13-1 ゲーセン
【13話/B面】Aパート
「静ちゃん。こっち。この台よ!この景品。」
テンション高めではしゃぎながら仁科さんが静那に声をかける。
ここは学校の部室…ではなく、町中にあるとあるゲームセンターだ。
結局学校の帰りにみんなで行く事になったのだ。
あくまで“たしなみ”という感じで見分を広めるのが目的である。
しかし1990年代のゲーセンの中というのはそれぞれのゲーム機器の音がその存在を誇示するかのように鳴り響くやかましい場所だ。
ゲーセン台には普通にタバコの灰皿も置かれている。
仁科さんが以前抱いていたイメージ…あまり良いところじゃないというのはこういうところから来ているのだろう。
初体験の“UFOキャッチャー”という名のクレーンゲームを終えて、仁科さん、椎原さん、そして静那は念願かなってGETした戦利品(景品)に対して盛り上がる。
「よっしゃああああ♪」
「これ面白いですね。ぬいぐるみもかわいいし。」
「おっ、静ちゃん興味持った?」
「うん。私このゲームはコツがいるなってすぐ分かったよ。この“掴むところ”がとにかく弱いですもんね。」
「そうだね。意外と正攻法で行ってもダメな所が奥深いよね~。」
「この“タグ”っていうんですか?ここ引っかけたら意外と持ってくれません?」
「もう、そんな事言ってたらもう1ゲームしたくなるじゃない。」
「鉄は熱いうちに打てって言うけどどうする?どうする?」
「そうね~まだ1体だけだし、もう1体狙っちゃおうかな。」
勇一がその様子を見にやってきた。
「なんだよ、3人ともすっかりハマってるな。」
「うん。勇一これ面白いよ。正攻法でいっても取れないところが特に。」
「ちょっと面白さの観点がよくわからないけど楽しんでもらって良かったよ。」
「白都君はどうしてるの?」
「俺は…その、向こうの対戦ゲームで生一にボコボコにされて…今たそがれてる。」
「あいつの言ってた2D格闘ゲームってやつね。あんな暴力的なの何が楽しいんだか。」
「仁科さんは知ってるのか?」
「たしか“ストⅡ”だよね。東京じゃ大会まで開かれててブームだったよ。興味なかったけど嫌でも学校内で情報流れてくるほど流行ってた。」
「うん。今は“スーパーストリートファイターⅡ”っていうのが人気らしい。」
「そうそれ!東京ではしょっちゅう大会があったのよ。大勢の男性が大画面にすずなりになってて…まぁ目立つもんよ。それで大盛況だから週に1回くらい運営が大会開いてたかな。」
「高いお金払って有名なタレントさん呼んだりしなくても労せず集客できるイベントだから味を占めてしまったんだね。」
「東京の催し物は、どれだけ人を集められるかが一つのステータスだからね。」
「多分これからもどんどんこの手の新作が作られていくんじゃないかな。…てか仁科さんゲームセンター否定派だったにしては随分詳しいけど。」
「だから嫌でも都内の学校内で情報が飛び交うコンテンツだったからよ。女子高生って“自分だけ知らない事”っていうのに対しては敏感だからね。
それが例え興味ないモノだったとしてもさ。」
「そんなものなんだ…だったら都会ってやたらとお金がいるのも分かるかも。」
「でしょ。」
「あああああ!」
ふいに横で叫び声が聞こえた。
クレーンゲーム台の奮闘結果だ。
椎原さんと静那が協力してお目当てのぬいぐるみをGETしようとしたのだが、残念ながらうまく取れなかったらしい。
「静那もそうだけど椎原さん。なんて声出してるんだよ。もう完全に虜になってるな。」
「認めたくないけど、このゲームははまるね。」
「うん、コレどうしても取りたいっていう欲望をよく引き出してるよね。」
「そうね。このままモヤモヤして帰りたくないし…でもどこかで引き下がらないといけないし…もうその辺りの自分との心理戦?」
「俺やってみようか?」
勇一がコインを入れる。
「勇一っ!やるの?」
静那が興味津々で見てくる。
「上からガシッと掴んでも駄目だよ。ネームタグあるでしょ。あれに引っかけるんだよ」
数ゲームしかプレイしていないのに随分玄人的なアドバイスを入れる静那。
一瞬がっしりと景品を掴む。
そしてゆっくりと景品を持ち上げるクレーン。
「やった!」
勇一がそう叫んだ瞬間、ボトッとぬいぐるみは落ちてしまった。
「腕力ないな~」
「う~ん。そうなんだよね~」
静那は笑いながら残念がる。
意中の景品が落ちた所は景品が落ちてくる手前だ。揺すったら落ちるかも…ついそう考えてしまう位置である。
「う~ん。今の状態で震度2~3くらいの地震が起きたら取れそうなんやけどな。」
生一が様子を見に来た。
「不謹慎な事言うな!」
「ボスはやらないですか?クレーンゲーム?思ってたよりもずっと楽しくて…」
「俺はそれよりもあっちの対戦台の方がええんでな。」
「あぁ格ゲーね。まぁ頑張れば?」
「ということで静那よ。俺が格ゲーの何たるかを教えてやる。来い!」
「え?あ、はいボス!」
「ちょっと勝手に静ちゃん持ち出さないでよ!」
「静那所持物みたいに言うなよ。あと無理にゲームやらすつもりはないから。簡単なレクチャー、簡単な!
