11-1 女性というもの
【11話/B面】Aパート
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この【11話】から新たに加わった部員がいます。簡単に紹介。
■兼元 賢太郎:頭は良いが、変態。犬並みの嗅覚を持つ自称・嗅界のプリンス
■小谷野 弘之:こちらも頭は悪くないのだが、ザ・日本の変態を地で行くような人間。
ここは高知県にある、とある高校の校舎。
放課後の静寂を待たずして、校内にはホームルームの終了を告げるチャイムが響き渡る。
西側2階にある空き教室……そこが、彼らの居場所である『日本文化交流研究部』の部室だ。
放課後になり、誰かがこの部屋の重い引き戸を開け、メンバーが顔を揃えたあたりから活動が始まる。
しかし、ゴールデンウィークが明けてしばらくしてからの事――
部室の様子が明らかにおかしい。
原因は、熊本の合宿で出会い、強引なまでの行動力で転入してきた二名の男子生徒にある。
あのゴリラを彷彿とさせる顔立ちの小谷野と、サルのような風貌をした兼元だ。
常識を遥かに超えた彼らの行動力には、部長である勇一もただただ圧倒されるしかなかった。
静那との出会いに運命の稲妻を感じた二人は、正規の転入手続きを済ませ、わざわざこの高校へとやってきたのだ。
転入前の男子校という名の「ジャングル」で、彼らがどれほど抑圧された生活を送っていたのか……そのへんは勇一の想像の域ではあるのだが。
* * * * *
静那の傍を離れない二人の男を見ながら不安そうな顔の女性陣。
部室内には、窓から差し込む西日と共に、少しだけ湿った初夏の空気が入り込んでいた。
けれど、それ以上に存在感を放っているのは、静那にべったりと寄り添う二人の「外敵」だ。
「で? 誰なの、この二匹の野生動物みたいなのは」
仁科さんは、怪訝そうな声に隠しきれない不快感を滲ませて言い放った。
彼女は腕を組み、不機嫌そうに二人の一挙手一投足を見据えている。
今日初めて彼らと対面した仁科さんと椎原さんは、内心穏やかではいられないはずだ。
「静ちゃんの金魚のフンみたいに後ろをずっとついてきてさ、なんだか気持ち悪いんですけど、この人達」
勇一は、部長としての責任感から、まずは全員を落ち着かせようと努めた。
「まぁ、そう言うなよ。一応、新入部員なんだからさ。……明らかに静那がお目当てみたいだけど」
勇一が苦笑いしながらフォローを入れるが、そんな周囲の空気などお構いなしに小谷野が口を開いた。
「初めまして。僕は小谷野弘之と申します。ここにいらっしゃる静那さん……この子の将来の旦那となる男です」
小谷野は、わざとらしく胸を張り、堂々とした口調で自己紹介を完結させた。
部室内を、墓場のような静寂が支配する。
女性陣はもちろん、隅っこで椅子を傾けていた生一でさえ、引いているのが分かった。
小谷野とやらの自己紹介が終わるやいなや、隣にいた兼元が弾かれたように声を上げた。
「ええ、さっきの小谷野とかいう輩の発言には、重大な事実誤認が含まれておりまして……
ええ、私こそが静那さんの真の旦那である、兼元賢太郎です」
兼元は目を光らせ、熱烈な視線を静那へと送った。
「将来は実家にマイホームを建てて、野球チームができるくらいの子どもたちに囲まれながら余生を過ごしたいと考えています。そして新婚旅行は――」
「待った! 本妻の旦那はこの俺でして、彼と静那さんは、一切の関係が無く――」
自己紹介という名目の時間は、いつの間にか二人の醜い愛の争奪戦へと成り下がっていた。
……静まり返る部室の中に、男たちの荒い鼻息だけが響いている。
二人の脳内イメージが、絶望的なまでに「たくましい」ことだけは認めざるを得なかった。
しかしながら自分達は一体何を見せられているんだろうかという空気が、部室を支配していた。
こんな時、少し気性の荒い仁科さんが真っ先に突っ込み役をしてくれるのだが、もはや呆れ果てて言葉を失っている。
彼女は男性というよりは、別の未知の生物を観察するような、冷ややかな眼差しを向けていた。
椎原さんはといえば、癒やし枠としての矜持を保つように、困惑を滲ませながらも静那と共に静かに見守っている。
