第3話:鉄壁の守護者
Scene 1: 通用しない王の力
ズズズズズ……。
廃工場の広大な敷地が、小刻みに震えている。
乾いた地面の砂利が跳ね、空気そのものが重低音でビリビリと震えていた。
「なんだ……? 地震か?」
カイがスパナを握り直して、瓦礫の山の向こうを睨む。
土煙の奥から現れたのは、生物的な獰猛さを持つ「獣」ではなかった。
ただひたすらに重く、無機質な「壁」だった。
『整地作業ヲ、開始シマス。障害物ハ、全テ破砕シマス』
直径6メートルはある巨大な鋼鉄のローラー。
その後ろに、申し訳程度の操縦ユニットとキャタピラが付いている。
かつて巨大道路建設に使われていた超大型整地ドロイド、「アイアン・ローラー」だ。
長い年月の間にAIがバグり、「目に見えるもの全てを平らにする」だけの動く災害と化していた。
『貴様! 私の休息を邪魔するとはいい度胸だ!』
アトラスがドラム缶の上から飛び立ち、鉛色の空中で翼を広げる。
王者の威厳を放ちながら、その喉奥が青白く発光する。
『消え去れ! ソニック・ロア(咆哮)!!』
アトラスの口から、衝撃波のブレスが放たれた。
ドローン程度なら回路を焼き切って撃墜する必殺の一撃だ。
だが――。
カァーン!!
甲高い金属音が響き、衝撃波はローラーの滑らかな曲面に弾かれた。
傷一つない。塗装がわずかに剥げただけだ。
『なっ……!?』
アトラスが目を見開く。
『馬鹿な! 直撃だぞ!?』
「ダメだアトラス! あいつの装甲は曲面だ! 衝撃を全部外へ受け流してる!」
カイが叫ぶが、アイアン・ローラーは止まらない。
そもそも、ローラーはアトラスを「敵」として認識してすらいなかった。ただの「路上の小石」として、轢き潰すために前進を続けている。
その「話が通じない」無機質な殺意に、カイは背筋が凍るのを感じた。
Scene 2: ラスティ・ネイル、発進
『ええい、この鉄塊め!』
アトラスが爪でローラーに掴みかかろうとするが、回転する表面に弾かれ、逆に体勢を崩した。
『うわっ!?』
「アトラス!」
弾き飛ばされたアトラスが、野積みの資材置き場に転がる。
アイアン・ローラーはゆっくりと、しかし確実にその方向へ進路を変えた。
このままでは、アトラスが廃材ごとプレスされて「鉄のシミ」になってしまう。
「くそっ、間に合えよ……!」
カイは敷地の奥、防水シートの下へ走った。
そこに隠されていたのは、巨大なジェットエンジンを2基、ワイヤーで無理やり座席に括り付けただけの、狂気の乗り物。
カイの自作ジャンクスピーダー、『ラスティ・ネイル(錆びた爪)』だ。
「エンジン始動!」
ドガガガガッ!
ズドォォォォォン!!
後方のメインノズルから、青白い爆炎が噴き出す。
前方の姿勢制御バーナーがチロチロと光り、機体がふわりと浮上したかと思うと、次の瞬間には弾丸のように加速していた。
車輪などない。純粋な推力だけで浮上する「ポッドレース」スタイルだ。
「こっちだデカブツ!!」
カイはスロットルを全開にし、アトラスとローラーの間に割って入った。
ワイヤーで制御された2つのエンジンを巧みに操り、ローラーの目の前で急旋回して砂煙を浴びせる。
『障害物ヲ検知。優先排除対象ニ設定』
ローラーのセンサーが赤く点滅し、巨大な円筒がカイの方へ向きを変える。
『おい人間! 貴様、死ぬ気か!?』
アトラスが上空から叫ぶ。
「へっ、ジャンク屋のドライブテクを舐めるなよ!」
カイは障害物の多い敷地内を縦横無尽に飛び回る。
だが、相手は壁だろうが柱だろうがお構いなしに破壊して進む「動く要塞」だ。
逃げ場がどんどん削られていく。
「しまっ……行き止まり!?」
追い込まれた先は、崩れた外壁と瓦礫の山で塞がれた袋小路だった。
振り返ると、視界を埋め尽くす鋼鉄の壁が、逃げ場のない距離まで迫っていた。
6メートルの鉄塊が、逃げ場のないカイたちを見下ろすように迫る。
『排除シマス』
回転音が大きくなる。
死の感触が、鼻先まで迫る。
その時だった。
ドクン、ドクン。
カイの背中。リュックの中で、「緑の箱」が脈打った。
Scene 3: 鉄壁の守護者、覚醒
(……呼んでいる?)
