17-2 桃太郎の調略
【17話/B面】Bパート
「交渉~?」
桃太郎の物語に対して趣向を変えた仮説を投じる生一に対し、一同関心を向ける。
「桃太郎もむざむざ敵地に乗り込んで死にに行くつもりやなかったと思うわけよ。まだ幼いし、童貞やし。
まぁ爺と婆に“家でニートするくらいなら自衛隊入るか鬼退治にでも行って身銭稼いで来い!”みたいな圧力かけられてたかもしれんで。それで自分に生命保険かけて当てつけに自滅したろうとか思ってた説も考えられる。
でも今回はあくまで鬼退治を遂行するというルートで考えてみる。」
よくこんな切り口考えるなと感心して聞いている椎原さん。
「まず鬼やで。1対1でもまず勝てんわな。犬も絶対無理や。101匹おってもあかんやろう。」
兼元と小谷野が頷く。
「サルもあかんやろうな…論外や。野猿論外。」
「そうだよな。俺が鬼やったらまぁ一方的に蹂躙した後、奴隷にするやろう。」
「最低~!」
「弱肉強食の時代はそんなもんやで。今みたいに警察おらんねんぞ。
今真面目に考えてんねん。原作があまりにも頼りないから。」
「真面目にって…どんどん方向性がおかしくなってないかな…。」
「まぁ話しを戻すわ。まともにやって勝てそうにないならもう鬼との交渉に活路を見出すしかないやん。
でも交渉いうても感情に訴えるだけの“豚が欲するような欲望”じゃいかんわけよ。
ちゃんと鬼側にもメリットを提示してやらんと。」
「メリット?」
「交渉やで。相手にも旨味が無いとまず成立せんやろ。」
「そもそもメリットなんてないのに鬼が交渉に応じてくれるか?」
「鬼も鬼ヶ島言うてあれだけの領土と陣営構えとんねん。対話する度量くらいはあるやろ。少なくともニートの桃太郎よりは。」
「桃太郎を勝手にニート呼ばわりすんな。まだ子どもなのに!
あと、1995年に“ニート”っていう言葉はまだそこまで浸透してないから!」
仁科さんと生一の“謎のやりとり”が入ったが、ここから交渉の具体的な内容に入る。
「まず桃太郎が一人で攻めていっても犬死にや。犬も含めて。相手にもしてくれんやろう。だから"俺は医者や”言うて乗り込むんや。」
「医者?」
「せや。最近“青鬼特有のウイルス”が蔓延してきてる言うねん。
そしてこのままやとこの島も危険だから“ワクチンを打ちましょう”という話をもちかける。」
「なるほど。自分達の身を案じて来てくれたと思わすんやな。」
「その通り。これで侵入しても怪しまれん。
ウイルスの名はそうやな…“ナロッコウイルス”とでもしようか。
“ナロッコウイルス”は青鬼だけがかかる危ない病気やいうて、事前に絞め殺しといた猿を見せつけるねん。涙ながらに…“ほっといたらこんな大変な事になりますよ”いうて。」
「なんでそこでサルが犠牲になってないといけないのよ。」
「信頼を勝ち取る為やろ。
まぁそれで青鬼の心配を煽ってワクチンの注射を受けさすねん。」
「なるほど。そこに毒でも入れ込む訳か。」
「ちがうわ。おまえはツメが甘いねん。仮に青鬼殲滅できたとしても赤鬼おるやろう。あくまでここは仕込みの段階や。分断のな…」
「そうやったな。」
「そうですね…」
「なんで普通に納得してんだよ!静那まで!」
「信頼得る為にも同盟結んどくねん。
昔は政略結婚が基本やし、安全保障的な意味合いがあったからな。
桃太郎も鬼陣営と結婚でもしたらええねん。これで正式な信頼関係を結べるやろ。
俺が桃太郎やったら“青髪でショートカットの鬼”を嫁として所望したいな。」
「じゃあ上手くいったとしても攻め落とせなくなるだろ。結婚までしてしまうんだったら。」
「おまえら焦り過ぎやねん。目的はブレずに持ってたらええねん。
“ナロッコウイルス”のワクチンはただのビタミン剤とかにしとくんやけど、一人だけ違う成分を注射するねん。だいたい鬼の集団で“中の上クラスの鬼”を抜擢するのがミソやな。」
