6-2 リクエスト
【6話/B面】Bパート
「ええと……お話のまっただ中でしたか?」
教室に入った静那は、好奇心を隠せない瞳で一同を見渡した。
「静那、その日本語ちょっとおかしいで!」
生一が突っ込む中、椎原さんが優しく静那を迎え入れた。
「ええ、静ちゃんが知りたいことって何だろう、聞きたいことでどんなリクエストがあるんだろうってみんなで考えていてね。
静ちゃんが興味持っていることがあれば、是非調べてこようと思って。
テストも終わった上に明日は学校が休みでしょ。
私は図書館に行く予定だし」
「そう、俺たちも先入観があったりして、意外ときちんと物事を理解してなかったこともあるな~って感じてさ。何かリクエストがあれば調べてみようと思うんだけど……何かないかな?」
急に振られても困るとは思ったものの、一応静那に聞いてみる部長の勇一。
「思ったこと、何でも言うてええで」
生一が促すと、静那は女性陣の方へ視線を泳がせ、少しだけ顔を赤らめた。
「恋愛……とか、どうかなって」
恥ずかしそうにリクエストを口にした。
「えぇえ、恋愛~? 静ちゃんも興味あるんだ、恋の話」
静那は手元のノートを少しだけ強く握りしめた。
「私は……その……まだ恋愛に関してよく分からなくて。それで、先輩たちに出来れば聞いてみたいな~って……思って」
「良いね。それ、女の子として素敵よ」
椎原さんが、前向きな姿勢を見せた。
「私も正直よく分かってない所があってさ。でももう高校生だし、勉強も大事だけど、そういう感情も知っておきたいなって感じてた」
「椎原はクラスメイトとかで今、好きな人おらんの?」
生一の質問に、椎原さんは穏やかに首を振った。
「まだいないかな。男子生徒もまだ、恋愛よりゲームやカラオケが好きな子が多いみたい。うちのクラスは特進だからか、とにかく勉強ばかりで……だから空き時間ができたら、恋愛よりもまずは気分転換したいっていう子のほうが、まだまだ強いみたい」
苦笑いする椎原さん。
確かに根を詰めたテスト期間が終われば、まず羽を休めたいという発想になるだろう。
「みんな、恋愛に興味がない訳じゃないんだけどね。私も、テスト終わったらまずゆっくりしたいし……ね~」
「じゃあ、今後の椎原さん自身のためにも、今回は『恋愛』について調べてきてもらおうか。今週末を使って」
勇一がまとめると、椎原さんは「テストも終わったし、良いきっかけだよね。いいよ。そういえば、仁科さんはどうなの?」と尋ね返した。
「私は……恋愛っていう程じゃないけど。中学の時、付き合いかけた子はいたかな」
「つきあいかけた? 微妙な言い方やな」
「それって、彼氏さん?」
「そんなでもないよ。私たちお互いまだ幼くてさ。考えがガキっていうか。
ほんの些細なことで振り上げた拳……降ろせなくなって。それでそのまま、うやむやになったまま。苦い思い出となって残ってる」
「急にポエム口調になりやがった」
生一が突っ込む中、静那が不安そうに聞き返した。
「仲直りしないまま、お別れしちゃったんですか?」
「うん。今考えたらマジでバカみたいなことなんだけどね。
きちんと素直になってあやまればよかっただけなのに、意地張ってさ。プライドとかメンツのバカバカしさに気づいたきっかけにはなったけど……あの時は自分の愚かさにホント嫌になったな~」
仁科さんは、自嘲気味に笑った。少し黙り込む面々を見て、彼女はすぐに空気を察知し、明るい声を出した。
「コラコラ。だからって、そんな深刻にとらえないで良いよ。
もう昔みたいなヘマはしないって決めてるし。相手が、例えあんた(生一)でも、悪いと思えばきちんとあやまるつもりだし」
「何? その言い方。ヒデェの」
生一が顔をしかめると、仁科さんは静那に向き直った。
「静ちゃんともずっと仲良くしたいから。悪いと思ったら、きちんとあやまる……うん。それは決めてる」
「悪いだなんて……先輩」
静那の言葉に、仁科さんは少しだけ照れくさそうに微笑んだ。
「ホラ。私、この前、感情が先走って静ちゃんに一方的にお勧めしたいもの押し付けて困らせたじゃない。ああいうことって、もしかしたらまたやっちゃうかもしれない……」
彼女は、静那の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「でもさ、その後『申し訳ない』って、ちゃんとあやまればいいのよ。
変なプライドなんか持たずにさ。
そこが自然に出来るようになったら、この先出会う好きな人や大切な人とも、うまくいくかもって思えるし。
それが出来ずに、中学の時はすっごい後悔したからさ……」
「じゃあ、仁科さんの観点からも『恋愛』を調べてきてよ」
勇一が話を戻すと、仁科さんは「調べるって言ってもな~、今彼氏いないし」と肩をすくめた。
「分かる範囲で良いって。今回は皆、初心者みたいなものなんだから。そういえば、静那は恋愛自体は……してたりするの?」
「(勇一、今のはさりげなく聞いたよね~ごく自然で上手かったかも~)」
仁科さんは、内心でニヤリとした。
「うん……分からないから、してないかな」
「好きな人は?」
「パッと頭に浮かぶのは、お父さん……かな?
