ボルダーよりはわずかに小柄。だが、その広大な角と、静謐な四つ脚の佇まいには、他のテラ・ノーツとはまったく異なる「重み」があった。


『……お久しゅうございます、王よ』


低く、よく通る、落ち着いた声だった。


『お目覚めが、いささか遅うございました。お赦しを』


『ヘリックス……ッ、貴様、本当に生きておったか!』

アトラスの叫びは、もはや王の威厳ではなく、再会の喜びそのものだった。


ヘリックスはゆっくりと首を巡らし、四つ脚で岩を踏みしめると、まず――驚いたことに――カイに向かって、深く頭を垂れた。


『初めてお目にかかります、マイスター殿。あなたが、王と我が同胞たちを修復してくださった御方ですね。深く、深く、感謝申し上げます』


「あ、いや……えっと、よろしく……?」


カイは戸惑った。

ナットの『キュイ?』、ボルダーの『グォ?』、デルタの『……(鼻で笑う)』、シエルの呆然とした表情。

全員、ヘリックスの異様に丁寧な物腰に、温度差で当てられていた。


『そして、王の御前で出過ぎた口を利く非礼を、お赦しください』


ヘリックスの頭が、静かに上がる。

広大な角の先端が、紺青に光った。


『――現状、最適解を、提示いたします』


Scene 3: 一糸乱れぬ斉射


ヘリックスの角から、紺青の波紋が放たれた。

高密度の広域レーダー波。

ジャンク・タイタンの数百年積層した装甲を、ヘリックスは外側から「透視」していく。


『……視えました。制御核は、現在の重心位置から右後方2.4メートル、深度1.8メートル。装甲層は計四十七層、最も薄い貫通経路は……第三脚関節の上、わずか半メートルの隙間に存在します』


カイのゴーグルに、その経路がリアルタイムで描画された。

ナットの単純な索敵では何百年経っても見つけられなかったであろう、装甲層の「隙間」が、紺青のラインで一本道に繋がっていた。


「……マジかよ。こいつ、戦闘前から戦闘が終わってんじゃねぇか」


『ボルダー殿』


ヘリックスの声が、戦場のノイズの中で、不思議とよく通った。


『後ろへ、ニメートル。ジャンク・タイタンの重心が左脚に乗ります。その瞬間に、右脚を「払って」ください。倒すのではなく、踏ん張らせるために』


『……グォオオッ!』

ボルダーが、じりじりと下がる。

ドリルの圧が、わずかに緩む。


『デルタ殿。お得意の高速旋回を、ジャンク・タイタンの頭部周囲で。視覚を完全に飽和させてください。攻撃は、不要です』


『ふん、私の機動力を目くらまし扱いか。……ま、たまには良いでしょう』

デルタが、青い軌跡で旋回を開始する。


『ナット殿。第三脚関節の上、僅か半メートル四方。標的座標、転送いたします』


ナットの背中で、ファランクスへの変形音が、小気味よく鳴った。

カイは岩陰に伏せ、義手の動力ケーブルをファランクスのジャックに接続する。

オーバードライブ。再び、義手とテラ・ノーツが、直結する。


「……シエル、ナノメタル経路、安定してるか?」

「ええ。前回の十二倍の精度で、電流を流せるわ。焼き切れない」


『マイスター殿、シエル殿。ご準備は、よろしいですね』


ヘリックスの角が、紺青の照準十字をジャンク・タイタンの第三脚関節へ投射した。


『――では、王の、号令を』


『……いいだろう』

アトラスが、誇らしげに、翼を広げた。


『総員、撃てぇッ!』


ドォン!! ボルダーが、ジャンク・タイタンの右脚を払う。

キィィィン!! デルタの空色の残光が、頭部視界を覆い隠す。

ガコン! ファランクスがナノメタル経路を全開放、銃身の表面に紺青の補助線が走った。


ドガァァァァンッ!!


極太のビームが、ヘリックスの計算した「装甲層の隙間」を、一直線に貫通した。

ジャンク・タイタンの胸の奥――数百年眠っていた制御核が、内部から弾けた。


ゴォオオオオオ……ズシャァアアアン!!!


「歩く山」が、ゆっくりと、しかし確実に、崩れ落ちていく。

背中の都市残骸が、四本の橋桁脚と一緒に、ジャンクの本来の姿に戻りながら、谷底へ崩れていった。


『……確認。完全停止。脅威、除去、完了』


ヘリックスが、静かに、宣言した。


Scene 4: 巨人の扉


谷が、静まり返った。


カイがゆっくりと立ち上がり、ぷしゅーと冷却の蒸気が抜けた義手を、握り直す。

今回は、焼け焦げていない。シエルとヘリックスの計算ずくの斉射のおかげで、義手は、無傷だった。


「……勝った、のか? こんなにも、すんなり……」


シエルが、信じられないという顔で、ヘリックスを見つめた。

「あなた、たった一機で……戦況を完全に書き換えたわ……」


『過分なお言葉です、シエル殿。私はただ、王と同胞たちの個性が最も生きる「組み合わせ」を、提示したに過ぎません』

ヘリックスは、静かに首を振った。

『チームの、力です』


『フンッ! 当然だ。王たる私の臣下たちが、揃って弱いはずがあるまい』

アトラスは胸を張ったが、その顔は、誰よりも嬉しそうだった。


そして、一同が振り返る。

ジャンク・タイタンの崩落で露わになった、軌道エレベーター基部の「足元」。

朽ち果てた苔と錆の下から、人工的に整えられた、巨大な金属の壁が、顔を出していた。

壁の中央には、明らかに「入り口」と思われる、半円形のシャッター。


『……古代の認証システムが、まだ生きています』

ヘリックスの角が、紺青の電子波をシャッターへ向けて放った。

『私の権限で、開けられます。マイスター殿、王、よろしいですか』


「上等だ。開けてくれ」


カイが、ニヤリと笑う。


紺青の電子網が、半円シャッターの古代回路に染み込んでいく。

ジジ……ジジジ……ゴゴゴゴゴ……。

数百年ぶりに、軌道エレベーター基部の扉が、震えながら、開き始めた。


その奥から漏れ出てきたのは、彼らが廃棄区画で見たことのない、清浄な、白い光だった。


「……これが、エデンへの、入り口……」


シエルが、息を呑む。


しかし、その瞬間。

彼女の胸元のチップが、これまでで最も鋭い警告音を上げた。


ピピッ……ピーッ……ピーーーーッ!!


「……まずい、これは……」


シエルの顔から、血の気が引いた。


「『マザー』が、私たちを、補足したわ。本気の追撃部隊が、軌道上から降りてくる。――それも、これまでとは、桁違いの、兵装で」


紺青の扉が、ゆっくりと、開いていく。

鉛色の空の遥か上、エデンから――新たな、白い、流星が、降下を始めていた。


第9話・了

次回、第10話「天と地の境界線」へ続く。


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