18-1 昔話「鶴の恩返し」
【17話/B面】Aパート
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今回の【17話】より最後の部員メンバーが加わります。
■八薙 亮二:1年生。昔は相当暴れていたらしいが、今は将来に向けて進路を真剣に考えている。先輩でもある葉月の勧めもあり、視野や考え方を広げるために勇一たちの部活に参加するようになる。
ここはとある高校の校舎東側2階。
ホームルームを終え、放課後に入るとこの部屋が部室になり、集う面々がいる。
今回の部活動は何かの発表会のようだ。
今回発表してくれる人…プレゼンターは入部して間もない天摘葉月さんだ。
静那と椎原さんからのリクエストに答えるような形で、プレゼンターに抜擢されたのだ。
今回より紆余曲折ありながら新たに部活に加入することになった八薙亮二も話の輪の中に入る。
ちなみに八薙君は静那と同じ1回生。空手道場では葉月の後輩にあたる。
そんな個性豊かな7人を前にリクエスト内容は日本の昔話『鶴の恩返し』の紹介ということで、絵本を囲んでの朗読が始まった。
* * * * *
「はい!これで“鶴の恩返し”という物語はおしまいです。
日本ではずっと語り継がれているお話だけど、どどこか切ないよね。
静那さんも是非知っておいてね。
椎原さんは長く海外にいたみたいだけど、思い出してくれた?この昔話。」
「うん。おぼろげながら思いだせたよ。最後は鶴にもおじいさん達にも幸せになって欲しかったよね。」
「私は本でしか見た事ないからまず鶴を実際に見てみたいな。
献身的で優しい鶴が恩返しにやってくるのっていいよね。
鶴じゃなくて人間の姿になって恩返しにやってくるのがなんだか不思議だった。」
「そうだな。改めて聞くと良いことをしたらいつかは報われるような気がして心が温かくなったよ。」
「私もストーリーは知ってたけど、今振り返ってもなかなか名作じゃない?
日本にこんな素敵な昔話があったんだってちょっと嬉しくなったな。
中学の時は9時台のドラマばかり見てたから感じ方が新鮮だったな~」
当然だが物語にひっかかりを感じるメンバーもいる。難癖という言い方のほうが良いかもしれない…
「オメーらおかしいとは思わんのか?鶴が人間に変身できるて。」
「俺だったらやつれるまで織物とか作らせずにもっと他の恩返しを要望するね。
やってきた鶴ってのは“かわいらしい娘”やったんやろ…じゃあまずは夜のごほがっー「八薙君はどう感じた?」
「オイ!俺まだ話中やぞ!言わせろよ。」
「ダメ、どうせまたいやらしい方向に持っていこうとしてるんでしょ。
物語を話し終えたばかりなんだからこの雰囲気ぶち壊さないでよね!
で、八薙君!どう感じた?」
仁科さんが部活の風紀を守りつつ、新メンバーの八薙君へ質問をふる。
「え~ええと、まぁあれってどうすればよかったのかなって。」
「あれって?」
「結局正体を見てしまったから鶴は飛び立ってしまったんですよね。
あれ、どこにも行かずにずっとおじいさんとおばあさんと3人で幸せに暮らしたらどうだったのかなって思ったんです。
鶴にしても3人で仲良く暮らしたかったんじゃないかな。
見られたからってなんでお別れになるのかなって…久しぶりにこの話聞いてて感じた。」
「そうだよな。見たって減るもんやないし。…鶴の状態って人間で言うたら全裸なんかな?」
「全裸見られたら逆に”責任取って!”いう流れにならんか?」
「そこ!変なこと言わない!