でも、これは多分『恋愛』じゃないかな。お父さんはもちろん大好きなんだけど」
残念そうな笑みを浮かべて勇一を見る仁科さん。
「じゃあ静ちゃんはお父さんのどんなところが好きだったの?」
椎原さんの質問に、静那は少し目を伏せた。
「いっぱいあるけど……私の髪が綺麗だっていつも褒めてくれたことかな。
それがすごく嬉しかった。勇一も、初めて会った時に髪を褒めてくれたから……すごく印象に残ってる」
「えええ!? あんた、初対面の相手に対していきなり『髪キレイ』って褒めたりしたの? もうそれ、立派なナンパじゃない! 勇一ってそんなに大胆なキャラだったワケ?」
仁科さんが驚愕の声を上げた。
「いやいやいや! 俺もあの時は、変な男に絡まれた静那を逃がすために必死でっ!
それで逃げた後、お互い沈黙があったんだよ。変な間ができたから、なんか俺から言葉かけないとって思ったら、無意識に言葉が出たんだよ。自分でもビックリしてる」
勇一は、顔から火が出るほど真っ赤になりながら必死に釈明した。
「何、自分じゃない誰かが言わせたみたいな言い方してんのよ!」
「でもその後、勇一と色々話をしていたら。好物がお父さんの好きな食べ物と一緒だし、何気ないしぐさもすごく似てて……」
静那の言葉に、仁科さんが追い打ちをかける。
「じゃあ、お父さんに面影が似てるから、勇一には心開いてるってことなのね。勇一部長~残念だったね~」
「何だよ! 別にいいよ、残念でも」
勇一が不貞腐れると、静那が真っ直ぐに彼を見た
「だから私、勇一が好きかな」
勇一の動きが、一瞬止まった
「え……そうなの?」
「うん」
「待って! ニュアンスからして、まだ安心しちゃダメなんじゃない? 『好きかな』なんだから」
仁科さんの仕切りに、勇一がムキになって返した
「なんでそんなに真剣に仕切るんだよ!」
「日本語、難しいな~
日本語は、あいまいな言い方多いねんで」
生一が横から口を出すと、静那は申し訳なさそうに微笑んだ
「私も、好きっていう感情……まだ分からないからさ。こんな言い方でごめんね」
「じゃあ、今の所、暫定一位は勇一っていうことでいい?」
「暫定?」
静那が首を傾げた
「一時的な仮決め、っていう所かな」
仁科さんの解説に、静那は「それなら、暫定一位だよ」と微笑んだ
「良かったね~暫定でもさ」
「何だよもう! 今日の女性陣は」
勇一が呻くように言うと、静那が不思議そうに覗き込んできた
「良かったの?」
「……うん。ああ……もちろん。静那は、大切な……後輩なんだから」
「なら良かったよ。好きになって」
「好きになってって……なんだかくすぐったい気持ちだな」
「なに焦ってんのよ。まぁ、まだ小学生レベルかな、お主は」
仁科さんの言葉に、勇一は観念したような表情を女性陣に向けた
「恋愛の達人みたいな目線で言うなよな。……否定はしないけど、もう少し長い目で見てくれよな」
「はいはい、じゃあ静ちゃん。恋愛の講義、楽しみにしててね」
「はい。楽しみです」
* * * * *
その後、楽しそうな女性陣の会話を尻目に、生一が勇一に小声で賭け事を持ちかけてきた
「なんだか今回のリクエストは、女の子同士で盛り上がりそうな話題やんな。
西山にも、絶対声かけとけよ」
「なんでだよ。あいつテスト終わって忙しそうだぞ、生徒会の方が」
「椎原が、わざわざ自分の恋愛観を話してくれるんやぞ。あいつが生徒会とどっちを天秤にかけるか、見てみたいねん」
勇一は、西山の真面目な顔を思い出した
「俺は……すごく忙しそうにしていたから、おそらく西山は生徒会の方へ行くと思うけど……」
「ほーん。そうかい。
じゃあ、賭けようや。三千円! どうよ。
俺はあいつに告知さえすれば、部活に顔出す方な」
「私も同じで三千円。乗るけれど、勇一はどうする?」
話を聞きつけた仁科さんが、不敵な笑みを浮かべて参戦してきた。
「ちょっ、仁科さんまで!(聞いてたのか~) ……もう……意地悪いな~」
「そんなこと無いよ。素直にそう思ったんだし。
それに、たまにはそっちのノリにも合わせようと思っているだけだから。
で、どうするの? 賭ける?」
「う……やっぱり、こっち(部活)を選ぶと……思うから、辞めだ」
勇一の弱気な答えに、生一が「コイツ、逃げやがったな」とつまらなそうな顔を見せた。
「やっぱり勇一部長サマは、まだまだヘタレだね~」
「そこは同意するわ」
勇一は溜息を吐き、茜色に染まり始めた校庭をぼんやりと眺めた。
『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々課外活動で外出もします。各話完結型ですので、お気軽にお楽しみください。
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