8-2 ファーストフード店の作法(?)
【8話/B面】Bパート
「静那はまだファーストフード店って行ったこと無いん?」
「はい…まだです。」
「そりゃあ高知県にはまだそういう店がないんだから仕方ないだろ。」
「いや、それはさすがに一回は行っておいたほうがええで、さすがに“化石”言われるで。」
「そんな事ないって。高知県はまだマック無いんでしょ?だったら良いじゃない。あのさ、静ちゃんまだ高校に入ったばっかりなんだからそんなお店に無理して行く必要は無いの!」
「でもお前は中学ん時…東京おるときに行ってたやろ?友達とかと。」
「そりゃ行ったことはあるけどさ…そんなに行かないといけないようなお店でもないよ。」
「そうなの?俺の中のイメージだけど、朝までファーストフードで、皆たわいもないような話をして盛り上がる場所だと思ってたけど。」
「確かに東京じゃ学生が集まってワイワイ話する場所としてはいい場所なんだけどさ…安いし。
でも全体的に不健全だからお勧めしないよ。
それに変にお腹が張っちゃうの。
結局帰って夕ご飯食べられなくなって、お母さんに怒られた事あるし。」
「でも学生のたまり場としては人気なんやろ?
大阪にもマクドはある。でも高知県内はまだお店が無い。なら静那にファーストフード店での作法みたいなのを予行演習で教えておくのも悪くないんと違うか?」
「作法?」
「そうや。あそこ“大企業のマニュアル”に沿って色々聞いてくるやろ。それにいちいち受け答えせんと意中の品物買うまでたどり着けんやん。」
「なんか複雑に考え過ぎじゃないのか?“品物買うまでたどり着く”とか…」
「そういう勇一はマクド行ったことあるんか?」
「いや…ニュース番組とかで存在は知ってるけど、実際に行ったことはまだ…。」
「そやったら憶測でモノ言うたらいかんやん。普通のお店よりも遥かに難解なんやぞ。あの店。」
「藤宮君。流石に難解っていうのは考え過ぎじゃ…。注文を言えば買えるって説明でいいよ。」
「いうてもやで、決めてもセットとか色々追加で聞いてくるねん。
俺らの視点から見たら対処は簡単かもしれん。でも静那の視点から見たら、初めてお店行った時にあれこれ聞かれたら混乱するやろ。
普段から自分達日本人目線でモノを考えないようにって心がけてるのがここの部活のモットーと違うか?」
「モットーにした覚えはないけど、確かに自分達の視点だけでモノを見て伝えても静那には分からないかもしれないからな…一応、作法?だったっけ?
悪くはないんじゃないかも。」
「勇一!あんた簡単に論破され過ぎよ!」
「だって仁科さん。静那にはもしかしたら難解かもしれないよ。静那はお店…レストランとかに食事に行ったことは?」
「2年前くらいに一度あるよ。和食のお店だった。」
「どんな感じのお店だった?」
「そうだね。メニューを渡されて好きなのを選ぶんだよね。それで注文したら本当にメニューに掲載されている写真と同じものが運ばれてきたんだよ。あの時は感動したな~。」
「その程度で感動するんか?」
「コラ!“その程度”なんて言わないの!静ちゃんにとっては初めてだったんだから。自分達の目線だけでモノを見ないの!」
「俺らも“初めて”の時は感動できるんやろうか…」
「何の話?」
「いや、今のは何でも無いねん。
とにかく!
ファーストフード店はそういう一般のレストランとちょっと形態が違うのは事実や。初めに細かい設定を聞いてくるから全てに応対して、お金もその時に先払いする。システムいうものが違うんや。
レストランは支払い大抵最後やろ?そこからして違う。
ファーストフード店は今後絶対高知県にも出店あるやろう。
そんで恐らく都心みたいに学生が楽しく話したりするスポットの一つになる。
そこでや!
