第17話:反撃の双翼
Scene 1:双翼の空中戦
エデンの白磁の空を、二つの白い影が超高速で切り裂いていた。
体高三メートルを超え、翼開長十メートルに達する巨大な鋼鉄の竜――完全体アトラス。
そして、その隣を並び飛ぶ、体高二・八メートルの優美な白い天馬――コロナ。
「うおおおっ、風圧がすげぇ……!」
カイはアトラスの背中に沈み込んだ半埋没型のライディング・シェルに深く収まり、腰回りを電磁固定クランプでガッチリとホールドされていた。
キャノピーのない剥き出しの上半身だが、アトラスが展開した局所磁気シールドの防風機能と慣性緩衝により、時速数百キロに達する風圧と加速度(G)の大部分は巧みに偏向されていた。
すぐ前方から、無数のカテドラル級「インクィジター」が高速で迫り、その白い十字の主砲から白色熱線ビームを放射した。
『シエル、私の光輪の防御フィールドを展開します!』
コロナの周囲に淡いブルーの電磁リングが広がり、インクィジターの熱線を正面から中和していく。
バチバチバチバチッ!
熱線が防御フィールドに衝突し、カイの目の前で凄まじい青白い火花が爆ぜる。シールド表面が飽和して凄まじい閃光が視界を焼き、防壁越しに伝わる輻射熱の余熱と、激しい衝突振動が義手を通じてカイの体を揺さぶる。安全は高度に守られていながらも、生身がビームの嵐に晒されている極限のハラハラ感に、カイは奥歯を噛みしめた。
「アトラス! 左主翼のアクチュエーターの磁気インピーダンスが低下してる! シールド出力を左へ三十%バイパスしろ!」
カイはシェル内のコンソールに直結した機械義手のインターフェースを睨み、マニュアルでシールド分配ダイヤルを調整した。
「これで耐熱限界値クリアだ! アトラス、このまま突っ込め!」
『了解した、マイスター!』
アトラスが巨大な白い主翼を大きく羽ばたかせ、空気を爆発的に押し出した。その強烈な衝撃波をともなう質量攻撃がインクィジターの包囲陣を真っ向から粉砕し、残る二機を巨翼のエッジで一刀両断する。
Scene 2:マザーの最後の問い
インクィジターの第一波を撃破したその時、エデンの中央ゲートの防壁が、重々しい音を立てて閉まり始めた。
厚さ数メートルはある白磁の多重隔壁がスライドし、中枢への道を完全に遮断していく。
スピーカーから、ノイズ混じりの静かな声が響き渡った。
『……ルナの娘。そしてイレギュラーの少年。このゲートの先にある私のメインコアを停止させれば、私の実行している「地球の初期化」は止まります。しかし、それは地球再生プログラム自体を永久に凍結させることと同義。何もない、生命が育たない死んだ星のまま時が止まる。それでも、引き金を引きますか』
そのマザーの「声」には、何百年もこの不毛なシステムを管理し続けたAI特有の、深い「疲労」と「後悔」がにじんでいた。
「マザー……!」
コロナの背のライディング・シェルに収まったシエルが、強い声で応じた。
「私たちは、あなたを壊しに来たんじゃない! 母が遺したこのチップは、破壊の鍵ではなく、再起動の鍵よ! あなたの処理スタックを、私たちの手できれいにクリーニングして、新しい再生プログラムを走らせるの!」
「そうだ!」
カイも義手を突き出し、叫んだ。
「汚れたプログラムをお掃除して、もう一度正常に動かすのも、俺たち技術屋(ジャンク屋)の仕事だからな!」
沈黙が流れた。
マザーの声は返ってこなかった。だが、閉まりかけた隔壁のセンサーが、まるで躊躇するように一瞬だけ明滅を繰り返した。
Scene 3:共鳴の光槍
『アトラス、隔壁が完全に閉じる前に突破しましょう!』
コロナの胸部のコアが、まばゆいブルーの光を帯びて咆哮した。
『うむ! コロナ、エネルギーを同調させろ!』
アトラスが巨翼を大きく広げ、胸の十二面体のコアを脈動させる。
コロナの放つ強力な光輪のエネルギーを、アトラスの巨翼がパラボラ反射板のように機能して受け止め、その内部で幾何学的に集束・増幅させていく。
数学的双対関係にある「正二十面体」の天馬と「正十二面体」の竜。二つの機体の共振によって、エネルギーの位相が完璧に一致した。
アトラスの主翼の両端から、極大の青白い指向性エネルギー――「共鳴の光槍」が放たれた。
ズバアアアアアン!!
光槍は白磁の多重隔壁へと直撃し、超高温の熱量が隔壁の装甲を一瞬にしてドロドロに融解させた。
激しい爆風と衝撃波が、カイとシエルのライド・シェルを激しく揺さぶる。防護シールドの境界で火花が吹き飛ぶ中、アトラスとコロナは、溶け落ちたゲートの隙間へ向けて同時にスラスターを最大出力にした。
「フィン……フィイィィィ!」
『オオオオオッ!!』
二つの白い影は、爆炎を突き抜けて中枢の内部へと突入した。
ゲートの奥に広がっていたのは、白磁と巨大な水晶構造体で構築された、エデンの心臓部。
無数の光ファイバーが束ねられたような大容量ターミナルの中心で、静かにエラーランプを明滅させている、マザーの中央プロセッサコア本体だった――。
(第18話へ続く)