カイには聞こえた。
言葉ではない。重低音の振動となって、脊髄に直接響く「闘争」への意志が。
カイは無意識にリュックを掴み、中身を引き抜いた。
「……なんだか分からないけど、頼む!」
カイは深緑の立方体を、アトラスとローラーの間へと思い切り放り投げた。
『……?』
アトラスが目を見開く。
宙を舞う立方体。
その表面の幾何学ラインが、ネオングリーンに発光した瞬間――物理法則が書き換わった。
ズガァァァァン!!
爆発的な「膨張」。
手のひらサイズの箱が、空間の圧縮を解かれたかのように、一瞬で質量を増大させる。
折り畳まれていた装甲がスライドし、ロックが弾け飛び、シリンダーが伸びる。
ガシャン! バシュッ! ズドン!!
着地の衝撃で地面が陥没する。
土煙の中から立ち上がったのは、巨大な「岩のゴーレム」だった。
両腕には、本体よりも分厚い巨大なシールド・ガントレット。太い首の上にある頭部には、石像のように掘りの深い目と鼻があり、感情のない闘志を湛えている。
まるで怒れる銀背のゴリラのようなシルエット。
重装甲ドロイド、「ボルダー」。
その姿は、まさしく動く要塞。
だが、迫りくるアイアン・ローラーはさらにその倍――6メートルの巨体だ。
『障害物、排除……ガガッ!?』
激突の瞬間、鼓膜をつんざくような金属音が響いた。
だが、押し潰されたのはボルダーではない。
回転する鋼鉄のローラーを、ボルダーが真正面から「両手」で受け止めていたのだ。
ギギギギギギギギ……!!
凄まじい火花が散る。
ボルダーの足元の地面が粉砕され、膝まで土にめり込んでいく。
それでも、ボルダーは一歩も引かない。
『……王ニ、手出しハ、させヌ』
ボルダーの厚い胸板から、岩が擦れ合うような重低音の合成音声が響く。
『グォォォ……出力、最大……』
敵ドロイドがエンジンを最大出力にする。黒煙が噴き上がり、さらに強く押し込んでくる。
質量差は圧倒的だ。普通なら押し切られる。
だが、ボルダーの両腕のシールドが、アンカーのようにローラーの表面に食い込んだ。
『……停止』
ボルダーがさらに腰を落とし、大地のエネルギーを吸い上げるように踏ん張った。
そして、渾身の力でローラーの回転を「殺し」にかかる。
太い腕の筋肉が限界まで膨張し、唸りを上げる。
バキィッ!!
異音が響いたのは、ローラーの方だった。
進もうとする駆動力と、ボルダーが止める制動力。逃げ場を失ったエネルギーが、ローラー内部のシャフトをねじ切ったのだ。
『ガ……ガガ……エラー……駆動系、破損……』
回転が止まった。
6メートルの巨大な鉄塊が、その半分の大きさしかないボルダーの手の中で、完全に沈黙する。
『フン、遅いぞボルダー!』
アトラスが、空からボルダーの広い肩の装甲の上に降り立った。
安全圏を確保した途端、いつもの尊大な態度に戻っている。
『私の昼寝の時間が終わってしまうところだったぞ。さっさとその「無礼な漬物石」を片付けろ!』
『御意』
ボルダーの石像のような目が、鋭く発光する。
右腕のシールド・ガントレット内のパイルバンカーが、ガシャンと装填音を立てた。
『……沈黙』
ボルダーが、沈黙したローラーの中央装甲に、静かに拳を押し当てる。
派手な振りかぶりはない。ゼロ距離からの、一点突破。
ドォン!!