「おまえ、そこまで考えてんのか?」
「そのワクチンで強烈に体調をくずさせる。
桃太郎は涙流しながら“間に合いませんでしたか…”とか言うねん。そして赤鬼達にも病気がうつらんように皆にもワクチン打ちたいけど在庫が無いとか言うねん。
…ここで鬼の陣営内に不安が走る。
体調悪くして苦しんでる青鬼を他の鬼たちが見限る。自分も“ナロッコウイルス”にうつりたくないから言うて。
その青鬼に対しては桃太郎一人で必死で看病するフリするんやけど、時を見計らって回復させる。
そいつがほぼ回復しきった時には他の鬼との関係性がだいぶ悪くなってるいうわけよ。
こうやって分断させるのが目的や。」
「お前、やり方が手堅いというか巧妙やな…」
「頃合いを見て一旦向こう帰っていくねん。そんでまた鬼ヶ島に戻ってくる。“ウイルスの第二波がやってきた”言うて初めと同じパターン使うねん。もちろん絞め殺した犬と涙を使うんは必須やで。」
「“絞め殺した犬と涙”とか略して言うな!」
「そんで信頼しきっとる鬼たちにまたワクチン打ってもらうねん。」
「その中から何名かに病気引き起こさせるワクチンを投入する…そして心理的分断を徐々に作っていくって寸法か?」
「まぁそんなところやな。
3回目くらいで死人が出たら本格的な青鬼と赤鬼の分断も考えられる。
あのナチスもやったように、まず信頼関係を崩壊させるねん。…“疑い”いうんは最も原始的で脆い部分やからな。
桃太郎がどんなにガキだろうが弱かろうが、その“信頼関係”いう領域に軽く触れるだけで事足りてしまうもんなんよ。
さらに鬼たちは島から出ようとせんやろ。ここもミソやな。
そのおかげで外からの情報が入ってこんねん。
桃太郎から入ってくる情報しか分らんねん。
“ナロッコウイルスとかいうのが島の外では大流行りしている”とかいう情報言うても鬼は信じるしかないんよな。」
「情報統制…か。」
「正しい情報が入ってこんいうんはこう言う事や。こんなに簡単にそこのコミュニティを操作できてしまう言う事やねん。信頼関係を崩壊させるところまでいったらあとはドミノ倒しみたいなモンやで。」
「なんかお前怖いな。敵には回したくないというか…」
「んな言うても桃太郎が正攻法で勝てるとは思えんし、やるならこういうやり方しかできんやろ。
内で分断するように仕向けるしか。」
「あの…キジは?」
「キジはミッションコンプリートした時のお祝い用…かな?」
「なんでお前はキジを食用としか見てないんだよ!アレ一応、国鳥だぞ。」
「しゃあないやん。どう見ても戦力にならんのやから。
ケーンケーンいうてリズムに乗って鳴きでもしたら投げ銭してもらえるシステムやったらまだ考えるけど。あれやったらタカの方がなんぼかましやで。」
「桃太郎って奥が深いなぁ。鬼を退治するまでにそんないきさつがあったなんて。」
「静ちゃんっ!決して桃太郎はそういうお話じゃないからね。
もう!バカ達!あんたらのせいで海外に間違った形の“桃太郎”が伝わったらどうすんのよ。物語滅茶苦茶にしないでよね!」
「うるせえよ。お前らこそファンタジーに逃げ込もうとするな!現実を見ろってんだ!
リアルな桃太郎の立場に実際立たされたら生きていくためにそんな悠長な事言えんぞ絶対!」
「うん、現実を見ないといけないって大事だね。そして信頼関係が大事だって。」
「静ちゃんはこんな話でも共感できる部分は共感してるのね。もう何か通り越してすごいわ…」
「結局…俺が、何が言いたいかって言うと…情報が遮断された状態って驚くほどモロい…ってコト!」
『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々課外活動で外出もします。
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