前もってファーストフード店の全容を知っておいた方が、同世代の友達より一歩先にリード出来るんでないかと思うわけよ。
さらに静那に後輩が出来たらやさしくエスコートも出来るしな。」
「成程!ボス。だからあらかじめ店の作法を学んで対応できるようになっておいた方がいいと…こういうワケですね。」
「まぁ分かればええんや。」
「作法って何するんだよ。生一。」
「まぁ見とれや。俺がファーストフード店の店員になったるから、静那はお客さんとして接客される。
模擬注文をするんよ。」
「なんか不安なんだけど…。」
「お前勝手な先入観持つな。ファーストフード言うんはスピードが命やねんぞ。“ファースト”いうて名前がついとるだけあって。」
「そうだったっけ…」
「成程。為になります。ボス。スピードも大事なんですね。」
「おう。じゃあ俺が応対したるから店に来たと思うてやってみるぞ。
あの部室のトビラが店のドアやと思うて一回やってみろ。
メニュー表は手書きで書いとくから。」
「分かりました!」
「(コレは一体何をやってるんだ…)」何とも言えない表情を見せる勇一達。
* * * * *
「カランコロンカラン」
「口で言わんでええねん。あとそんな呼び鈴せえへんから。」
「そうなんですね。覚えておきます。」
「いらっしゃい。何にする。」
「ええっと…何にしようかな?」
「早よ決めや。」
「えっ…は、はい。じゃあ、あの…チーズバーガーを。」
「チーズバーガーだけでええんか?」
「あ、はい。」
「普通やとお前チーズバーガー頼んだらコーラかなんかも注文するもんやぞ!」
「そうなんですね。じゃあコーラを。」
「ポテトわい?」
「え?ポテト?」
「セットで安なっとんのや。こういうのは注文せにゃ損やぞ。」
「じゃあ、ポテトも。」
「新発売のてりやきバーガーはどうや?」
「あの…でも私、そんなに食べ…食べられないし。」
「俺がすすめたもんが食えんちゅうのか!」
「あ、じゃあ…それも。」
「ここで食うんか?持って帰って食うのんかどっちや?」
「じゃあお持ち帰りで…」
「ここで食え!」
「え…?」
「その方がお店としても楽やねん。ここで食え!」
「はい…じゃ、じゃあここで。」
「金払え。」
「あの、おいくらですか?」
「690円や、今の時代は信じられんくらい安いな。おっ1,000円か?釣りはいらんな?」
「いえ…あの、お釣りを…」
「ケチケチすんなぁボケェ! ほら、出来上がりや!さあ食えっ。」
「あ、あのここでですか?」
「そうや。ここでや!どや、うまいか?うまいか?」
「あ…そうですね。美味しいという事で。」
「そやったら早う食ってしまえ!後ろがつかえとんのや。トロトロ食うてたら後ろの人待たすことになるんやぞ!」
「はいッ!ご、ごちそうさまでしたッ!」
「よっしゃ。明日も来いよ!絶対来いよ!来なんだらこっちから訪ねていくからな!顔は覚えとるぞー!」
* * * * *
「どやったよ?初めてのファーストフード店模擬体験は?」
シュンとした表情を見せる静那。
「私、自信なくなりました。
ファーストフード店ってこんなに急いで決めて食べないと怒られてしまうんですね。顔も覚えられるって…なんだか指名手配犯みたいで辛かった。
私…ファーストフード店行くの…向いてないと思いました。」
「そんなファーストフード店があってたまるかボケェ!!」
「静ちゃん。あれは全くのウソだからね。あんなふざけた定員さんなんていないからね。」
「そうなんですか?でも“ファースト”なんですよね。早く食べて次の人に回さないと迷惑が…」
「それも違うから!注文したらね、料理を手早く用意してくれるのよ。あらかじめ作って温めてある料理だから“ファースト”なのよ。確かそうよ。食べる席もちゃ~んとあるから!」
「あぁ、そこが“ファースト”なんですね。」
「そう。あのバカの言う“ファースト”は出鱈目だから気にしなくても良いのよ。」
「じゃあ店員さんもそんなに急かしたりは…」
「もちろんそんなことしないから!本ッ当にあのバカの言う事は聞かないでもいいからね。」
「でも血液型で微妙に接客対応変わるで…A型やったらやたら細かいとか…」
「もうあんたは喋んなくてヨシ!」
「もう藤宮君、変な事教えなくていいから。静ちゃんももしファーストフード店が出来たら、私たちと一緒に行きましょう。
実は私もまだ日本の方は行ったことがないから。
日本のスタイルはアメリカとどう違うか見てみたいなって思ってる。お店が出来たら行こうね。違いがあれば話すから。」
「はい。その時はお願いします。」
「あの…あと…その…。」
申し訳なさそうに生一の方を見る静那。
「何やねん。」
「さっき渡した1,000円…返してもらってもいいですか?」
勇一&仁科「お前どさくさに紛れて何やってんだ!後輩から金とるな!」
ファーストフード店として日本でも認知力が高い『マクドナルド』は、1998年〔平成10年〕にやっと高知県で初出店を果たすことになり、これにより全都道府県への出店を達成することになるのだが…これはまだ先の話である。
『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々課外活動で外出もします。
各話完結型ですので、お気軽にお楽しみください。
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