「皆さん、彼の語る新婚生活プランには、『芯』というものが全く感じられません」
「今の意見を聞いて、はい! 兼元賢太郎君!」
生一が、あろうことか国会議事堂の答弁席に立つ司会者のような口調で割り込んできた。
「(さらに状況を滅茶苦茶にするのはやめてくれ……!)」
勇一は心の中で絶叫し、額を押さえた。
「そもそも、貴方の女性を見る目は誠に卑しく、同じ男性である私も遺憾に感じております」
「はい! 小谷野変態大臣」
生一が悪ノリを加速させると、小谷野もまた食い気味に応戦する。
「そちらこそ、裏でこっそりと女子の下着の収集を――」「ちょっとストーーップ!!!」
勇一は、これ以上教育上よろしくない単語が飛び出すのを阻止すべく、全力で間に割って入った。
彼らの会話は、一歩間違えれば底なしの泥沼へと引きずり込まれる予感しかしなかった。
「結局、お前ら二人はこの部活が何をするところか分かってんのか?」
勇一は二人を交互に睨みつけ、言い聞かせるように言葉を続けた。
「静那はベラルーシから来たんだ。椎原さんはアメリカからの帰国子女。
二人を中心に、日本の魅力を伝えるって目的で、先生が活動を許可してくれたんだよ。
その辺、ちゃんと理解してる?そういう部活動なんだよ、ここは」
勇一の説明を聞き、小谷野はさも当然だと言わんばかりに頷いた。
「それならば、静那さんに日本男児としての……すなわち、自分自身の魅力を伝えるということで、趣旨は合致しているのでは」
兼元もまた、どこかの貴族のような尊大な口調で追随する。
「静那さんは私の嫁。そんな嫁の生活をサポートする部活ならば、我々のメガネに適った活動ではないかね」
勇一は、なぜこいつらの口調が揃いも揃って『男爵』のような芝居がかったものになっているのか、疑問で仕方がなかった。
「なんか、卑猥な感じがするんだけど、本当に……大丈夫か?」
勇一の懸念に対し、小谷野は涼しい顔で返してきた。
「勿論だとも。卑猥と言ったが、それは貴公の考え方がそうであるだけで、私の嫁を想う至高の行為に何か不都合でもあるのかな?」
「……なんで自分が攻められてるみたいになってんだよ」
勇一は理不尽な反論に肩を落とした。
「それは君が、どうも合宿の時からトゲのある言い方をしているからではないのかね?」
「してないよ!」
何なんだコイツは……と感じ、勇一は頭を抱えた。
本気でムカッときたが、女性陣は沈黙を守ったまま。
勇一が部長としてこの難局をどう捌くのかを静観していた。
そこへ、当の本人である静那が、凛とした大人の対応を見せた。
「二人の旦那様!
私は日本のことがもっと知りたくて、先日は合宿に行きました。
これからも、もっと色んなことが知れたら良いなって思ってます。
だから、是非よろしくお願いします」
静那が大人の対応を見せた。
「嫁よ。これからはずっと一緒だ。分からないことがあれば、何でも僕に聞くがいい。いいね……ぐふッ!」
兼元が愛の言葉を囁こうとした瞬間、真横から鋭いタックルが突き刺さった。
突き飛ばされた兼元を尻目に、小谷野がすかさず静那との距離を詰める。
「嫁よ。困ったことがあれば僕に言うんだよ。僕は地球の裏側からでも、す~ぐ嫁の元に飛んでくるからね」
小谷野は静那の両手をがっしりと握りしめ、顔を不気味なほど近づけて熱弁を振るう。
「……じゃあ、二人の趣味は何? まずは趣味について聞きたいかな。ね」
静那は上手く受け流しているのか、それとも天然なのか判別しづらいが、会話を次の段階へと強引に移行させた。
「あああ、趣味ね。いいとも」
小谷野は満足げに鼻を鳴らし、再び芝居がかった口調で話し始めた。
「僕の趣味は、そうだな……嫁を愛でること……カナ♪」
小谷野が、あざとく小首をかしげて見せる。
「すいません。真面目にやってくれませんか?私たちも部員なんですけど」
流石に見過ごせなくなった仁科さんが、突っ込みを入れてくれた。
「なんだね、この乳だけの女は!」
「あぁ!? お前、ぶち転がすぞ!」
小谷野の失礼極まりない一言に、仁科さんの怒りメーターが音を立てて振り切れた。
「まぁまぁまぁまぁ、仁科さん! ここは抑えて!