それにそこにずっと立ってたらまた悶々としてクレーンゲームにお金投入するだけやろ!」
「確かに…」×2
妙に納得する仁科さんと椎原さん。
「あいつなりに自分の“好き”を知ってもらいたかったんじゃないかな。だから俺も止める気は無かったし。」
「……まぁあのバカ2人の趣味と比べたら遥かにマシか…つかあの2人はどこ行ったのよ?」
「それは…秘密…かな。」
「なんか麻雀のゲーム台で熱心に遊んでたね。」
「そうだね椎原さん。でもそれ以上の詮索はやめてあげてね。」
そんな麻雀ゲームのエリア内に、対戦格闘ゲームの台も配置されている。
「静那よ、ここが対戦格闘ゲームのエリアや。
台が対になってるやろ。
これで顔が見えんモノ同士で対戦するねん。」
「対戦ですか?ボス。」
「せやで、ちなみに卑怯な攻撃をする事により、よりリアルな対戦へ発展さす事も可能や。」
「リアルですか…それはちょっと…」
「この画面見てみ。キャラ選択画面なんやけど…
このキャラの中から1人使うのを選んでそれで勝ち抜き戦やっていくねん。」
「いっぱいいますね。」
「せやで、いっぱいいるけど皆違うキャラなんよ。“みんな違っててみんないい”ってやつ。」
「その考えいいかも!私共感できますよ。」
「でも問題もあんねんなぁ。」
生一はあくまで静那にゲームをやらすわけではなく、対戦が行われている様子を見ながらレクチャーする。
「自分の好きなキャラを選んで使って対戦するってので勿論ええんやけどな。ゲームって人間が作るもんやろ。
どうしても“強キャラ”いうんが出来てしまう。ようするに強いキャラや。
このゲーム、対戦の大会があるんやけどな…どうしても強キャラばっかり選ばれる傾向があるねん。
今向こうが使ってるこのキャラ…まあ強いんやけどとにかく“固い”ねん。」
緑色のタンクトップを来た軍人キャラを指さしながら説明する。
「固い?防御面が強固ってコト?」
「なかなか飲み込みが早いな。ここ見てみ。」
生一は体力ゲージの間に挟まれている数字を指さす。
「ここがタイムオーバーになったら試合は強制終了やねん。どんな凶悪なラスボスもなぜか必ず守る恐るべき鉄則やねんけどな。」
「なるほど。防御面が固いキャラだとタイムオーバー狙いもいけるということですね。」
「おまえちょっと見込みというか適正あるかもしれんな。
まぁそういう事で、対戦の時“待ち○○〇”っていうのが流行って嫌がられてたな。勝つためには手段を選ばんくなってきてな。」
「へえ…」
対戦の様子をじっと見る静那。
生一はもともとゲームをやらすつもりは無かったようで、ある程度対戦の様子を見せた後、席を立つ。
「まぁ俺の趣味もちょっと知ってもらいたかっただけやから、そろそろ戻るか。次いく所もあるやろうし。」
「あ、良いんですかボス?」
「何が?」
周りの音がうるさいので、静那が腕を持ち顔を近づけ、上目遣いになりながら生一の耳元で話しかける。
「その、……しなくて。」
「お前ドキッとさすなよな!モジモジしながら言いやがって、何か別の事想像したやろ!」
「え?私何かしたっけ?」
「いやもうええよ。戻るで。」
「あの、さっきのゲームの名前は?」
「スーパーストⅡや。なんか感じた事あったか?」
「さっきの“強キャラ”の事なんですけど。結果として弱いキャラクターは使われなくなるんですか?」
生一はニヤリと笑う。
「そこが奥深いところやねん。まぁこの辺は作り手もよう考えてると思うけどな。
弱いキャラでも練習重ねたら上手くなるねん。そのキャラ特有の強みも分かってくる。
それで弱い言われるキャラでさっき言った“強キャラ達”に勝てたら爽快やんか。」
「なるほど、ボスがこのゲーム好きなのちょっと分かったかも。
…ってことはボスはもちろんこのキャラは使わないんですよね。」
「当たり前や。弱いモンが強いモン倒すからおもろいんやで。どんな世界でもな。」
* * * * *
「おいゴリラ野郎。」
「なんだ、サル野郎。」
「ここに都合よく2台、脱衣麻雀のゲームが連なってるのだが。」
「それがどうした。俺はこの子が好みなんだが…」
「んな事聞いてねぇよ!今から同時にこのゲームを行う。対戦だ。」
「ほう。」
「ルールはいたってシンプル!“先に乳出させた方が勝ち”っていうのでどうや。」
「勝ちというと…。」
「勿論対価はある。この後の静那ちゃんの下着のコーディネート権をかけるってのでどうだ?」
「ふむ。もしゲームに負けたとしても爽やかな心でいられる…悪うない。」
「決まりだな…では、いざ尋常に……勝負ッ!」
その声と同時に2人はコインを勢いよくチャリンと入れる。
そしてそこから実にバカなバトルがはじまるのであった。
『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々課外活動で外出もします。
各話完結型ですので、お気軽にお楽しみください。
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