短く、重い衝撃音。
ボルダーのパイルバンカーが、ローラーの分厚い装甲を貫き、奥にあるメインコアを正確に破壊した。
ローラーの巨体がガクンと力を失い、その場に崩れ落ちる。
吹き飛ぶことさえ許されない、完全なる機能停止だった。
Scene 4: デコボコな主従
静寂が戻った廃工場跡で、カイは『ラスティ・ネイル』から降り、呆然と緑の巨人を見上げた。
自分の倍はあるアイアン・ローラーを、正面からねじ伏せたのだ。
「……すげぇ。あのデカブツを止めちまった」
ボルダーはプシューッと蒸気を吐き出すと、肩に乗っているアトラスに向かって、その場で片膝をついた。
ズシン。
『王ヨ。……ボルダー、覚醒シマシタ』
『うむ。大儀であった』
アトラスはボルダーの頭を足場にして、偉そうに腕を組んでいる。
その光景は、まるで王座に座る君主と、それに傅く巨人の騎士だ。
「おいおいアトラス。お前、知り合いなのか?」
カイが尋ねると、アトラスは鼻を鳴らした。
『知り合いではない。「家臣」だ。……こいつは頑丈だけが取り柄の、私の盾だ』
『肯定。私ハ、王ノ盾。……王ノ敵ハ、全テ粉砕スル』
ボルダーがカイの方を向く。
彫りの深い石像のような顔には表情がないが、その目がじっとカイを見定めている。
その圧力に、カイは思わず後ずさりした。
「ま、待て待て! 僕は敵じゃない! アトラスを直した恩人だぞ!」
『恩人……?』
ボルダーが首を傾げ、アトラスを見る。ゴリラが不思議そうな顔をしているようで、少し愛嬌がある。
『そうだボルダー。この人間は……まあ、私の「乗り物」の手入れ係といったところだ。悪い奴ではない』
アトラスの雑な紹介にカイは抗議しようとしたが、ボルダーは納得したように頷いた。
『理解。……人間、感謝スル』
ボルダーがカイに手を差し出す。握手かと思ったが、その拳はカイの胴体ほどもある巨大な岩塊だ。
カイは苦笑いしながら、その分厚い装甲の端をコツンと拳で叩いた。
「よろしくな、ボルダー。……それにしても、いい防御だったぜ」
褒められたボルダーは、少し照れたように肩の排気ダクトをプシュプシュと動かした後、再び「変形」を開始した。
ガシャン、カチャ、パチン。
巨大な腕が折り畳まれ、装甲がスライドし、数秒後には元の「静かな立方体」へと戻った。
地面に転がった緑の箱を拾い上げながら、カイは確信した。
(アトラスに、ボルダー……。こいつらはただのドロイドじゃない)
この星のゴミ捨て場には、とんでもない「秘密」が埋まっている。
そしてそれは、きっと「空」へと繋がっているはずだ。
「よし、帰ろうぜ。……今日はご馳走だ。極上のハイオクオイルを奢ってやるよ」
『フン、当然だ。私は高級品しか口に合わんからな』
『……私モ、欲シイ』
箱の中から聞こえたボルダーの控えめな声に、カイとアトラスは顔を見合わせて笑った。
(第3話 完)
鉄壁の守護者ボルダー、覚醒!& 【無料】3Dデータ配布開始のお知らせ
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
Co:Creation Lab(TERRA NAUTS開発チーム)です。
第3話、いかがでしたでしょうか?
ついにアトラスの相棒、重装甲ドロイドの**「ボルダー」**が覚醒しました。
「質量保存の法則? 知ったことか!」と言わんばかりの玩具的変形と、アトラスとは真逆のパワー&防御。
この凸凹コンビがこれからどう活躍していくのか、ぜひ見守っていただければ幸いです。
【お知らせ】ボルダー&アトラスが、あなたの手元に!?
本作『TERRA NAUTS』は、物語に登場するメカを**「実際に3Dプリンタで作れるデータ」**として開発・公開するプロジェクトでもあります。
今回登場した**「ボルダー」の3Dモデルデータ(STL)を、現在【無料】で配布中**です!
ご家庭の3Dプリンタで出力すれば、作中の「鉄壁の盾」をリアルに召喚できます。
また、主役機**「アトラス(幼竜形態)」**の高精細スタチューモデルも販売を開始しました。
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物語を読みながら、手元にはそのキャラクターがいる……そんな新しい体験を楽しんでいただければ嬉しいです。
【お願い】
「ボルダーかっこいい!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、
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