小谷野君……小谷野!真面目に言えよ。
俺たちはまず君の人間性を知ろうとしてるんだからさ」
勇一は必死に仁科さんをなだめつつ、小谷野に再考を促した。
「まぁ、いいだろう。とはいうものの、僕は男子校育ちだったからね。長いこと、何かをこじらせてしまったようだよ」
小谷野は遠い目をして、自嘲気味に笑った。
「あえて言うならば……まだ見ぬ世界を見て回ること……下調べをしておくこと……かな」
「え……それって色んな場所を旅してみるって事、旅行ってことだろ?
もう、それならそうと言えよ。な~んか分かりにくい遠回しで妙な言い回ししてさ」
(※この頃はまだ『中二病』という言い方はなかった)
勇一は、彼の趣味が意外にも健全なものだったことに安堵の息を漏らした。
しかし、直後の兼元の冷ややかな一言が、部室の空気を再び凍りつかせた。
「こいつの『まだ見ぬ世界』っていうのは、大阪の風俗街のことやぞ。まったく、お前は相も変わらず変態極まりないよな」
「なっ! 何を言い出すんだね、君。失礼じゃないか! ブルセラショップに入り浸るような人間には、言われたくないねぇ」
初対面の挨拶もそこそこに、二人の口からはとんでもない性癖を暴露する言葉が飛び出した。
一同がドン引き……するかと思いきや、幸運なことにその単語の意味を正確に理解できているのは、仁科さんと生一、そして勇一だけのようだった。
「『風俗街』って何ですか?」
静那の純粋な質問が、静かな部屋に響く。
「あっ! 静ちゃん。そこは知らなくていいからね!本当に!
っていうか、あんたらァ! 何言ってんのよ!
この変態の風上にも置けない奴ら!」
仁科さんは顔を赤くして兼元を睨み据え、激しい口調で制した。
「なぜ、あなたは『風俗街』をご存じなのかな? さては、あなたもあそこに出勤されていたことが……」
「するわけないでしょうグゥアッ! 大体さっきから名前も名乗ってないのに失礼過ぎない!
あのさ、勇一っ! 裁量は任せるけど、さすがにどうなのよコイツら!」
仁科さんがご立腹だ。無理もない。
この部活の風紀を乱す輩だと肌で感じたのだろう。
こんな輩が二人も居座り続け、静那に四六時中つきまとえば、彼女に変な影響が出るのは明白だった。
「セクハラと嫌がらせでこいつら訴えようかしら!」
「1995年はそういうのまだないねん。時代の先取りすなよ!」
生一が訳の分からない突っ込みをする。
勇一が仕切り直す。
「とにかく、静那にも椎原さんにも、健全でまともな日本文化を教えたいんだよ」
勇一は部長としての責任を果たすべく、必死に言葉を選びながら仕切り直した。
「変な……いや、マニアックなことじゃなくて、普通に教えられるような趣味や得意分野は無いのかよ?」
勇一の説得に対し、小谷野が再び、何やら含みのある表情で口を開いた。
「だったら……」
小谷野が再び口を開く。くれぐれも変な事は教えないでほしいと願う勇一。
「女性の美、について……はどうだ」
「……う~ん。保留」
「何でダメなんだよ」
「……なんか、どうにも健全じゃない匂いがするんだよッ!」
勇一は本能的に危機を察知し、その話題を力ずくで遮断した。
「だったら、兼元の趣味なんかもっと酷いぞ」
小谷野の裏切りに、勇一は嫌な予感を覚えた。
「何だよ、あいつの趣味って……」
(もういらんこと言うなよ~静那もいるのに~)
『B面』では、主人公達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」の様子を描いています。
各話完結ですので、お気軽にお楽しみください。
尚、本編のストーリーとB面の話数は所々リンクしています。こちらを読んでから本編を読み進めていくとより楽しめます。
【読者の皆様へお願いがございます】
ブックマーク、評価は大いに勇気になります。
現時点でも構いませんので、ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです。
よろしくお願いします。