でも確かに正体を見られたからってお別れまでしなくても良いのにね。もう家族みたいなもんなんだからずっと居ればいいんじゃないのにって………思えば思う程…寂しいよね。」
「おじいさんもおばあさんも別にお金が欲しかったり恩返しをして欲しかった訳じゃないと思うんだよね。」
「そう、一緒にいてくれたらそれだけで幸せだったとか…」
「そんなものですか?」
「ええ、そんなものよ。親でも誰でも大切な人と一緒に暮らせたらもうそれだけで幸せなものよ。」
「じゃあ…おじいさんとおばあさんはあの後、鶴を捜しにいったり…したのかな…。」
「静ちゃん……うん。きっと心配でたまらなかったと思う。鶴だったとはいえ、家族同然のような娘が出て行ってしまったんだから。
その娘の幸せを願ってたと思うよ。」
「うん。ちゃんと再会できれば…いいね。鶴とおじいさん達。」
お父さんの事を思い出したのだろうか。静那が寂しそうに呟いた。
「俺は再開しない方が良かったんじゃないかと思ってる。」
いきなり変な事を言いだしたのは勇一。でもふざけている感じではない。
「決して見ないでくださいって言ってたんだろ。約束を破るのはルール違反だろ。」
「そこに反応するんだ。」
「父親が娘の交換日記をこっそりチェックするような感じか?」
「違うよ!変な事例を持ち出すなよ。
まぁこの話のポイントは、鶴の“覗いてはいけません”の所だと思う。
どんな仲でも約束は約束だろ。自然界のルールって厳しいんだからさ。」
「それでも人間の心理というか見たくなるやろ!女の子が部屋で一人何してるかとか、そんなんおじいさんでなくても男の妄想が滾って仕方ないやん。」
「だからそういうのじゃなくてさ。どんなに仲良くなったとしても人には知られたくないことってあるだろ。
自分にしかないものでさ。
…どうしても鶴と人間の境界線には入ってきてほしくなかったんだよ。」
「それはあるかもね。」
静那は納得している感じだが、男性陣はあまり理解できないようだ。
「ふーん、そんなもんかね。俺はいまいち分らんけど。」
「その人じゃないと分からないかもね。私たちが鶴の気持をきちんと分からないように。」
「まぁ、親しき中にも礼儀ありって事が言いたかったんじゃないのかな。」
「うん。そう言われたらそこも大きいんじゃないかなって思うよ。」
「じゃあそろそろ鶴が人間に変身できたトリックを暴いていこやないか。」
今回は兼元が食いついてきた。思うところがあるようだ。
「なんでその話蒸し返すのよ!」
「この話の最大のファンタジーな所やろ。絶対にここになんかの比喩が隠されてるとか思わんか?」
「比喩か…へぇ…そんな風には考えなかったですね。」
八薙が乗り出してきた。
「何かの比喩……ねぇ。」
「あんな……こんな昔話が生まれた時代にも“えたひにん”いうて奴隷みたいに扱いが酷い人がおったねん。
賤民階級っていうか…静那ちゃんに分かりやすく説明すると、乞食・犯罪者などの転落者みたいな人や。
それにあたる一人の女性が、例えば鎖とかにつながれながらも隙を見て必死に牢獄だったり、他のパターンだと酷い仕打ちをうけてる主のもとから逃げ出してきたわけよ。
けど途中体が動けんくなって、もう見つかるのを覚悟しとった。
ところが偶然通りかかったおじいさんが介抱してあげた。
お礼におじいさんとおばあさんのお手伝いをしながら潜伏させてもらうようになるわけよ。
一生懸命2人の手伝いするから村では評判になる、と…
でも一緒に暮らしてたおじいさん達の村にも追手の調査が入るようになり、足がつきそうになる。
2人には情が沸いてたけどこのままやと巻き込んでしまう。
そんな中“指名手配者の顔と本名がバレた”いうのがきっかけで去っていったんやと思うで。」
「そんな見方が…」
「名前で“鶴”って言うのは偽名とかいう線は考えられんか?
鶴いう名前は、昔の時代は結構あったで。」
「確かに…女の人で“鶴”っていう名前はあるよな。」
「おじいさんとおばあさんとの短い暮らしは幸せやったけど、もう隠し通せん思うて去ったんやろう。そしてその後の消息は不明みたいな感じで。」
「それは悲しすぎるな~」
「女奴隷の悲しい逃亡劇みたいなのを“鶴の恩返し”いう物語にした…いう線は考えられん?
鶴が人間に化けるというところはやっぱり非現実的やん。
だからこういう比喩が含まれてると思うんよ。」
「うわ…あんたの事だから変な方向に持っていくと思ってたんだけど、なんだか聞き入ってしまってる自分がいる。」
「評価低いなコラ。」
「静那はどうだった?なんだかリアルに感じたけど。」
「こっちも悲しいお話だよね。鶴の恩返しが少し悲しい物語なのもこういう意味が含まれてるのかな。」
「なんだかそんな感じもしてきたな…お前結構凄いな。」
「そうですね。そういう方向に考えたこともなかったですよ。」
「まぁ昔話が“化ける”っていう路線で来た時は、時代背景になんかあるなって思っといたほうがええで。」
一同は珍しく兼元を見て頷く。
「まぁ受け止める人が多いと感じる事も多いってホントね。
今回静那さんと椎原さんからのリクエストだったけどまたやってみたいなって感じた。
なんか…ありがとう。」
入部してあまり間が無かったが、今回プレゼンターとして話が出来た事に充実感を感じる天摘さんだった。
「天摘さん、普段はあまり喋らないからね。」
「うん。だから今日久しぶりに凄くしゃべった感じがする。昨年学校内で喋った総時間よりも多かったりして。」
苦笑いを浮かべる天摘さんに仁科さんが声をかける。
「遠慮せずにこれからもどんどん意見言っていいからね。」
『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々課外活動で外出もします。
各話完結型ですので、お気軽にお楽しみください。
尚、本編のストーリーとB面の話数は所々リンクしています。こちらを読んでから本編を読み進めていくとより楽しめます。
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